第24話 猛者
文字数 1,670文字
まさか魔法まであのおっさん を避けるとは思いもしなかった。
武国デアチを攻め落とした後、アイリ・ライハラの祖国ノーブルから何人もの騎士が統制に派遣され、腹の出たおっさん 騎士マティアス・サンカラがデアチ国剣竜騎士団長と知り信じられぬ20人以上が挑んだ。
結果、刃 どころか指一本触れられずに自滅する形でノーブル国の騎士らが総崩 れとなった。
これは呪いかと誰もが真相を探ったが、ただただおっさん の運が良いだけだということで誰もが不満足げに理解した。
魔女キルシが放った氷結魔法がまさかそのマティアス・サンカラを避けるとは誰も思いもしなかった。その避けた氷土が自分の方へ広がってきてアイリと女大将ヒルダは顎 を突き出し喚 きながら懸命に逃げた。
走るだけ走り背筋を這 い上がる寒気がおさまりアイリが振り返ると氷結魔法の圏外に出ていた。
ふとアイリがマティアスと魔女キルシへと視線を向けると、地団駄を踏む歯がゆそうな魔女がおっさん に何か言い捨て新たな魔法を詠唱 し始め躯 の正面で揺り動かす両手の間に火焔の塊 が生まれ大きくなるのが見えた。
「アイリ殿、もっと逃げた方が────」
女大将ヒルダがそう持ちかけアイリが息を呑んだ。
「うっ────!?」
直後、魔女キルシは両手の間の火焔の塊 を頭上に振り上げそれが急激に屋敷ほどの大きさに膨れ上がった。
さすがにマティアス・サンカラでもあれはマズい!
そう思い見捨てることを躊躇 しているアイリの片手首をつかみヒルダが強引に駆けだしアイリを引き摺 だした寸秒、火焔の巨大な塊 が腹の出たおっさん に急激に迫った。
山麓 の狭い平地を火球が呑み込み怒りのような爆轟の津浪 にアイリとヒルダは押し倒されバラバラと降ってくる大小の岩の欠片からアイリ・ライハラは両手で頭をかばった。
その落石が数個の小石になるとアイリは恐るおそる顔を起こし立ち上がり振り向いて顎 を落とした。
山麓の狭い平地がほぼすり鉢のように抉 れ中央に蟻塚のように残った地面に片手で長剣 を構えたマティアス・サンカラが立っており大きく口を開き生欠伸 をした。
その瞬間、すり鉢の中央に残ったわずかな平地が崩 れおっさん が派手に転がり落ちた。
「な、なんですかぁあの太った騎士はぁ!?」
横で素っ頓狂 な声を上げるヒルダの声にも気づかずアイリは今にして納得していた。
もしかしたらあの無関心さから、あらゆる攻撃に耐性を持っているのかぁ!?
あんな中年太りの騎士が黒騎士ヴォルフ・ツヴァイクやマカイのシーデ姉妹を抑え武国デアチの剣竜騎士団トップにいたわけを目の当たりにした。
魔女キルシも相当ヤバいが、世の中には得体の知れぬ猛者がいるとアイリ・ライハラは鳥肌立った。
大きな赤竜を倒したぐらいで有頂天になっていたことを思い出し騎士団長は気恥ずかしくなった。
すり鉢の底に小山となった土砂の傍 らでのろのろとマティアス・サンカラが剣 の刃口 を地面に突き立て重い身体を起こしていた。
喚 き声が微 かに聞こえアイリがその穿 たれた地面の端へ視線を振り上げると洞穴の入口の前で自分の魔法が利かなかったことに魔女キルシがまた地団駄を踏んでいた。
あの見てくれが少女の魔女はこんな力があるのならノーブル国に狂戦士 を送り込まなくてもイルミやランタサル王を屠 れたではないか?
あれは絶対に悪事を楽しむ口だとアイリは思った。
息を止めて青い瞳を半眼にするとアイリ・ライハラは魔女キルシをこの場で是が非でも倒すのだと己 に言い聞かせた。
黙って抜刀 するアイリに驚いた女大将ヒルダは慌 てて己 の半月刀 を鞘 から引き抜いて振り上げた。
2人の背後でいまだもって健常な騎士ら13人がそれぞれの剣 を引き抜き構え上げ号令を待った。
「我 ら王妃 イルミ・ランタサルの剣 なれど、民 草の守護にして教会の使徒。命に代えてもイズイ大陸に影なす悪を淘汰する定め────」
歌い上げる騎士団長の声が大地の穴に木霊する。
「────聖母ミルイの名においてすべての不義に鉄槌を!!!」
アイリ・ライハラに続き14人の騎士らが斜面を砂塵巻き上げ駆け下りた。
武国デアチを攻め落とした後、アイリ・ライハラの祖国ノーブルから何人もの騎士が統制に派遣され、腹の出た
結果、
これは呪いかと誰もが真相を探ったが、ただただ
魔女キルシが放った氷結魔法がまさかそのマティアス・サンカラを避けるとは誰も思いもしなかった。その避けた氷土が自分の方へ広がってきてアイリと女大将ヒルダは
走るだけ走り背筋を
ふとアイリがマティアスと魔女キルシへと視線を向けると、地団駄を踏む歯がゆそうな魔女が
「アイリ殿、もっと逃げた方が────」
女大将ヒルダがそう持ちかけアイリが息を呑んだ。
「うっ────!?」
直後、魔女キルシは両手の間の火焔の
さすがにマティアス・サンカラでもあれはマズい!
そう思い見捨てることを
その落石が数個の小石になるとアイリは恐るおそる顔を起こし立ち上がり振り向いて
山麓の狭い平地がほぼすり鉢のように
その瞬間、すり鉢の中央に残ったわずかな平地が
「な、なんですかぁあの太った騎士はぁ!?」
横で
もしかしたらあの無関心さから、あらゆる攻撃に耐性を持っているのかぁ!?
あんな中年太りの騎士が黒騎士ヴォルフ・ツヴァイクやマカイのシーデ姉妹を抑え武国デアチの剣竜騎士団トップにいたわけを目の当たりにした。
魔女キルシも相当ヤバいが、世の中には得体の知れぬ猛者がいるとアイリ・ライハラは鳥肌立った。
大きな赤竜を倒したぐらいで有頂天になっていたことを思い出し騎士団長は気恥ずかしくなった。
すり鉢の底に小山となった土砂の
あの見てくれが少女の魔女はこんな力があるのならノーブル国に
あれは絶対に悪事を楽しむ口だとアイリは思った。
息を止めて青い瞳を半眼にするとアイリ・ライハラは魔女キルシをこの場で是が非でも倒すのだと
黙って
2人の背後でいまだもって健常な騎士ら13人がそれぞれの
「
歌い上げる騎士団長の声が大地の穴に木霊する。
「────聖母ミルイの名においてすべての不義に鉄槌を!!!」
アイリ・ライハラに続き14人の騎士らが斜面を砂塵巻き上げ駆け下りた。