第20話 一網打尽

文字数 1,567文字

「なんだお前ら──!?」

 剥製(はくせい)の頭部を被ったヘルカ・ホスティラとアイリ・ライハラが統括官(とうかつかん)の秘書室の部屋に入るとソファに座っている6人の男らが腰を上げ誰何(すいか)した。

 そのどの男も一瞬で目が獣のそれに変貌(へんぼう)した。

「ヴィヒトリ・ラウタヴァに直訴したくやってきた」

 そうヘルカが男らに告げた。

「直訴だぁ!? お前らどこの部族のものだ?」

「末端のものだ。それよりも統括官(とうかつかん)に重大な報告がある」

 いけしゃあしゃあと言い切る女騎士にアイリは被り物の中で呆れ顔になった。

 男らが顔を見合わせ(うなづ)き合うと1人が側室の扉を開いた。

「ラウタヴァ様、このものらが大切なお話があると」

 そう言い扉を開いた男がアイリらを招いた。

 初見のその統括官(とうかつかん)を眼にしアイリは狼女の先代よりかなり歳嵩(としかさ)だと思った。白髪(はくはつ)に鼻下から(あご)まで白い髭面(ひげづら)だった。

「何事だ!?」

「貴方が新しい統括官(とうかつかん)なのですね?」

「さよう貴様らはなんだ?」

狼族(ライカン)疫病(しっぺい)について具申したく」

 歳嵩(としかさ)統括官(とうかつかん)の顔色が見る()に青ざめたのを眼にしてヘルカ・ホスティラはしめたと思った。

狼族(ライカン)の人数分、対処薬を用意する用意がございます。数はいかほど用意すればよろしいでしょうか」

 歳嵩(としかさ)統括官(とうかつかん)はうっかり数を口にした。

「39用意できるか!?」

 聞いていてアイリはあきれた。イルベ連合の狼どもはもう一、二桁多いと思っていた。たった39体しかいないのだ。その(わず)かな魔族が何十万という人を支配してうる。この統括官(とうかつかん)と隣の秘書室の男ら6人と、秘書もそうなら一気に倒せば残り31体になる。

 今、先走って倒すと残りを見つけるのが大変だとコヨーテの剥製(はくせい)の頭の中でアイリは唇を(ゆが)めた。


 どうやって、こいつらを人と見分ける!?


「その数ですと今、用意がございます。ただ疾病(しっぺい)の薬は人の姿では効果がございません。再発を防ぐために集めまして一度に投薬いたしましょう」

 すらすらと言い切る女騎士に少女は(あご)を落とした。人化した狼族(ライカン)を見分ける方法なんて必要ない! こいつらを集めるだけだった。

「良かろう。すぐに大会議室に集めよう」

 そうヴィヒトリ・ラウタヴァ統括官(とうかつかん)が言い机を回り込んでアイリとヘルカについて来るように(うなが)した。

 ラウタヴァが秘書室にいた男らと秘書について来るように命じると7人は問いもせずアイリらの後ろをついてきた。

 途中、統括官(とうかつかん)は出会った男ら数人に何か命じるとその男らは離れて行って入れ違いに次々と男女が加わり行列は長くなった。

 2階の大部屋に入り扉が閉じられると、一斉に集まった男女は犬顔の筋骨たくましい狼に変身し始めた。

 ヴィヒトリ・ラウタヴァを除いた全員が狼の魔物に豹変し剥製(はくせい)の頭被ったアイリとヘルカを取り囲んだ。


「どうした、お前ら──圧倒されたか」


 そう統括官(とうかつかん)が言い捨てアイリはなんだか様子がおかしいと気づいた。

「どんなに変装しようとも人間の匂いは隠しきれぬわ!」

 そう言い放ち統括官(とうかつかん)が骨をごきごき言わせ白狼に変身した。

「アイリ、どうしよう?」

 取り囲んだ狼族(ライカン)に向かい少女に背を向け合ったヘルカ・ホスティラが困ったように問うた。

 この状況で逃げようがあるわけないじゃん、とアイリはコヨーテの面の下で苦笑いした。ヘルカのでまかせがバレたんじゃなく匂いで化けの皮を()がれていたのがせめてもの救いだった。ざっと見に40ほど狼族(ライカン)はいた。これですべてなら今、ここで倒せば根絶やしにできる。

 だが兵士40騎ならなんとでもなるが人の二倍近い背丈になった屈強な魔物40を一度に相手するとなるとヘルカ・ホスティラを同時に守ることは難しく思えた。



 ()らなければ()られるだけだ。



「ヘルカ、腹をくくれ!」

 そう言い切った少女はコヨーテの剥製(はくせい)の頭をつかみ投げ捨て、(ソード)(スキャバード)に巻いた布を振りほどいた。

 部屋を圧倒する咆哮(ほうこう)を上げる狼の魔物らが一斉に少女と女騎士に襲いかかった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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