第9話 百の腕

文字数 1,801文字


 天使が加わればそれで形勢が逆転する────銀眼の魔女は押し切られる────テレーゼは1柱を解放しそう思った。

 その館でも入りそうな大部屋に(ソード)ぶつかり合う爆轟が続いていた。

 割れた氷柱から歩みでた赤い王冠をつけた天使も剣戟(けんげき)に加わり勝敗が簡単につくとテレーゼは予想した。だがそれが簡単に終わりそうにない。

 1柱じゃ足らないんだ!?

 そんなに銀眼は強いのかと今更(いまさら)にテレーゼは脅威を抱いた。

 響きあう(ブレード)の音を()いテレーゼ・マカイは最初に自分が削っていた氷柱へゆくと腹に力込め(さけ)んだ。

 すると氷柱全面に細かな(ひび)が走り、覆っていた氷が砕け散った。

 眼を開けたもう1人の天使は最初のものにそっくりだったが青い王冠を載せていた。

────そなたが(わらわ)を解放したのか?

 テレーゼは意識に話しかけられ愕然(がくぜん)となったが、両手握り会わせ祈った。

 そうです。どうか、もう1柱の天使様と、アイリ・ライハラを手伝い銀眼の魔女を滅ぼして下さい。

────良かろう。聞き届けた。

 見上げた前でその青い王冠を載せた天使が空中から雷光の大剣(クレイモア)引き抜くといきなり横へ大振りし(ブレード)の先に3人の刃口(きっさき)がぶつかり動きが一瞬止まった。

 花びら広がるように(やいば)打ち広げた4人は距離おいて離れ天使の1柱がアイリ・ライハラに(たず)ねた。

────ノッチス・ルッチス・ベネトス、どうしたそのなりは?

 ああ、そうか。天使らが監禁されている間に青竜と千切ったんだ。知らないはずだ。

「あぁ──ノッチは別の世界に取り残されいる。こいつ倒さないと救い出せねぇ」

────そうか。ならそれを忠義に戦おう。

 青い王冠の天使がアイリの意識に直接いうとにらみ合う銀眼の魔女へ雷(ソード)を振りまわし、もう1人の赤い王冠の載せた天使が遅れまいと()りかかった。

 恐ろしい速さの天使らに対等に打ち合ってる銀眼の魔女にアイリ・ライハラは舌を巻いた。

 これで俺が入るとさらに銀眼の魔女は負担増えるわけだが、銀眼が打ち負けない感じがした。

 1人で挑んだ時にはぎりぎり打ち負けてると思ったがなんの────アイリ・ライハラは戦慄が走った。

 天使2柱がいれば勝てるなんて思ったのが間違いだったか。

 だがこれで俺が入り勝てなかったら────だめだ。剣戟(けんげき)は負けると意識した時から負けが始まる。

 これにかかってるのは自分の命だけではないのだ。

 直後、アイリ・ライハラは長剣(ロングソード)振り上げ正面から()り込み銀眼の魔女はまるで4本の腕を操り応戦するが(ごと)く異様な強さを放った。

 その刹那(せつな)、赤の冠載せた天使にアイリは言われた。


────どうしたノッチス・ルッチス・ベネトス。百の腕と言われたお前がその程度では手を抜いているのか?


 百の腕!? アイリの意識に電撃が走った。あれはティタノマキアでタイタンの巨人族と闘いし百腕巨人族、膠着状態に陥っていた戦況を変え、至上神側が勝利する一因となった大地巻き込む神々の戦い。

 青竜の強さは速さと雷撃のパワーだけではない。1人で50人分の働きする100もの岩山を一瞬に投擲(とうてき)する能力を秘めていた。

 アイリ・ライハラは思い出し長剣(ロングソード)以外に99の雷剣(サンダーソード)を振り上げ銀眼の魔女へ襲いかかった。

 その乱れ打ちに優先を誇示(こじ)していた銀眼の魔女が後退(あとず)さり始めた。

 そうだこいつは場が劣勢になると場所を移動し戦況を変えようとする。そうはさせじとアイリ・ライハラは魔女の背後に回り込んだ。

 前後から凄まじい猛攻を受け形勢保てなくなった白髪の女が苦し紛れに周囲へ氷壁を生み出し()えようとした。

 もはや足掻(あが)きだった。

 右手首を切り落とされた一瞬、左肩を両脚を次々に()り落とされ氷床(ひょうしょう)に倒れた銀眼の魔女をアイリ・ライハラはさらに乱れ打った。

 その細切れの肉片から黒い油のようなものが血に混じり流れ出すとアイリ・ライハラはそれを雷撃で焼き払った。


 (あるじ)倒れた直後、氷床(ひょうしょう)の床が揺れ始め亀裂がそこらかしこに広がるとアイリは天使に礼を述べた。


「おかげで勝つことができました。ご無事でここから逃げだしてください」



────礼を述べるのは(われ)らが方、アイリ・ライハラ、テレーゼ・マカイ望みを言え。



 崩壊してゆく銀眼の魔女の牙城を駆け抜けアイリとテレーゼにノッチが合流した。

「テレーゼ! お前何を望んだんだ!?」

 駆けながら顔を振り向け勇敢な剣士に少女が(たず)ねた。

「姉様が、改心した姉様──テレーザ・マカイが戻ることを! アイリ殿は!?」



「里へ帰りたい。それだけだ」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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