第23話 あっち向いてホイ
文字数 1,934文字
しゃがみこんで頭を抱え込むアイリ・ライハラを見てヘルカ・ホスティラがなじった。
「現実逃避────」
顔を振り上げ少女が言い返した。
「だって仕方ないじゃん! こいつら連合の人たちを食い物にしてたんだぞ!」
そう言い張って倒れた狼族 らをアイリは腕を振って指さした。
「とりあえずイルミ・ランタサル王妃 に報せて事後策を待とう」
そう女騎士に言われたアイリは振り向いて下唇を咬むと涙目になった。狼小娘リーナがアイリの服をつかんでいて少女に問うた。
「どうするでちゅか?」
「うぅっ! しるかぁあ────」
魔物らを倒したあとのことを考えていないのはヘルカも同じじゃないのかとアイリは横目で大柄な女騎士を睨 んだ。
だいたい国の行く末なんぞ大人の考えることじゃねぇぇのかぁ! お子さまが関わることかぁ!
「ところでリーナ、お前ェ何歳だ?」
「10ちゃい」
じゅ、10歳ぃいいいい!!!
「俺よりお子さまじゃねぇかぁ!」
アイリはどん引きしてしまった。こんな奴に襲われかかったのかと顔の右半分を引き攣 らせた。
アイリは脱力してしまい座り込んで両腕を投げだした。
「アイリ、やることはあるんだぞ。この部屋の死んだ狼族 らを連合の人の指導階級層の連中に見せて組織再編成を────」
アイリがぽか──んと口を開けて見つめていることにヘルカは気づいた。
あぁだめだ。こいつ頭がテンパっている!
呆けて見つめているのはアイリだけじゃなかった。狼小娘のリーナは人の顔から獣 の顔に戻って顎 を落としていた。
あっ! 結局我 が采配振るわなきゃならんのだと女騎士は眉間に皺 を刻んだ。
ちょっと荷が重い。
イルミ・ランタサル王妃 に助け船を出してもらうにも連絡を入れて1、2日では返事もなく。待って最短でも2週間は指示を仰 げないだろう。
それまでに狼族 らの死体は腐って大変なことになる。
「わかったよ。我 がなんとかしよう」
とたんにアイリ・ライハラの表情がパッと明るくなったので女騎士はムッとした。
「手始めに、騒ぎにならぬようこの魔物らのことは伏せておいて、連合のお偉 いさんを探すとしよう」
そう告げてヘルカは剣 を鞘 に戻し、布を巻くとアイリも立ち上がり同じように剣 を隠した。
2人を犬顔のリーナが黙って見ているのでヘルカはいつ人の姿に戻るのか黙って待っていた。ところが一向に人外の姿のまま人にならないので、ヘルカは短いうなり声を上げアイリに目配せした。
アイリは女騎士がしきりと目配せするので理由を尋ねた。
「なんだよ? 言えよ。わかんないじゃないか」
「アイリ、貴君の連れはその顔でよそに連れて行けはしないぞ」
「連れ?」
アイリが見回すと傍 らにリーナがちょこんと正座して少女を見上げていた。
「お前ェ人に戻れよ」
リーナは顔の骨をばきぼき言わせようやく人の子どもの顔になるとアイリがたしなめた。
「リーナ、今度から許しなく狼顔になるなよ」
「わん!」
アイリ・ライハラは両腕振り上げどん引きしてしまって言い聞かせた。
「わ、わん──も駄目だからな」
「はい、でちゅ」
こいつ本当にわかっているのかとアイリは眉根しかめて狼小娘を見下ろした。
ヘルカに続いてアイリとリーナも大会議場を出ると女騎士がアイリに頼んだ。
「役人を連れてくるまでこの会議室の扉を誰も開かぬよう見張っていてくれるか」
「え!?」
アイリ・ライハラは眼が点になった。
「3人でぞろぞろ行ったら警戒されるだろ」
「えぇ!?」
アイリ・ライハラは顎 を落とした。
大会議場の扉の前に取り残されたアイリとリーナ。アイリはおどおどと通路の左右に視線を向けていた。
その少女の袖 を引っ張りリーナがねだった。
「ねえねえ、アイリちゃん。たいくつでちゅ。あそびまちょうよ」
少女は呆れ顔を狼小娘に振り向けた。
「俺たちは遊びでここにいるわけじゃねぇ」
「では、なにちまちゅ?」
「しらん」
そう言い切ってアイリはそっぽを向いた。
「じゃあ、あっち向いて犬咬みしまちょう」
あっち向いて犬神 だぁ!? アイリはリーナが言ってることを勘違いしてるのも気づかずちょっと興味を持ったが断った。
「だめだよ。騒いでいると人が────」
「あっち向いてホイ」
狼小娘が指さした方をアイリは見てしまった。
がぶっ!
いきなり腕を咬まれアイリは驚いてリーナを振りほどこうと暴れた。
「なにすんだぁああ!?」
リーナは咬みついた腕から口を放し言い訳した。
「大丈夫でちゅ──甘噛みでちゅから。説明ちまちゅね」
アイリは咬まれた腕をさすりながら身を引いた。
「あっち向いてホイって指さした方を向いたら咬まれるの」
咬まれるんかい!? と思ってアイリはリーナから離れると犬顔になった狼が激しく尻尾を振り始めた。
狼族 の習性侮 りがたし!
「現実逃避────」
顔を振り上げ少女が言い返した。
「だって仕方ないじゃん! こいつら連合の人たちを食い物にしてたんだぞ!」
そう言い張って倒れた
「とりあえずイルミ・ランタサル
そう女騎士に言われたアイリは振り向いて下唇を咬むと涙目になった。狼小娘リーナがアイリの服をつかんでいて少女に問うた。
「どうするでちゅか?」
「うぅっ! しるかぁあ────」
魔物らを倒したあとのことを考えていないのはヘルカも同じじゃないのかとアイリは横目で大柄な女騎士を
だいたい国の行く末なんぞ大人の考えることじゃねぇぇのかぁ! お子さまが関わることかぁ!
「ところでリーナ、お前ェ何歳だ?」
「10ちゃい」
じゅ、10歳ぃいいいい!!!
「俺よりお子さまじゃねぇかぁ!」
アイリはどん引きしてしまった。こんな奴に襲われかかったのかと顔の右半分を引き
アイリは脱力してしまい座り込んで両腕を投げだした。
「アイリ、やることはあるんだぞ。この部屋の死んだ
アイリがぽか──んと口を開けて見つめていることにヘルカは気づいた。
あぁだめだ。こいつ頭がテンパっている!
呆けて見つめているのはアイリだけじゃなかった。狼小娘のリーナは人の顔から
あっ! 結局
ちょっと荷が重い。
イルミ・ランタサル
それまでに
「わかったよ。
とたんにアイリ・ライハラの表情がパッと明るくなったので女騎士はムッとした。
「手始めに、騒ぎにならぬようこの魔物らのことは伏せておいて、連合のお
そう告げてヘルカは
2人を犬顔のリーナが黙って見ているのでヘルカはいつ人の姿に戻るのか黙って待っていた。ところが一向に人外の姿のまま人にならないので、ヘルカは短いうなり声を上げアイリに目配せした。
アイリは女騎士がしきりと目配せするので理由を尋ねた。
「なんだよ? 言えよ。わかんないじゃないか」
「アイリ、貴君の連れはその顔でよそに連れて行けはしないぞ」
「連れ?」
アイリが見回すと
「お前ェ人に戻れよ」
リーナは顔の骨をばきぼき言わせようやく人の子どもの顔になるとアイリがたしなめた。
「リーナ、今度から許しなく狼顔になるなよ」
「わん!」
アイリ・ライハラは両腕振り上げどん引きしてしまって言い聞かせた。
「わ、わん──も駄目だからな」
「はい、でちゅ」
こいつ本当にわかっているのかとアイリは眉根しかめて狼小娘を見下ろした。
ヘルカに続いてアイリとリーナも大会議場を出ると女騎士がアイリに頼んだ。
「役人を連れてくるまでこの会議室の扉を誰も開かぬよう見張っていてくれるか」
「え!?」
アイリ・ライハラは眼が点になった。
「3人でぞろぞろ行ったら警戒されるだろ」
「えぇ!?」
アイリ・ライハラは
大会議場の扉の前に取り残されたアイリとリーナ。アイリはおどおどと通路の左右に視線を向けていた。
その少女の
「ねえねえ、アイリちゃん。たいくつでちゅ。あそびまちょうよ」
少女は呆れ顔を狼小娘に振り向けた。
「俺たちは遊びでここにいるわけじゃねぇ」
「では、なにちまちゅ?」
「しらん」
そう言い切ってアイリはそっぽを向いた。
「じゃあ、あっち向いて犬咬みしまちょう」
あっち向いて
「だめだよ。騒いでいると人が────」
「あっち向いてホイ」
狼小娘が指さした方をアイリは見てしまった。
がぶっ!
いきなり腕を咬まれアイリは驚いてリーナを振りほどこうと暴れた。
「なにすんだぁああ!?」
リーナは咬みついた腕から口を放し言い訳した。
「大丈夫でちゅ──甘噛みでちゅから。説明ちまちゅね」
アイリは咬まれた腕をさすりながら身を引いた。
「あっち向いてホイって指さした方を向いたら咬まれるの」
咬まれるんかい!? と思ってアイリはリーナから離れると犬顔になった狼が激しく尻尾を振り始めた。