第16話 矢も盾(たて)もたまらず
文字数 1,725文字
女異端審問司祭が息を呑んだのを耳にしてアイリ・ライハラは振り向いた。
昏倒して倒れたままの双子の片割れを起こして渡せとヘッレヴィ・キュトラへ言って投げ渡したはずの剣 がどういうわけかテレーゼ・マカイの頭傍 らの地面に突き立っていた。
騒ぎに紫の甲冑 を身につけた女が呻 き声を上げ頭を動かした。
顔を引き攣 らせた藁 を身体に巻きつけた女がいきなり双子の騎士へ駆け寄り地面から剣 を引き抜くとテレーゼが眼を覚まし片腕を立て上半身を起こした。
「うぅぅぅぅ、顔が痛い──」
牢 の格子木 が命中した額に手を伸ばし指が剃り上がった生え際を撫 でようとした女騎士へヘッレヴィは慌 てて剣 を差しだした。
「そ、剣 を! 立って下さい! 盗賊が迫ってます!」
額から右手を離し剣 を受け取ったテレーゼが立ち上がり女異端審問司祭を躱 して牢 の出口へと進み出ると振り向いていた少女が髪色に負けないほど青ざめた。
「どうした!? 貴様でも手こずるほど盗賊らがいるのか!?」
尋 ねながら黄泉から連れ戻した女が髪をかき上げようと左手を額に近づけアイリは眼を丸くして自分が握っている剣 をテレーゼに手渡そうとした。
「お、俺じゃあ勝ち目はない! お──お前の方が絶対に強いから────二刀流で戦え!」
テレーゼはツンとスマし顔になり左手で剣 を受け取り左右に振り向けた。
「良かろう。我 に任せよ」
アイリの傍 らを通り過ぎ牢 の外に出たテレーゼ・マカイは薄れた土煙の間から次々に現れる盗賊を斬 り倒し始め、アイリ・ライハラは振り向いて半分になった双子の金髪を指さしてヘッレヴィ・キュトラへ口パクで喚 いた。
ば、馬鹿やろう! どうすんだよ! 気がついたら本気で殺しにくるぞ!
藁 巻きの女は唇の前で片手指を閉じたり開いたりして見せて両肩をすくめた。
アイリさん、何て言ってるのか全然わかりません!
「ついて来いお前たち! そこに残ると別な盗賊に襲われるぞ!」
マカイの片割れに声をかけられ少女は慌 てて牢 の奥に駆け込んで爪先で地面に落ちてる金色の髪へ砂をかけ始めた。
「アイリさん、どうするんですか!? いずれバレちゃいますよ!」
ヘッレヴィがアイリに顔を寄せ小声で警告すると記憶喪失のキルシも寄って来てアイリを真似して砂埃を立て始めた。
「ついて来い──と言っただろうがぁ」
近くで声が聞こえアイリが顔を向けるとテレーゼ・マ
カイが牢 の中に戻って真後ろに立っており、少女は口を大きく開いて息を吸い込みながら掠 れた悲鳴を漏らした。
「何をしておるんだ、お前たち?」
右の頭髪をなくした痛々しいテレーゼが問ながらアイリの肩越しに覗 き込もうとしたので少女は髪の毛を逆立て双子の片割れの右手首を鷲掴 みにすると出口へと駆け出した。
「て、敵が攻めて、く、来る! お前だけがぁ────頼 りだぁからぁ!」
「そ、そうかぁ。そこまで言うなら。我 の獅子奮迅 の活躍を眼に焼きつけるがよい!」
おだてられ上機嫌のテレーゼ・マカイは少女を追い抜き駆けて来る盗賊へ剣 を振り回し始めた。
だがアイリ・ライハラは向かって来る盗賊らの視線が気になりだした。
叫びながら突っ込んで来る男らが、皆 、女騎士の額から上に気を取られている!
まずい! こりゃあ肥壷 に落ちたのと同じヤバさがあるとアイの顔に冷や汗がどっと吹き出した。
男らの視線に紫の甲冑 を着た女騎士がそのうち気づく。
「お前の勇猛さに盗賊らがさぞ有名な騎士ではないのかと、顔を確かめているぞ!」
剣 を振り回しながら男らが双剣へ警戒の視線を向けるのでなく、顔を確かめている! テレーゼ・マカイはますます勢いづいて盗賊を倒し続けた。
その女が左右に顔を振って男らを確かめる様 を眼にしてアイリは青ざめた。
双子の片割れが顔を右に振ると左の髪が遅れて右前に踊り、左へ顔を振ると────!
「お、おい! お前右側の盗賊任せる!」
そう告げ少女は身体で押しのけ右へテレーゼ・マカイを追いやり自分は左前に剣 を構えた。小娘の方が倒しやすいとばかりにアイリへ盗賊が寄ってたかるとテレーゼがアイリへ顔を振り向けた。
「代わってやるぞ。任せろ!」
見上げた女の顔に髪が被ってないのを見たアイリ・ライハラは大声で否定した。
「お構いなく!!!」
昏倒して倒れたままの双子の片割れを起こして渡せとヘッレヴィ・キュトラへ言って投げ渡したはずの
騒ぎに紫の
顔を引き
「うぅぅぅぅ、顔が痛い──」
「そ、
額から右手を離し
「どうした!? 貴様でも手こずるほど盗賊らがいるのか!?」
「お、俺じゃあ勝ち目はない! お──お前の方が絶対に強いから────二刀流で戦え!」
テレーゼはツンとスマし顔になり左手で
「良かろう。
アイリの
ば、馬鹿やろう! どうすんだよ! 気がついたら本気で殺しにくるぞ!
アイリさん、何て言ってるのか全然わかりません!
「ついて来いお前たち! そこに残ると別な盗賊に襲われるぞ!」
マカイの片割れに声をかけられ少女は
「アイリさん、どうするんですか!? いずれバレちゃいますよ!」
ヘッレヴィがアイリに顔を寄せ小声で警告すると記憶喪失のキルシも寄って来てアイリを真似して砂埃を立て始めた。
「ついて来い──と言っただろうがぁ」
近くで声が聞こえアイリが顔を向けるとテレーゼ・マ
カイが
「何をしておるんだ、お前たち?」
右の頭髪をなくした痛々しいテレーゼが問ながらアイリの肩越しに
「て、敵が攻めて、く、来る! お前だけがぁ────
「そ、そうかぁ。そこまで言うなら。
おだてられ上機嫌のテレーゼ・マカイは少女を追い抜き駆けて来る盗賊へ
だがアイリ・ライハラは向かって来る盗賊らの視線が気になりだした。
叫びながら突っ込んで来る男らが、
まずい! こりゃあ
男らの視線に紫の
「お前の勇猛さに盗賊らがさぞ有名な騎士ではないのかと、顔を確かめているぞ!」
その女が左右に顔を振って男らを確かめる
双子の片割れが顔を右に振ると左の髪が遅れて右前に踊り、左へ顔を振ると────!
「お、おい! お前右側の盗賊任せる!」
そう告げ少女は身体で押しのけ右へテレーゼ・マカイを追いやり自分は左前に
「代わってやるぞ。任せろ!」
見上げた女の顔に髪が被ってないのを見たアイリ・ライハラは大声で否定した。
「お構いなく!!!」