第21話 身中の虫

文字数 1,873文字

 眼にしたものにどん引きしてしまう。

 アイリ・ライハラとヘルカ・ホスティラ、それと第6騎士のエステル・ナルヒがデアチ国城に戻るなり、王妃(おうひ)イルミ・ランタサルへお目通りを願った。

 ────というか、ぶっちゃげイルミに捕らえたものを見せびらかしたくてアイリは謁見(えっけん)()に駆け、玉座で待っていたイルミ・ランタサルは猛獣系魔物を期待したが、アイリの下げたさして大きくない革袋を見て唇をねじ曲げた。

「アイリ、北極うさぎでも捕らえて来たのですか?」

 一気に興味なくした王妃(おうひ)は投げやりに尋ねた。

「うんにゃ、イルミ。もっと珍しいもん」

 袋からペンギンの子でも出てきたら多少は感心するがと王妃(おうひ)はアイリに早く見せよと(うなが)した。

「いいから捕まえてきた小動物なり、虫の(たぐい)を早く見せなさい」

 アイリが(うなづ)いて革袋の口ひもをほどくと袋の底をつかんで一気にひっくり返し赤いカーペットの上に中身を落とした。


 ぼと、と落ちたのはアイリ・ライハラの背丈ほどの黒光りする蛇。


「うぅ──ただの蛇じゃないの──」

 気持ち悪いと王妃(おうひ)は顔をしかめた。その王妃(おうひ)イルミ・ランタサルにアイリの(かたわ)らに控えるヘルカ・ホスティラが説明した。

王妃(おうひ)様、ただの蛇ではござりません。こやつ魔王サタンのなりの()て。元は闇そのものにござりまする」


「魔王サタン────!?」


 イルミ・ランタサルは玉座で腰を浮かしどん引きしてしまった。本当にサタンなら大変な偉業だが、いくらアイリ・ライハラが強くてもヘルカとエステル・ナルヒの3人で倒せるようなものでもあるまい。噂には勇者などを含む異業種の数十人混成隊ででも無理だと聞いたことがある。

 細めた眼で黒蛇を見つめていると動いたような気がして王妃(おうひ)(たず)ねた。

「そ、そいつ────生きているの?」


「はい!」


 カーペットに片膝(かたひざ)つく3人が声を(そろ)えイルミ・ランタサルは小さく悲鳴をあげ(あわ)てて玉座の背もたれの後ろに逃げ込んだ。

「倒したんじゃないの!? なんで生きてるサタンを──! さっさと倒しなさい!」

 王妃(おうひ)が命じるとアイリ・ライハラがそれは無理だと言い始めた。

「イルミ、無理だよ。魔王は人の手では倒せないからさぁ」


 背もたれの(きわ)から王妃(おうひ)(のぞ)くとぬらぬらと黒蛇が(うごめ)き始めた。


 とたんに3人が寄って(たか)って黒蛇をげしげしに蹴りつけた。すぐに黒蛇はたまらんとばかりにとぐろ巻いて動かなくなってアイリが説明した。

「大丈夫だよ、イルミ。こうやって弱らせておけば復活しないから────」

 だ、大丈夫じゃない! 誰かが見張っててサタンが動きだす都度に痛めつける必要があるなんてと王妃(おうひ)は顔を強ばらせた。

「どうするの!? そんなものを!?」

「サタンをおさえていたら魔物が大人しくなるからいいじゃん」

 アイリ・ライハラの言いぐさに、まあ、それはそうだがと一瞬思ってイルミ・ランタサルは青ざめた。

「アイリ、サタンを魔物らが取り返しに来ないの?」



「あ!!!」



 騎士団長の眼が点になったのを見て王妃(おうひ)は押し殺したような悲鳴を()らし問いただした。

「アイリ! その()はなんなの!?」

「魔物がわらわら来るかも」

「かもって──来るの!? 来ないの!?」

「いいじゃん! 来てもどうせ先頭に立って迎え撃つの俺とヘルカだしぃ」

(われ)を引き合いに出すな!」

 ヘルカがアイリにつかみかかるのを眼にしながら、あぁこいつ開き直ったとイルミ・ランタサルは泣き顔になった。ダンジョンで魔物に追い回されたのを思いだしてしまっただけでなく対応に余計な国費がかさむと涙目に思ったが。

 わらわら────とやって来るのだ。



 わらわら(・・・・)────と!!!



 なんとか避ける方法はないのかと、ぐったりする黒蛇を見つめイルミ・ランタサルは頭を(ひね)り続けた。

 魔王サタンをすら倒し持ち帰る強さは認めるが、後先のことをどうしてこの子はいつもいつも考えないのだ。こんな物騒なものを手土産にするという発想が信じられない。

 ヘルカ・ホスティラやエステル・ナルヒが手助けしたとしても2人が倒したとは思えない。アイリ1人で倒したに決まっている。

 だが、アイリ・ライハラがいなければ、武装大国デアチのこの地位も手に入らなかった。

 魔王サタンの()れの果てから視線を上げ取っ組み合う騎士団長へと合わせ甘噛みしあう獅子(リオン)の子のようだとアイリ・ライハラとヘルカ・ホスティラを見ながら思った。

 そうだ────獅子の子。



 崖から突き落としてみましょう。



「アイリ・ライハラ、攻めてくる魔物を相手する貴女(あなた)で観光客を集めましょう」


 屈強な女騎士と髪をつかみ合ってる青髪の騎士団長が玉座へ振り向き(あご)を落とした。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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