第11話 第1階層
文字数 2,231文字
真っ暗な洞窟内をイルミ・ランタサルの手にする発光石の明かりが照らしだす。その明かりが届く範疇 は限られ、かたまり移動するそれぞれの影が光の先に踊り迫る魔物のように思え騎士達は神経を尖らせた。
だが本人も自覚しない図太さのアイリ・ライハラと、元もと生業 が暗殺者 ゆえ闇に紛れる事の多いイラ・ヤルヴァは平然と歩いていた。
「王女様、やっぱり奥深くに行けばそれだけ金銀財宝があるのでしょうか?」
侍女 ヘリヤが王女に屈託 のない事を尋ね、怖さを紛らわそうとする。
「そうね。財宝だけでなく、イケメンの王子が落ちてるとか──」
王女らの前をゆくアイリは後ろの会話に顔をしかめた。
どこのダンジョンにイケメン の王子 が落ちてるんだよ! そんなもん落っこちてたらこっちがびっくりするわ! 自分がうぶ だと思っていないアイリは歓楽街のホストクラブすら知らなかった。
いきなり先頭を歩いていた女騎士ヘルカ・ホスティラが脚を止め皆 も歩くのを止め彼女の先を警戒した。
「どうした、ホスティラ?」
彼女の後ろにいる騎士団長リクハルド・ラハナトスが彼女の耳元に顔を近づけ小声で尋ねた。
「何か──何かが明かりを避け先にある岩陰に身を潜めました。」
ヘルカが小さな声でそう伝えたのを、騎士団長の後ろにいるアイリも耳にした。
女騎士は王女が手にする発光石を持っていくわけにゆかず、薄暗い先へ盲人が杖をつくように剣 の切っ先を下げ揺らしながらその岩の横へ回り込んでゆく。
突然、岩陰から彼女の顔へ何かが跳びつきヘルカは剣 を落としそれを両手で剥 がそうともがき始めた。
駆けつけた騎士団長ともう1人の騎士は、女騎士の顔に張りついたものを剣 で斬り落とすわけにもゆかず、鞘 にしまうと2人がかりでその顔に張りついたものをひき剥 がし地面に投げ捨てた。
すかさず騎士団長がその生き物を踏みつぶした。
イルミ王女が歩きよって発光石で照らすと、ひっくり返った兜ガニの様な生き物だった。
ヘルカ・ホスティラが何度も唾を吐き出し、口の回りを拭って喚 いた。
「うぅ、気持ちの悪い! 口に生臭いぬらぬらしたものを差し込まれた! それをくねくね動かしおって!」
悪態を続けるヘルカへアイリがとんでもない事を言いだした。
「あらぁらぁ、やられちゃったなぁ。こいつ寄生甲虫といって動物の顔に飛びついて卵を産みつけるんだ。半日もすると頭を食い破ってコイツの幼虫がわらわらと────」
それを聞いたヘルカ・ホスティラが顔をひきつらせた。
いきなりアイリは後ろからイルミ王女に頭を鞭 で叩 かれ頭を押さえた。
「いてぇ!」
「大馬鹿もの! なに、ヘルカを怖がらせてるんですか。それは乾燥虫といい、生き物の水気の多いところに飛びつき水分を奪うだけです。卵を産みつけたりしませんよ」
口を拭きながら女騎士がアイリを蹴り飛ばそうと迫ったが、少女は王女の後ろに回り込んで逃げた。
「皆 、鼻から下を布で覆 いなさい。その虫に取り憑 かれると匂いがなかなか口周りから消えませんから」
皆 が布でマスクをし始めると女暗殺者 イラ・ヤルヴァ1人がなにもしないのでアイリが尋ねた。
「イラ、お前マスク嫌いじゃないだろ」
イラが僅 かに顔を背け赤面し苦笑いした。
「いやぁあ、飛びつかれてみたいです。その差し込んでくるぬらぬらしたものを────」
それ以上言わさせずにアイリはイラに跳びつくと強引に布で顔下を覆 ったので彼女は不満げな面もちを浮かべた。
「ぼさぁと歩くからあんなのに跳びかかられるんだよ」
アイリが何気なく言うと、女騎士ヘルカが怒りだした。
「なんですって!? じゃあ、あなたが先に行きなさいよ。せいぜい躱 してごらんなさいな」
「やってやろうじゃないか!」
勇んでアイリが歩き出すと、王女の傍 を騎士団長と女騎士が挟 むように守り他のものがそのまわりをかためた。
歩きだしてものの数分、暗がりをすたすた歩いていたアイリのまわりから幾つもの何かが飛びだし、躱 す余裕もなく身動きのとれなくなった少女が転んだのでイルミ王女が握る発光石を高く掲げアイリの方を照らすと駆けつけたイラが驚いた。
8匹の乾燥虫にアイリはたかられて、剥 がそうと少女はもがいていた。
それを見て女騎士ヘルカ・ホスティラが指さして高笑いした。
「ザマないですね! そんなにたかられるなどよっぽど鈍くさいからでしょう!」
イラの手助けで顔の2匹の乾燥虫をひき剥 がしたアイリは唾 を吐きながら合間に女騎士へ言い返した。
「うるせぇ! 俺の方が若くてピチピチで水みずしいからだぁ!」
2人のやり取りを皆 の後ろで聞いていたイルミ王女は何食わぬ顔で水筒の水を頭から被るとアイリらを避けて先へ歩きだし騎士団長を慌 てさせた。
ものの数十歩で一斉に飛びついてきた乾燥虫に雪だるまの様になった王女が勝ち誇った様に皆 へ宣言した。
「ご覧なさい! 誰が一番ピチピチかを!」
直後、イルミ・ランタサルは「あっ!」と声をあげバランスを崩しごろんと転がり、せっかく虫を剥 がしたアイリと手伝っていたイラにぶつかると2人も虫だらけなって身動きがとれなくなり、王女を助けようとした女騎士ヘルカ・ホスティラの足をアイリ・ライハラはがっしりとつかんだ。
「なっ!? 何をするか!!? 放せ!! 馬鹿者!!!」
女騎士の抗議を無視して引き摺 り倒した少女はその顔に手近な乾燥虫を押しつけた。
女らの醜い争いに5人の騎士達がおろおろとしている最中、洞窟 の奥から別な魔物が近づいていた。
だが本人も自覚しない図太さのアイリ・ライハラと、元もと
「王女様、やっぱり奥深くに行けばそれだけ金銀財宝があるのでしょうか?」
「そうね。財宝だけでなく、イケメンの王子が落ちてるとか──」
王女らの前をゆくアイリは後ろの会話に顔をしかめた。
どこのダンジョンに
いきなり先頭を歩いていた女騎士ヘルカ・ホスティラが脚を止め
「どうした、ホスティラ?」
彼女の後ろにいる騎士団長リクハルド・ラハナトスが彼女の耳元に顔を近づけ小声で尋ねた。
「何か──何かが明かりを避け先にある岩陰に身を潜めました。」
ヘルカが小さな声でそう伝えたのを、騎士団長の後ろにいるアイリも耳にした。
女騎士は王女が手にする発光石を持っていくわけにゆかず、薄暗い先へ盲人が杖をつくように
突然、岩陰から彼女の顔へ何かが跳びつきヘルカは
駆けつけた騎士団長ともう1人の騎士は、女騎士の顔に張りついたものを
すかさず騎士団長がその生き物を踏みつぶした。
イルミ王女が歩きよって発光石で照らすと、ひっくり返った兜ガニの様な生き物だった。
ヘルカ・ホスティラが何度も唾を吐き出し、口の回りを拭って
「うぅ、気持ちの悪い! 口に生臭いぬらぬらしたものを差し込まれた! それをくねくね動かしおって!」
悪態を続けるヘルカへアイリがとんでもない事を言いだした。
「あらぁらぁ、やられちゃったなぁ。こいつ寄生甲虫といって動物の顔に飛びついて卵を産みつけるんだ。半日もすると頭を食い破ってコイツの幼虫がわらわらと────」
それを聞いたヘルカ・ホスティラが顔をひきつらせた。
いきなりアイリは後ろからイルミ王女に頭を
「いてぇ!」
「大馬鹿もの! なに、ヘルカを怖がらせてるんですか。それは乾燥虫といい、生き物の水気の多いところに飛びつき水分を奪うだけです。卵を産みつけたりしませんよ」
口を拭きながら女騎士がアイリを蹴り飛ばそうと迫ったが、少女は王女の後ろに回り込んで逃げた。
「
「イラ、お前マスク嫌いじゃないだろ」
イラが
「いやぁあ、飛びつかれてみたいです。その差し込んでくるぬらぬらしたものを────」
それ以上言わさせずにアイリはイラに跳びつくと強引に布で顔下を
「ぼさぁと歩くからあんなのに跳びかかられるんだよ」
アイリが何気なく言うと、女騎士ヘルカが怒りだした。
「なんですって!? じゃあ、あなたが先に行きなさいよ。せいぜい
「やってやろうじゃないか!」
勇んでアイリが歩き出すと、王女の
歩きだしてものの数分、暗がりをすたすた歩いていたアイリのまわりから幾つもの何かが飛びだし、
8匹の乾燥虫にアイリはたかられて、
それを見て女騎士ヘルカ・ホスティラが指さして高笑いした。
「ザマないですね! そんなにたかられるなどよっぽど鈍くさいからでしょう!」
イラの手助けで顔の2匹の乾燥虫をひき
「うるせぇ! 俺の方が若くてピチピチで水みずしいからだぁ!」
2人のやり取りを
ものの数十歩で一斉に飛びついてきた乾燥虫に雪だるまの様になった王女が勝ち誇った様に
「ご覧なさい! 誰が一番ピチピチかを!」
直後、イルミ・ランタサルは「あっ!」と声をあげバランスを崩しごろんと転がり、せっかく虫を
「なっ!? 何をするか!!? 放せ!! 馬鹿者!!!」
女騎士の抗議を無視して引き
女らの醜い争いに5人の騎士達がおろおろとしている最中、