第11話 2度あれば3度あるかも

文字数 1,518文字

 騒乱の女騎士を尻目に遠巻きに迂回して小娘が黒騎士ヴォルフ・ツヴァイクと舟をなくした船頭カローンの前に歩いてくると無駄口も交わさずに黒騎士が大剣(クレイモア)を引き抜いた。

 その(フラー)を見てアイリ・ライハラはなにもかもがこの地に来る前と同じではないと唇の片側を吊り上げた。

 闘技場(アリーナ)で眼にした(ソード)に埋め込まれた(あか)い魔石が1つもない。

 黒の騎士の握る魔剣は首を(ねら)い走る力があった。それに黒の騎士が窮地(きゅうち)(おちい)ると勝手に護りに舞っていた。だから(スカル)のフェイスガードから見える限られた視界の外へも黒の騎士が振り回さずとも(ソード)自体が走る。


 その力が喪失(そうしつ)していた。


 ぶひぃ!


 魔剣がなけりゃ重い大剣(クレイモア)に振り回されるただのおっさんだぁ!

 勢いつけた青髪の少女は前へタン!(・・・)と片足踏みだした。

 数テンポ遅れで黒騎士が振り下ろそうとする大剣(クレイモア)を引き止めた。

 アイリはニヤケ顔を真顔に変えいきなり横へ腕と共に振り向け森の奥を指さし声を上げた。


「あっ!!!」





 洒落臭(しゃらくさ)い小娘だとヴォルフ・ツヴァイクは思った。

 闘技場(アリーナ)ではいいようにあしらわれ、首を()り落とされるという醜態を多くの兵の前に(さら)した。

 その恥の念を晴らせるとマカイ姉妹が苦悩の河(アケローン)を指さし騒ぎだした時には胸が高鳴った。

 どういう巡り合わせか、小娘が死の世界に転がり込んだ理由はわからずとも、今度は(おのれ)がその細首を落とす番だと黒騎士は思った。

 だがいざハデスの地へ流れついた小娘は、生前の強さの片鱗もなく逃げ回り、追い詰められると姑息(こそく)な手段でマカイ姉妹を翻弄(ほんろう)し、今、目の前で(われ)愚弄(ぐろう)するような態度で(すき)を作ろうとする。

 何もない森を指さし、声を上げ注意を引く。

 顔を向けたとたんに(すき)を突いてくるつもりだと黒騎士は考えた。


 だが────小娘は森の一方を見つめまだ上げた腕で指さしている。


 あ、凄い美人がいる──とか。

 ひえぇぇ、とんでもない怪物がこっちに来る──とか。

 うわぁ、斬首(ざんしゅ)されたデアチ国王ヴェルネリ・トゥオメラ・ヴィルタネン3世までいやがった──など。

 普通だったら気を引くために何か言うだろう!?

 だが押し黙ったままじっと森を指さして何かを見つめている。

 小娘ににじり寄っていたヴォルフ・ツヴァイクは気になりだして足を止めてしまった。

「どうした? 何をやっておるのじゃ? やってしまわぬか!」

 後ろから河守りのカローンに()かされ、黒の騎士は船頭には小娘の見てるものが見えてないのだと気づいた。

 やはり何もないものを顔を()らさせるために演技しているのだ。

 だが────カローンの方から見えない場所に何かがいるとしたら!?

 それが手こずるような凶悪な魔物ならどうする。

 黒の騎士は(うれ)いが高じて苛々し始めた。そうして確かめねばならぬと横へ視線を向けた。

 だが(スカル)。深い覆いが横に張り出ししかも面覆(めんおお)いがあるためスリットの隙間(すきま)からは横がまったく見えない。


 く、くそう!


 いきなりヴォルフ・ツヴァイクは顔を振り向け小娘の指さす方を凝視した。


 何もないではないか!?


 黒の騎士は(あわ)てて顔を振り戻すと、しっかりと間合いのあった小娘がすぐ前に立っておりいきなり面覆(めんおお)いを引き上げられ石をつかんだ(こぶし)(したた)かに顔面を殴りつけられた。

 振り上げていた大剣(クレイモア)刃口(ポイント)を地に落とし両膝(りょうひざ)を地面についた黒の騎士からアイリ・ライハラは大剣(クレイモア)を奪い取ってニンマリすると背後から罵声を浴びせられた。


「きさまァ!!!」


 少女がギクリと振り向くとマカイのシーデの妹が荷馬車ほどの岩塊(がんかい)を頭上にかかえ上げ手足を震わせていた。

 いきなり投げおろされた岩塊(がんかい)にアイリ・ライハラが(あわ)て横に跳び退()くと甲冑(アーマー)(つぶ)れる音が響いた。



 岩塊(がんかい)の下から飛びだした黒い鉄靴(サバトン)を目にしてテレーゼ・マカイは真っ青になった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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