第16話 星回り

文字数 1,863文字

(おび)え──絶望し────懇願(こんがん)する(さま)を見られるだけでいいのさ」


 脅されそれから銀眼の魔女は何も語らずアイリ・ライハラの眼の前を思わせぶりに視線も向けずゆっくりと歩き回るので少女から問いかけた。

「お前の妹──ミルヤミ・キルシを魔女裁判にかけ断頭台に送ったからか────?」

 ふとルースクース・パイトニサムは立ち止まり青髪の少女へ流し目を送った。

「そう────ミルヤは死んだの。悪魔なぞに(たよ)るだけの器量無しだったから」

 病人のように白い女は(うら)みを感じさせぬ言い方でそう告げた。


「そんなことは────どうでもいいとしたんだよ」


 言ってることはまともじゃないが、向ける横目がしっかり座っており三白眼と変わらないとアイリは思った。

「青よ────此方(こなた)(われ)を追い立てる」

 な、何を言ってるんだ!? こなた!? お前にまだ何もしてないぞとアイリは鼻筋(はなすじ)(しわ)を刻み言い返した。

「俺がぁ何かしたか!?」


「した──してないは────関係ないかもしれない。お前は(われ)を追い立てる」


 横目からアイリの瞳をじっと見据えたまま銀眼の魔女はブラウスを塗り替えるように下から様変わりさせアイリが驚いていると不敵な笑みを浮かべたまま向きを正面に変えた。その仕草1つがたまらなくアイリを不安にさせ、何が不愉快なのだと少女は困惑した。







「青──此方(こなた)はこうして初めて目の前にいながら────(われ)を追い詰めたことを後悔していた」


 不愉快なのが仕草だけではないとアイリは気づいた。何だか話している内容がとてもちぐはぐなのだ。くるんくるんがいればそのものをずばり指摘できるだろうが、何だかおかしいのだと少女は漠然と感じ始めた。


此方(こなた)は好きにするだろうが────(われ)はそれをゆるさなかった」


 こなた! こなたと! こいつ何を言ってるんだ!? 何を許さなかったというんだ!? てめぇで初めて会ったと言ったばかりじゃん!

 アイリはふと眼の前の女の変なところに気がついた。


 こいつ横目をよこした時から1度も(まばた)きしてねぇ!


 それだけじゃなかった。口を閉じているときはずっと不気味な笑みを浮かべているのだ。


 その銀眼がじっとアイリの目を(のぞ)き込むように見つめながら不意に右腕を緩やかに持ち上げ少女の方へ人さし指と中指を伸ばし唇に触れようとした。

 とてつもなく虫酸(むしず)が走りアイリ・ライハラは顔を()らすと魔女は指を伸ばすのを止めて少女の顔を()らした方へゆっくりと回り込んできてアイリが眼を強ばらせていると言い含めるように話しかけてきた。


「ああ、好きにするだろう────だが許さないと言うんだよ」


 アイリ・ライハラは銀眼の女が話してる意味を理解できずに苛々(いらいら)しだして眉間に深く(しわ)を寄せ思った。

 自分で言っておきながら、言うんだよと他人ごとのように話すこいつは頭がいってるんじゃないかと腹立たしく感じて思わず挑発してしまった。


「お前ぇ────頭に赤チン塗ってやろうかぁ!」


 その寸秒、ぎらぎらと差し込んでくる目を半眼にしてルースクース・パイトニサム──銀盤の魔女は舌なめずりして下唇を噛んだあとアイリへ忠告した。

(われ)を小馬鹿にするだろう──青は────(おのれ)の言葉に────深くふかく後悔してもいいのかもしれない」

 意味というか、言い方というか、こいつと話してると自分の頭の蝶番(ちょうつがい)が外れそうだとアイリは銀色の目をした病的に肌の白い眼の前の女に怒鳴り散らした。

「おらぁ! どつき回すぞ! 吊り下げた(なわ)を解きやがれ!」

 寸秒、理解できない異変にアイリ・ライハラは顔を引き()らせた。



 眼の前にいた銀眼の魔女が突然に氷の壁を(はさ)み距離のある反対側におり複雑に屈折する壁を通しアイリの方へ向いていた。



 その氷越しの女の声が確かに聞こえアイリ・ライハラは眼を(およ)がせた。



────からめた指はなれ───あびせる惨烈(さんれつ)────舞い狂う数多(あまた)の結晶の(ごと)く────(さえぎ)ってみせい────



────────青、よ────────



 本心を言いやがった! 気狂いの振りをしてやがった!!

 だが耳に聞こえたのではなかった。

 頭の中に直接、銀色の目をした女の言葉が入り込んできたことにアイリ・ライハラは激しく揺さぶられ背筋に冷や汗がどっと吹き出した。

 同時に少女はイルミ・ランタサルの忠告を思いだした。

 始末悪いことにその銀盤の魔女には(ソード)の攻撃がまったく効かないのです。

 どうして(ソード)斬撃(ざんげき)が利かないのかアイリ・ライハラは何となくわかった気がした。



 こいつ──物事の道理に────



────────従っていない!!!




 後戻りできない出会いの悪さに少女は(おび)えきった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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