第23話 激突

文字数 1,860文字


 隠れていた岩は砕け爆煙と共に吹き飛んでアイリ・ライハラらは山麓(さんろく)に広がった荒れ地に落っこちた。

 落ちた拍子に手足、首を傷めたものもいた。中には落ちてきた馬の下敷きになり絶命したものもでた。

 身体の柔らかいアイリと頑丈な女大将ヒルダは(うめ)きながらもすぐに起き上がり、他に立ち上がれた騎士は16人だった。その討伐(とうばつ)隊の騎士らへ魔女キルシが言葉を浴びせた。

「無駄だと言っただろうが! お前らのことはすべてお見通しだったんだからな!」

 その上から目線の爪黒の見てくれだけが小娘の魔女にアイリは腕振り上げ指さし言い返した。

「何を言うかぁ! きさまぁ、さっき山の上の方に俺たちを探してたじゃん!」

 魔女キルシは目が点になった。

「なっ、なんと言うかぁ! あれは落石を気にかけただけじゃあ!」

 半眼になり冷たい目線で魔女を見つめなんかやっぱり見てくれは小娘でも(ばばあ)口調だし阿呆(あほう)だとアイリは思った。自分とは真逆だ。だが歳嵩(としかさ)を重ねた魔女、油断ならないと気持ち引き締める。

 古参騎士オイヴァ・ティッカネンが立ち上がり腰袋から訴状の巻物を取り出すと上下に広げ内容を読み上げ始めた。

「ミルヤミ・キルシ! イズイ大陸1の極悪非道の魔女よ。王妃(おうひ)イルミ・ランタサル様より討伐(とうばつ)せよと(めい)が下っている! 神妙に(なわ)につけ。魔女裁判のいかんによっては────」

 いきなり訴状の巻物が下から燃えだし歳嵩(としかさ)の騎士オイヴァは(あわ)てて振って消そうとしたが逆に盛大に燃え上がりやむなく地面に投げ捨てた。

「訴状がなくなれば捕まえられないじゃろ!」

 訴状が燃え尽きざわつく騎士らに魔女キルシは言い放った。

 その得意げな魔女にアイリ・ライハラは(ソード)を引き抜き刃口(きっさき)振り向け宣言した。


「捕縛、魔女裁判は教会の意向! 王妃(おうひ)討伐(とうばつ)せよと(おっしゃ)った! 決着をつけろってことだよミルヤミ・キルシ!」


 とたんに三白眼になり邪悪な雰囲気全開になった魔女はアイリ・ライハラを(にら)み据え宣言した。

「あの生意気な小娘王妃(おうひ)かぁ! きさまらぁ全員をこの場で倒し、王都へ向かい王妃(おうひ)の首を()(たみ)すべて赤子にいたるまですべてを焼き払ってくれようぞ!」

 見てくれはこんな少女なのに言うことは恐ろしいやとアイリは内心思った。今まで数回倒すべきだと思ったがやっぱりここでやっておかないとこいつの呪いで誰かまた殺されるとアイリは考え騎士ら全員に命じた。

「全員、抜刀(ばっとう)するな! だがキルシが逃げないように遠目に取り囲め!」

 その騎士団長の命令に騎士らはざわついた。(ソード)を抜いているのはアイリ1人で、大陸1邪悪な魔女を倒すのはアイリだと宣言しているようなものだった。

 直後その騎士団長が(ソード)(スキャバード)に収めた。

 ど、どうするのだアイリ! と女大将ヒルダが眼を丸くした寸秒アイリが名指しした。どんな剣技(けんぎ)どころか触れることすらかなわぬ男を先方に仕立て上げた。

「マティアス! 魔女を切り捨てよ!」

 騎士らはいっせいに振り向き腹の出た甲冑(アーマー)の騎士マティアス・サンカラを見つめた。そのマティアスは自分を指さしうろたえた。

「お、俺かぁ? め、面倒くさい」

「ああ、マティアス、貴君だよ。魔女の首を()ねよ!」

 騎士団長に言われマティアスは肩を落とした。

「はぁ────────あ」

 腹の出た騎士は長いため息をつくとぼやきながら重い足を繰り出した。

「どうなっても知らねぇぞ、お前らぁ」

 広がって退路ふさぐ騎士らの中からなんとも(のろ)そうな(たる)みたいな騎士が歩み出るなり長剣(ロングソード)を抜きにくそうに振り抜いた。

 魔女キルシはその騎士を見るなり唇をへの字に曲げ眉根寄せ(つぶや)いた。

「ば、馬鹿にしおって──こんな奴なら、歩いてでも逃げ切れるぞ」

 (つぶや)いた直後ミルヤミ・キルシは詠唱(チャンティング)を始めた。

「青き凍結、冥界の凍土。天地の法を敷衍(ふえん)すれど、我は万象降温(ばんしょうこうおん)の理。これ晶質変化(しょうしつへんげ)の別称。熱を奪い去りし永劫の凝固の呪縛は我がもとに下れ!フローズニア!」

 魔女キルシが言い切った刹那(せつな)、その足元から荒れ地の土が一気に凍りつき空気中の水分が氷結し舞い始めそれがマティアス・サンカラの方へと急激に伸びた。途中の小岩さえ一瞬で氷に呑み込む氷結結界。

 厚い氷が腹の出たおっさんの足元に迫りマティアスはそれでも逃げも(あわ)てもせずに両手で長剣(ロングソード)を構えたまま微動だにせずに魔女の呪いを受け止めた。


 いきなり氷土が騎士マティアス・サンカラの直前から左右に分かれ後方にいるアイリら他の騎士へ襲いかかった。



「ひぃいいいいいっ!!!」

 顔を引き()らせ青ざめたアイリ・ライハラと他の騎士らは(きびす)返し(わめ)き散らしながら駆けだした。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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