第6話 希望

文字数 1,772文字

 延々と繰り返す廊下に待ち受けていたのか、どこにでも出没する能力からなのか。

 銀眼の魔女を見た瞬間、(みな)(きびす)返し反対側へと駆けだした。7人も銀眼の魔女の分身を連れまわっているので逃げるだけでも大騒ぎだった。

 先のアイリとミエリッキ・キルシとの闘いを眼にしてヘルカやテレーゼは戦う意欲をなくしていた。

 それはかまわない。

 あんな奴と()り合ったら命がいくつあっても足らないとアイリは一生懸命走りながら考えた。

 さっきあいつと(ブレード)ぶつけ合った時に今まで1番速い動きで攻め立てたんだぞ! なぜあれだけの剣技(けんぎ)ありながら魔女やってるんだ!?

 違う! 走りながらアイリは(かぶり)振った。

 あの剣技(けんぎ)も様々な力も、あの流れ星の欠片(ぁけら)から出てきた油みたいなやつのせいだ。しかも出来の悪い銀眼の魔女を分身のように切り捨て冥途(めいど)に送り込んでいた。


 ふとアイリは誰か銀眼の魔女に捕まってやしないかと振り向いた。


 面倒くさいことに7人もの(もど)きを連れているので追いつかれたかそうでないかもわからない。

 アイリが立ち止まって振り向いているのでイルミ・ランタサルらは追い抜いて立ち止まり振り向いて、追いついた銀眼の魔女らがひとかたまりで走り込んで立ち止まった。

 アイリはその銀眼の魔女らが7人なのを数え(みな)氷の(ソード)を持たないのを確かめた。

「魔女が追ってこねぇえ!」

 そう告げ後方からイルミらをかき分けて先に出たアイリはその先にも氷の(ソード)持った銀眼の魔女がいないことを確かめ(みな)に言い放った。

「やっぱり追いかけて来てない!」

「諦めたのか!?」

 そうヘルカが言うとイルミが眉根しかめ(みな)に教えた。

「あれは逃がさないと自信あるから無理に追い立てないのよ。急いでここの壁を壊し外へ出ましょう」

 すぐにヘルカ・ホスティラが(ソード)の握り手の端で氷の壁を打ち砕き始めそれにアイリとテレーゼも加わりあっという間に人が通り抜けられる穴が開いた。

 まず尖兵(せんぺい)としてヘルカとテレーゼが外に出てイルミとカローンが出ると7人の銀眼の魔女とアイリが外に出た。

 無限回廊から抜け出たことで一同は取りあえず落ち着きヘルカ・ホスティラが王妃(おうひ)に問いたてた。

「このまま銀眼の魔女を諦め引き返すのですか?」

「無理よ──この人数が小舟に乗れないし、どのみちあれは我々を殺すまであきらめないでしょう。立て直し(さく)をねりましょう」

「しかし王妃(おうひ)様、ご覧になったとおり我々ではアイリや銀眼の魔女の足元にも剣技(けんぎ)(およ)びません」

 テレーゼがことのほか弱気だとアイリは思った。

「アイリ、そなたでは倒せぬと?」

 イルミに問われアイリ・ライハラは眉根しかめ唇をねじ曲げた。

 正直言って部屋と廊下の一戦が現界だった。それすら銀眼の魔女に押し負けていた。


「なぁに方法がある」


 そう告げたカローンへ(みな)が顔を向けた。



「捕まっている天使様を解放しアイリと天使様2柱であの化け物に挑むんだ」



 可能かもしれないとアイリは思った。

 2度も首を()ねられた銀眼の魔女は力が限界に近いのか顔が老けきって老婆になっていた。

 あと少し押し切れば銀眼の魔女を崩せるかも。

「ぞろぞろと中に戻ると魔女の餌食(えじき)になる。テレーゼ俺と一緒に来てくれ」

 そう持ちかけたアイリにテレーゼは困惑顔で言い返した。

(われ)では足手まといだ。カローン殿を────」

 テレーゼが言い掛けている最中にイルミが言い聞かせた。

「いえ、外の守りが手薄になります。貴女(あなた)とアイリが天使捜索に行きなさい」

御意(ぎょい)────」

 テレーゼは(うつむ)くと折れて受け入れた。

「アイリ────」

 さっそく穴にまたがり無限回廊に入り込もうとする少女にイルミ・ランタサルが声をかけアイリは振り向いた。

「なんだよ、くるんくるん?」

「テレーゼを頼みます。無理だと思ったら逃げてらっしゃい」

「おう!」

 アイリ・ライハラは右手の(こぶし)上げて見せて中に入りテレーゼが続こうとするとイルミ王妃(おうひ)が声をかけた。

「テレーゼ、アイラをお願いね。無理だと思ったら逃げてきていいから」

 テレーゼは大きく呼吸すると王妃(おうひ)へ告げた。

「お任せ下さい。アイリ・ライハラをお守りします」

 そう告げ女剣士は右手をイルミへさしだした。

 王妃(おうひ)が手を差しだすとテレーゼはパンと手を叩き合わせ穴に入り込んだ。


 その背姿にイルミ・ランタサルは不安が膨らむのを押しつぶした。



 天使2柱がどこにいるのかさえ(さだ)かではないのだ!





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み