第22話 魔導師(ウォーロック)

文字数 1,686文字

「そんなもん、とっくに超えている」

 アイリの言葉にヘルカ・ホスティラは背筋を冷たいものが(はい)い上がった。

 聞いた話では、魔神の(ごと)き黒騎士の鉄壁の攻めと守りを(つかさど)る魔剣ルーハウソギンを(あざむ)き瞬間にアイリ・ライハラは背後に回り込み頚椎(けいつい)(やいば)打ち込んだという。

 小娘が尋常ではなく素速いのは承知していたが、黒騎士の前にアイリは(みずか)らの首を(えさ)に魔剣をおびき寄せ、その瞬間に黒騎士の背後に回り込んだと思われていた。

 そんな芸当をこなすアイリ・ライハラが銀眼の魔女ルースクース・パイトニサムに力を出し切っていると────。

 冗談ではない。

 ヘルカ・ホスティラは常々──少女の速さに(かな)わないと思っていた。なら銀眼の魔女の足下(あしもと)にも(およ)ばないことになる。

 (たよ)りの力でも()し負けていた。

 王妃(おうひ)の手前それらを認めない必要があった。

 リディリィ・リオガ王立騎士団の名折れとなるわけにはいかなかった。


「────────います。ヘルカ、聞いているのですか?」


「は、すみません。魔女の剣戟(けんげき)に惑わされておりました」

 半身振り向き歩くイルミ・ランタサルに女騎士は謝った。

「お前とアイリ、テレーゼ、ノッチの4人で同時に襲いかかればあの魔女を倒せるやもしれないと言いました。2人の(ブレード)防げても4人ならと思います」

 王妃(おうひ)の方針にヘルカ・ホスティラはすぐに弱点を見いだした。

王妃(おうひ)様、それでは貴女(あなた)様が無防備になります。あの白髪は漁師の家でも我とアイリとに()り結んでいながらに簡単に見切りつけ貴女(あなた)様を襲ったではありませんか」

 騎士の気遣(きづか)いにイルミ・ランタサルはため息をついた。

「心配には(およ)びません。(わたくし)とて剣技(けんぎ)の鍛錬は行っています。あれの1撃ぐらい防げます。その(あい)貴方々(あなたがた)の誰かが即座に対応できるように魔女と(ブレード)打ち合う貴方々(あなたがた)(そば)(わたくし)がいればいいこと」

 その案にヘルカは青ざめた。

 アイリ・ライハラをお()し抱えになられてからというものの蛮勇がすぎると女騎士は眼を寄せた。

「イルミ・ランタサル様、せめて我かアイリの背後から離れぬとお約束頂けなければその策を受け入れられませぬ」

 テレーゼやアイリの(おっと)(たよ)りにならぬと言ってるわけではなかった。だがヘルカにとって2人の剣技(けんぎ)をそれほどは知らぬというのが本心なのだ。

 ふと女騎士は先ほどの剣戟(けんげき)を思いだしノッチが魔女の2口(ふたふり)(やいば)をたかだか石2つで受け止めたのや、テレーゼが魔女の太刀筋(たちすじ)違う2振り(ふたふり)刃物(ブレード)1本で受け止めたのを目の当たりにした。

 2人が役立たないと決して思わぬがランタサル王家のものをお守りするのはリディリィ・リオガ王立騎士団の役割とヘルカ・ホスティラは強く思った。

「くるんくるん、俺は魔法は使えないけれど分身に見えるまで激しく立ち回れるよ」

 王妃(おうひ)は驚き顔でアイリの方へ振り向き(たず)ねた。

「何人に見えるのですアイリ!?」

「多分、相手に見えるのは2人までだと思う。激速の合間に動きを緩めると残像が残るのを自分でも見えるんだ」

「黒騎士ヴォルフ・ツヴァイクを打ち取った時に見えたのは見間違いではなかったのですね。それでは魔女は5人の(ブレード)にきりきり舞いするかもしれませぬ」

 王妃(おうひ)と他のものとのやり取りに口差し(はさ)まないノッチがぼそりと告げた。



(ソード)打ち合うのは1対1が古くからの方法だ。多数で打ち込むとどんな太刀筋(たちすじ)で相手が(やいば)振り回すか読めなくなる」



 アイリの(おっと)は辺りを見回し集落から眼につかぬと判断し続けた。

「アイリ、(われ)とここで真剣の剣稽古(けんげいこ)をしてみよう」

 アイリが戸惑った面もちで(ソード)引き抜き、テレーゼがノッチに(ソード)を渡そうとすると彼が手のひらを向けて(ことわ)り他の3人はどうするのかと離れ見守った。

「アイリ、寸止めなしの本気で斬り込め。でないとお前が怪我することになるぞ────」

 アイリが(うなづ)くとノッチはとんでもないことを言い切った。


「──では、魔女の真似をしてみせよう」


 ノッチは少女に右肩を向け半身開き1度胸の前に両腕を振り上げ交差させそれを素早く左右に振り下ろした。刹那(せつな)、彼の両手から雷光放つ長剣(ロングソード)が伸びて刃口(きっさき)が地面に食い込んだ。








 イルミ・ランタサルら3人はその光景にアイリの(おっと)魔導師(ウォーロック)なのかと(あご)を落とした。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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