第23話 呼ばれて飛び出て
文字数 2,165文字
「ふぅ──ふがぁ────ふんがぁ──ふがぁ」
息苦しさに目覚めると口に猿ぐつわ。両手両足を後ろに縛られ揺れる板の上に横たわっていた。
アイリ・ライハラは身動きの取れない状況で、どうしてこうなったのだと懸命に思い出そうと眉根をしかめた。
「──36、37、38、39」
切れ落ちた手首を数えてるのかと少女が思ったら、イルミ・ランタサルは落ちてる剣 を数えていた。
そりゃあそうだ。切れ落ちた手首なんて見てて気持ちいいもんじゃない。
「で、アイリ、あなたは私達を気絶させておいてウチルイ国の騎士や近衛兵と遊んでたわけ?」
振り向いた王女にアイリは両肩を吊り上げた。
「あぁぁあ!? んなわけあるかい! 遊んでて相手の手首を切り落とすわけないじゃん!」
疑わしそうにイルミ王女は眼を細め、問いただした。
「ヘルカ・ホスティラが縛り上げた騎士が犬の胃袋に収まらず、城へ帰り兵を引き連れて来た────のなら、その30人あまりの追っ手をすべからず殺さずに逃がしてやるとは、近衛兵副長でかしました」
褒 め言葉にアイリが頭を掻きながら照れた。
「んなわけありませぬ!」
いきなり少女は額の真ん中に馬用の鞭 を喰らって額を押さえ座り込んで呻 きだした。
「いててててぇ、何しやがるこのポンコツ王女がぁ!」
「馬鹿ですか、あなたは!? 1人を逃がして30数名に膨れ上がったなら、次は1000人近くが来る勘定になるでしょうがぁ!」
しゃがみ込んだ少女が額を左手でさすりながら、右手の指を折り曲げ伸ばし勘定し始めた。その手元を影が覆いアイリは顔を上げると、後ろに女騎士ヘルカ・ホスティラが眼を吊り上げ立っていた。
顔のど真ん中に痣 をこしらえている女騎士と眼が合いアイリが苦笑いを返すと王女が命じ振りかぶった女騎士が少女の頭の大きさの岩を抱え上げた。
「やっておしまいヘルカ」
そこから記憶がねぇんだよなぁ、とアイリは呟 いたものの、ふがふがとしか声を出せないでいると後ろから覗き込まれた。
「アイリさん、大丈夫ですか?」
そう尋ねて侍女 ヘリヤが少女の頭に手を伸ばすとアイリはじたばたと暴れ出した。
「ふがぁ! ふがふがふがぁ! ふがぁああ!」
(:触るなぁ! いてぇんだよ! ズキズキする!)
「だってこんなに大きなたんこぶ が髪の間から覗いているんですもの。さすってあげようと」
「ふがぁふがふがふがぁ! ふがぁああ!」
(:触んなくていいから! マジでいてぇから!)
「ふふふっ、アイリさん、ふがふがと面白い」
「ふんがぁ、ふがふが──ぜえぜえ──ふがぁふがふが!」
(:面白がってないで縄 ──ぜえぜえ──解けよ!)
「駄目ですよ。王女様に転がしておくようにときつく仰せつかっていますもの」
「ふがぁ! ふがふがふがぁ──ぜえぜえ──ふがぁあぁふが」
(:ヘリヤ、お前俺の言ってること──ぜえぜえ──わかっててて)
アイリはじたばたとしていたら後ろに縛られた手足の縄 が食い込んで手足首から先の感覚がなくなってきた。
「ふがぁ、ふが。ふがふぁがふがふぁがふがぁああ。ふがあふがふが」
(:ヘリヤ、やばい。手足の感覚がないんだ。縄 がきつすぎる)
「アイリさん、わかんないですぅ」
そう言い聞かせながらヘリヤが少女の足首に手を乗せたものだからアイリは片足がジンジンし始め呻 き始めた。
ガタガタと派手な車輪の音を立て荷馬車が追い上げてきて女騎士ヘルカ・ホスティラがヘリヤに声をかけた。
「ヘリヤ、アイリのお仕置きは終わりだ。ほどいてやれ」
そう侍女 に告げた女騎士は直後王女に大声で報告した。
「王女様! 後方から土煙が広がっています! 騎馬おおよそ百! いかがいたしましょう!?」
操馬台 の方からイルミ王女が応えた。
「百!? 少ないわね。大部分が先回りして横の逃げ道も塞がれたでしょう。意表を突きましょう。野原へ入り込みます」
「かしこまりました。騎士団長達にも知らせます」
その会話を聞きながら手足の縄 を切られ自由になったアイリは起きあがらず荷台後部に寝っ転がったまま荷馬車が草原に入り揺られだすに任せた。
「アイリさん、もう縄 を外しましたよ」
ヘリヤに言われアイリはぼそりと呟 いた。
「知らねぇ──人に首輪付けたり縛り上げたり好き勝手してるやつなんか、取り囲まれて袋叩きにされりゃあいいさ」
「ええ!? 私も袋叩きにされるんですかぁ!?」
ヘリヤが寝っ転がっているアイリの肩に手をかけて揺すった。
「心配すんな──気が向いたらぁ──逃げ道切り開いてやるから」
のん気に言うアイリに侍女 が気軽に持ちかけた。
「じゃあ大丈夫ですね。そこから皆 で逃げれば」
「あぁぁぁあ!?」
跳び起き振り向いたアイリ・ライハラは、ヘリヤの先──荷馬車の前方に浮かんでいる少女を見た刹那指差し怒鳴った。
「汚ねぇ爪の魔女!」
息苦しさに目覚めると口に猿ぐつわ。両手両足を後ろに縛られ揺れる板の上に横たわっていた。
アイリ・ライハラは身動きの取れない状況で、どうしてこうなったのだと懸命に思い出そうと眉根をしかめた。
「──36、37、38、39」
切れ落ちた手首を数えてるのかと少女が思ったら、イルミ・ランタサルは落ちてる
そりゃあそうだ。切れ落ちた手首なんて見てて気持ちいいもんじゃない。
「で、アイリ、あなたは私達を気絶させておいてウチルイ国の騎士や近衛兵と遊んでたわけ?」
振り向いた王女にアイリは両肩を吊り上げた。
「あぁぁあ!? んなわけあるかい! 遊んでて相手の手首を切り落とすわけないじゃん!」
疑わしそうにイルミ王女は眼を細め、問いただした。
「ヘルカ・ホスティラが縛り上げた騎士が犬の胃袋に収まらず、城へ帰り兵を引き連れて来た────のなら、その30人あまりの追っ手をすべからず殺さずに逃がしてやるとは、近衛兵副長でかしました」
「んなわけありませぬ!」
いきなり少女は額の真ん中に馬用の
「いててててぇ、何しやがるこのポンコツ王女がぁ!」
「馬鹿ですか、あなたは!? 1人を逃がして30数名に膨れ上がったなら、次は1000人近くが来る勘定になるでしょうがぁ!」
しゃがみ込んだ少女が額を左手でさすりながら、右手の指を折り曲げ伸ばし勘定し始めた。その手元を影が覆いアイリは顔を上げると、後ろに女騎士ヘルカ・ホスティラが眼を吊り上げ立っていた。
顔のど真ん中に
「やっておしまいヘルカ」
そこから記憶がねぇんだよなぁ、とアイリは
「アイリさん、大丈夫ですか?」
そう尋ねて
「ふがぁ! ふがふがふがぁ! ふがぁああ!」
(:触るなぁ! いてぇんだよ! ズキズキする!)
「だってこんなに大きな
「ふがぁふがふがふがぁ! ふがぁああ!」
(:触んなくていいから! マジでいてぇから!)
「ふふふっ、アイリさん、ふがふがと面白い」
「ふんがぁ、ふがふが──ぜえぜえ──ふがぁふがふが!」
(:面白がってないで
「駄目ですよ。王女様に転がしておくようにときつく仰せつかっていますもの」
「ふがぁ! ふがふがふがぁ──ぜえぜえ──ふがぁあぁふが」
(:ヘリヤ、お前俺の言ってること──ぜえぜえ──わかっててて)
アイリはじたばたとしていたら後ろに縛られた手足の
「ふがぁ、ふが。ふがふぁがふがふぁがふがぁああ。ふがあふがふが」
(:ヘリヤ、やばい。手足の感覚がないんだ。
「アイリさん、わかんないですぅ」
そう言い聞かせながらヘリヤが少女の足首に手を乗せたものだからアイリは片足がジンジンし始め
ガタガタと派手な車輪の音を立て荷馬車が追い上げてきて女騎士ヘルカ・ホスティラがヘリヤに声をかけた。
「ヘリヤ、アイリのお仕置きは終わりだ。ほどいてやれ」
そう
「王女様! 後方から土煙が広がっています! 騎馬おおよそ百! いかがいたしましょう!?」
「百!? 少ないわね。大部分が先回りして横の逃げ道も塞がれたでしょう。意表を突きましょう。野原へ入り込みます」
「かしこまりました。騎士団長達にも知らせます」
その会話を聞きながら手足の
「アイリさん、もう
ヘリヤに言われアイリはぼそりと
「知らねぇ──人に首輪付けたり縛り上げたり好き勝手してるやつなんか、取り囲まれて袋叩きにされりゃあいいさ」
「ええ!? 私も袋叩きにされるんですかぁ!?」
ヘリヤが寝っ転がっているアイリの肩に手をかけて揺すった。
「心配すんな──気が向いたらぁ──逃げ道切り開いてやるから」
のん気に言うアイリに
「じゃあ大丈夫ですね。そこから
「あぁぁぁあ!?」
跳び起き振り向いたアイリ・ライハラは、ヘリヤの先──荷馬車の前方に浮かんでいる少女を見た刹那指差し怒鳴った。
「汚ねぇ爪の魔女!」