第11話 書き記(しる)しておく!

文字数 2,320文字

「ろ、(ろう)が見つからなかったら──ど、どうしようかと──」

 やった! (ろう)から出しに来てくれたんだとアイリ・ライハラは涙目になった。だが言葉途中で王妃(おうひ)の顔が下に隠れ星空が見えた。

「思っていた────の」

 2本の鉄格子(てつごうし)をつかんで声だけが聞こえる。それをアイリはじ~と見つめた。

「くるんくるん、お前何やっているんだよ?」

「か、か、肩車をしてくれるヘルカ・ホスティラが、し、しろぉ、城のどこかで迷子になって待ち合わせ場所にこなかっ────」

 また王妃(おうひ)の顔が窓下に隠れてくるくるした髪だけが見えた。

「──たのよ」

 鉄格子(てつごうし)をつかむ指が血の気を失い手がぶるぶる震えている。


「くるんくるん、窓にぶら下がってんの?」


「う、うるさいわね! あ、あ、あなたの(ソード)の上に、たぁ──っ、立ってるからよ!」


 (ソード)の上に立つ!? くるんくるんがそこまで器用だとアイリは想像したこともなかったが、言い終わるなり王妃(おうひ)が高窓からずるずると消えてしまい少女は窓下にいるであろうイルミに不満をぶちまけた。

「くるんくるん、(ろう)の裏から来るってのは、やっぱりあの異端審問官を黙らせられないから私──拷問(ごうもん)されて、魔女裁判かけられるわけじゃん」

「し、心配いらないわよ。ごぉ、拷問人を────抱き込んだぁから」


 抱き込んだ(・・・・・)!?

「ぶひ!」

 アイリはちょっとイヤらしい事を想像してしまった。

「あっ! あなた! なに勘違いしてるの! そ、そんな事しないわよ! 手を握って耳元に(ささや)いただけよ」

 手を握って言い寄った!

「ぶひひ!」

 イルミ・ランタサルがそこまでチョロい女だとは知らなかったとアイリ・ライハラは赤くなり、当の王妃(おうひ)がいつの間にか高窓から(のぞ)き込んでいた。

「あなた、そんなつまらない知識を誰から吹き込まれたの!? 湯浴(ゆあ)みで背中を────」

 い、イルミ・ランタサルは誰とでも風呂に!

「ぶひぃぃ!」

「こら! アイリ!」

 指さした王妃(おうひ)が高窓下の地面に落ちた音が聞こえきた。

「大丈夫?」

「痛たたぁ────まあいいわ。(ソード)を受け取りなさい」

 (ソード)を受け取れってここは牢獄なのだぞとアイリは驚き高窓を見上げた。


 がっちゃん。


 高窓の左右に(スキャバード)がぶつかり音が響いて(ソード)が外に落ちた。


 がっちゃん。


 また高窓の左右にぶつかり(ソード)(スキャバード)から抜けて2本が落ちイルミ・ランタサルが(わめ)き逃げる声が聞こえた。

「ひえぇぇ! ────真っ直ぐに向けて投げ上げないと無理ね」

 当たり前だろうと少女は思った。


 ひゅん。


 (ソード)が飛び上がった。アイリはいけるかと期待した。


 がっちゃん。


 鉄格子(てつごうし)に命中し窓外に落ちていった。

 あいつめちゃくちゃ鈍くさいんじゃねぇのかとアイリは思った。いいや、鉄格子(てつごうし)(スキャバード)の尖った先をぶつける方が難しい。

 その後、何回やっても鉄格子(てつごうし)にぶつかり、少女は呆れかえりながらも感心した。指折り9回も鉄格子(てつごうし)に命中させている。

 待つアイリの方が根負けして断った。

「もういいよ。どっちみち見つかったらまた取り上げられるし」

「ちょっとお待ちなさい!」

 イルミがそう告げ高窓から何かが転がり落ちぶら下がった。アイリがよく見ると(ひも)の先に大きな結び目を作り投げ込んであった。

 一発で入れれるじゃん!

(ひも)を引っ張りなさい!」

 少女が(ひも)を手繰り寄せると、鉄格子(てつごうし)に横向の(スキャバード)が引っかかった。

「うわぁ」

 (スキャバード)の真ん中に(ひも)を結んだら駄目だろうがぁ。

「なによ下手くそね」

 窓外から王妃(おうひ)(なじ)られアイリは言い返した。

「うるせぇ。そっちが悪いんだろうが」

 そう言い返し少女が(ひも)から手を放すと落ちた(スキャバード)がぶつかる音が聞こえた。

「ちょっと何するのよ! 痛いじゃない!」



「騒がしい奴だな! 何を1人で(しゃべ)っている!?」



 いきなり鉄格子(てつごうし)の前に(ろう)番がやって来て手にした松明(たいまつ)で監房を照らし(のぞ)き込んだので振り向いたアイリは片手で頭をかいて苦笑いを浮かべ言い訳した。

「す、すみません。(さみ)しくってつい」


 すっぽ────ん!



 高窓から飛び込んできた長剣(ロングソード)が少女の後頭部に命中しアイリは前にひっくり返り顔から石畳に突っ込んだ。



 (こぶ)のできた頭を片手で押さえアイリが顔を上げると(ろう)番が指さし怒鳴りつけた。

「き、きさま、魔法使って(ソード)を作りやがったな! やっぱり魔女だぁ! 厳達(げんたつ)! 異端審問官様へしたためておく!」

 (ろう)番が松明(たいまつ)を壁の受けに差し込み腰に下げたなめし革の台帳を手に取り胸元から羽根ペンを取り出すとがりがりと書き出したので、(かぶり)振る少女は(あわ)てて身体の後ろに長剣(ロングソード)を隠したが、頭の上から(スキャバード)とハンドルが丸見えのまま弁解した。

「ち、違います! こ、これは────」

 アイリが言い訳を考えていると高窓から笑い声が響いた。

「ほ────ほほほほっ! ちょっとアイリ! ()めなさいよ! ストレートで入れたのよ!」


 驚いた(ろう)番が身体を左右に振り(ろう)の隅々を見渡し少女を指さし怒鳴った。

「き、きさま、魔法で誰かを隠しているな!」

 アイリ・ライハラが顔を引き()らせ(かぶり)振り王妃(おうひ)の声色を真似た。

「おほほほほっ! ちょっとぉアイリ! 褒めろよ! ストレートで入れたじゃん!」

 (ろう)番が壁に後退(あとず)さった。

「声が全然違うぞ! き、気味悪い! 注進! こ、これも書き加える!」


 あの馬鹿ぁ! お前のせいで本当に魔女にされちまうじゃねぇか!


 アイリ・ライハラが顳顬(こめかみ)に青筋を浮かべ顔を(ひず)ませるとまた後頭部に何かが飛んできて命中し少女はつんのめった。

 ころん────。

 アイリの前に林檎(りんご)が転がってきた。

「それは差し入れよ! もう行くから明日に備えてよく寝ておきなさい!」


 アイリ・ライハラは顔を上げると(ろう)番がじっと転がった林檎(りんご)を見つめ羽根ペンを止めているのに気づいた。



 破れかぶれになりいきなり少女はその果物を素早く拾い上げ(ろう)番へ投げつけた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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