第22話 運命の先────

文字数 1,758文字

 身内が倒されたことで攻め手が緩んだイモルキの赤毛の騎士だったが、それでもノッチとヘルカ・ホスティラは攻めあぐねいていた。

 特に力(わざ)のヘルカは速すぎる相手と相性が悪く倒されかけていたのでアイリ・ライハラは加勢についた。

「よく頑張ったなヘルカ!」

「助かります! 小奴、ちょこまかと────」

 (ソード)打ち込みながら軽装の赤毛の騎士を押し返したアイリは驚いた。首()ねた双刀(そうとう)使いと同じほど立ち振る舞いが素早くヘルカでは無理だとアイリは思った。

「青髪! よくも姉様(あねさま)を!」

 こいつら姉妹なのかとアイリは初めて知った。

「それはこっちの台詞だ! 現政権の太鼓持ちめ。手を引くなら命は勘弁してやる!」

 言い返してみたもののアグネスから聞いた話だとこのイモルキの騎士らはまだ子供の時に王と王妃(おうひ)は倒されたことになる。倒すのは前政権から寝返った年配の騎士らだけでよいのだがとアイリは心迷わせた。

 踏み込んで横へ残像引き伸ばした赤毛の軽装の騎士だったが攻め手が右側面だと簡単に読み切れた。

 空中からいきなり振り下ろされてきた(やいば)をアイリは(ソード)振り上げぶつけ合い(たた)き上げその相手が腕振り上げた(すき)(ソード)振り下ろし胸めがけ突きだした。

 そのアイリ突きだした剣先(ポイント)咄嗟(とっさ)に半身開いて(かわ)したが赤毛は軽装を切り裂かれた。

「お前らが現政権を擁護(ようご)するなら倒さなくてはならない」

 そうアイリが警告すると赤毛の騎士の一人が言い返した。

「何を言うか! 姉様(あねさま)を殺した時点でお前らは殺される運命だ!」

 アイリは舌打ちして開き直った。

 殺すつもりで互いに出会った時点で運命は決まっていたのだ。

 アイリ・ライハラはそれまでの速さよりも激速で間合いを一瞬で詰め(ソード)を打ちだした。切っ先が胸に食い込む寸前にその赤毛の騎士は運命を知り唖然とした面もちになった。

 芯の(ぞう)を打ち抜き背から(ブレード)突き出た瞬間、赤毛の騎士は唇を動かしアイリに何か告げようとしたが事切れて両膝(りょうひざ)を落とした。

 (ソード)を引き抜いたアイリは(ブレード)を一振りして血糊(ちのり)を払い落とすとノッチと剣技(けんぎ)続ける(いぶ)し銀の甲冑(アーマー)着た赤毛の騎士へと振り向いた。

 始めた時点で途中で止めることなどできなかった。

 アイリは自分の首を()ねた姉妹の一人に(たず)ねた。

「お前ら三姉妹だったのか!?」

 そうアイリが問うた直後、

「それがどうした!?」

「迷いの森でお前の姉妹が待っている──行ってやれ」

 言い切った瞬間、強速(ごうそく)で踏み込んだアイリ・ライハラは瞬間に(ソード)のリーチにその(いぶ)し銀の甲冑(アーマー)着た騎士に迫り逃げる余裕も打ち返す機会も与えずに首を()ね落とした。


 その落ちた頭部を一瞥(いちべつ)しアイリは仲間達に振り向いて言い放った。


「まだ半数以上残っている。気を引き締め行くぞ」





 それから一刻、城門の前に集まったアイリ・ライハラら九人とアグネス・ヨークは(いま)だに騒ぎになってないことに驚きあった。

 数を報告しあうと騎士78、近衛兵139と合わせ200以上倒したことになり9人は疲労を見せ始めていた。

 引き返すという選択肢もあったが誰一人この絶好の機会を手放しそうになかった。

「罰当たりな連中だ」

 そう言い捨てアイリ・ライハラは(みな)に背を向け城門の扉を押し開いた。

 息を殺し(まば)らな松明(たいまつ)の影揺れるエントランスの気配を探った。

 誰もいないと思った寸秒、アイリは異様な気配に顔を振り向けた。



 エントランスの奥に氷の(つるぎ)もつそいつが立っていた。



「どこまでも(われ)(かか)ずらう────青よ」

 死んだはずだとアイリは息を呑んだ。

「貴様は死体(リッチー)だろう。それがイモルキに何の用だ!?」

「イモルキは関係ない。ここで出会うのが青よお前の命運だからだ────」

 その言い回しに、あぁ間違いなく銀眼の魔女だとアイリは覚悟した。ここには加勢する天使はおらず、銀眼を相手にした経験あるのは九人の半数に満たない。

 最悪な夜だとアイリは思った。

 切っ先を石床に(こす)るように下げて銀眼の魔女へと歩き向かった。左右にノッチ、テレーゼ、ヘルカが広がりミエリッキ・キルシの動きを防ごうとする。


 そのアイリ・ライハラにしか眼中にない銀眼の魔女が軽くステップ踏んだだけで空中に溶け込むと最後方で見ていたアグネス・ヨークが大声で警告した。

「アイリさんの右斜め前縦に(つるぎ)を打ち込んできます!」


 まさにその通りアイリ・ライハラが身構えた寸秒、銀眼の魔女が襲いかかった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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