第15話 温情

文字数 1,692文字

 (やいば)ぶつけ合い裏切り者アレクサンテリ・パイトニサムは捕らえられた。

 捕縛(ほばく)され正座させらたアレクサンテリを取り囲み、解毒薬を呑んだアイリ・ライハラと女剣士ウルスラことテレーゼ・マカイそれにイルブイの女大将ヒルダ・ヌルメラ他数人の騎士が腕組みして裏切り者を(にら)みつけていた。

「アイリ、本当にこいつ魔女キルシの孫なのですか?」

 テレーゼに問われアイリはぼそりと答えた。

「イラ・ヤルヴァが言ったんだ。天使にはお見通しなんだよ」

 (ソード)(スキャバード)からゆっくりと引き抜きながら女大将ヒルダが怒気を含んだ声で言い捨てた。

「打首にして魔女への手みやげにしましょう、アイリ」

 首を()ねると言われても開き直ったのかアレクサンテリは胸を張って平然とアイリを三白眼で(にら)み返していた。

 アイリはヒルダの抜きかかる(ソード)のハンドルに手をかけそれを制しながら思った。

 (さら)し首にして魔女キルシに見せつけたら、寸秒あいつは(ひる)むだろうが、逆に激昂(げきこう)して手強くしてしまうだろう。

 アレクサンテリの裏切りは裏切りだが、身内を助けるのは(どお)り。魔女キルシを助けるためなので憎しみを持って毒を盛ったわけでもないだう。

(ソード)(よろい)()いで追放する」

 アイリの決断を耳にして数人の騎士がざわついた。

「生かして自由にすると魔女に我々のことを知らせ討伐(とうばつ)の邪魔をするかもしれないじゃないですか!?」

 若い騎士がアイリに直訴(じきそ)した。

「ひん()いて(なわ)かけて討伐(とうばつ)が終わるまでここに転がしておくか」

 別な騎士が手心を示した。

「どちらも駄目だ。以前にキルシを縛り上げ野原に放置したら野犬の群れに襲われて魔女は顔にひどい傷を負ったんだ。そのことでもあいつは私を憎んでいる」

 先に直訴(じきそ)した若い騎士にアイリは問い返した。

「首を()ね、埋めてしまえば魔女もこのことを知らないじゃないですか」

 どうしてデアチ出身の騎士は安直に命を奪う方へと発想するのだとアイリは眉根を寄せた。

「さっさと()りやがれ!」

 成り行きを聞いていた後手に(しば)られたアレクサンテリはそう言い捨てアイリの足元に(つば)を吐いた。

 アイリは困惑げに裏切りものを見つめどうしたものかと悩んだ末、アレクサンテリの前に腰を折って両膝(りょうひざ)に手をついて目線を同じ高さにした。

「なあ、アレクサンテリ──お前も騎士なら教会の名の下にこの道に入ったんだろう」

 裏切りものは騎士団長が切りだした話しの内容に動揺したのか見つめられている瞳を(およ)がせた。

「それが──どうした!?」

「なら信仰心はあるんだよな」

「教会を信じるのと祖母を信じるのは別なことだからな!」

 アイリは(わず)かに()をおいて続けた。

「天使はすべてを見ていてお前の今後を決めなさる。教会の下で騎士になったお前が人の道に外れるなら未来永劫、地獄の業火でお前をお焼きになる」

 アレクサンテリが唇を曲げ視線を落とした。

「見ただろう────飛んできた山すら簡単に逸らすことのできる天使がお前の非業をお見逃しになると? お前が地獄に落ち焼かれるのをお前の祖母(おおば)さんは止めることすらできない」

 何も言い返せず(おのれ)の正座した(ひざ)先を見つめるアレクサンテリにアイリ・ライハラは決心がついて立ち上がると歳嵩(としかさ)の騎士オイヴァ・ティッカネンに命じた。

「アレクサンテリの長剣(ロングソード)を取り上げ(よろい)を脱がせろ。こんな原野に放り出されるのも不安だろうから短剣を1口(ひとふり)与えて構わない。用意ができたら手足の(かせ)を解き追放しろ」

 ぷいと裏切りものに背を向け離れてゆくアイリを見つめ剣士ウルスラことテレーゼ・マカイはずいぶんと騎士団長が大人びて見えることに感心した。

 アイリの後を追ってテレーゼとヒルダがついて行くとアイリが半身振り向いた。

「休憩にならなかったな」

 そうアイリに(ねぎら)われヒルダが頭をかいた。

「アイリ殿の一面を知る思いです」

 そうヒルダが告げるとアイリは自分の馬の(くら)をつかみ(あぶみ)に片足をかけひょいと(また)がった。

「裏切られたからと()り捨てたらそれも後味悪いじゃん」

「アイリ、それも温情なのですよ」

 テレーゼに言われアイリは眉根を寄せた。


 温情をかけることが今一つわからんとアイリが思いながら馬を歩かせると、テレーゼとヒルダはそれぞれの馬に急いだ。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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