第3話 第11位階

文字数 1,651文字

 (みな)が部屋から急ぎ出るとアイリはそのコップ一杯分ほどの黒い何かに向かい合った。

 燃やせばなんとかなるとの直感は見事に外れ、それに意思があるように思えるのは回り込んで退路を塞ごうとする姑息(こそく)さ。

 それに触れたが最後、浸食され命や意思を奪い去られる予感。

 こいつを銀眼の魔女が仕込んだのか、こいつが銀眼の魔女を操っているのかとアイリは考え後退(あとず)さりながらぶつける椅子の背もたれをつかみ上げた。

 寸秒、アイリ・ライハラは力込め四脚の椅子振り上げ黒い液体に叩きつけた。

 ばらばらに砕けた椅子の残骸の隙間(すきま)からその黒い液体が染み出してくると一塊の()まりになってまたアイリへすり寄り始めた。


「き・も・い!!!」


 アイリは(しも)の張ったベッドのシーツをつかみ上げ勢いつけてその黒い何かに被せ、跳び上がるとその盛り上がりを踏みつけ床にこすりつけた。

 布のはしから黒い染みが湧き上がりアイリは跳び離れた。

 だめだ! 布をかぶせ火を点けるしかない。

「火を用意して!」

 そうアイリが部屋の穴から廊下に逃げだした(みな)に頼んだ。

 すぐに(ソード)に巻いた布に火を点けた松明(たいまつ)を入れられアイリに手渡された。

 その動く黒き液体へ松明(たいまつ)を浴びせると液体は跳び()ね逃げだした。

 それを追い詰めアイリ・ライハラは焼こうと反転した。



 いきなり化粧台の鏡から銀眼の魔女が半身現れた。



「好き勝手やってくれると────わかっていなかった」

 そう告げ銀眼の魔女はぬるりと鏡台から滑り出てきた。

 アイリ・ライハラの背後に部屋への穴があり逃げだすことは十分にできた。

「アイリ、部屋から出て廊下に魔女を誘い出しなさい!」

 そう穴から見ているイルミ・ランタサルが命じたが布を巻いて火を揺らめかせている(スキャバード)からアイリ・ライハラは長剣(ロングソード)を引き抜き(スキャバード)を捨て、続いて右手で帯刀する長剣(ロングソード)を引き抜いた。

「愚かな青の小娘よ────力と速さで劣ることを知ることがあっただろうに」

 銀眼の魔女が右手を指し伸ばすと動き回っていた黒い液体が跳び上がり片腕にまとわりついて腕を這い上がり額に()い登った。

 銀眼の魔女ミエリッキ・キルシの額がぱっくりと縦に割れると額から頭蓋骨内に流れ込んだ。

 それを見ていた少女が吐き捨てた。


「やっぱりお前、ゲテモノだな!」


 銀眼の魔女ミエリッキ・キルシは押し殺した声でアイリへと脅した。

「さあ、青よ調教の時間だ」


「アイリ! 早く通路へ!!」

 穴からイルミ・ランタサルが少女へ怒鳴った。


 だがアイリ・ライハラは大声で否定した。

「くるんくるん! 穴から離れてろ!」



「天使様を捕まえたんだって!? 百万の軍勢に等しい天使様を2柱も罠にはめて調子こいてんだろ」



 眼の前で両腕振り出し氷結の(ソード)2口(ふたふり)を構えた銀眼の魔女へアイリ・ライハラは(つぶや)いた。

「────天使様の猛攻にさえ折れない我はノッチス・ルッチス・ベネトス────────天上人(てんじょうびと)(つるぎ)と云われるんだ」

 アイリ・ライハラは身体の左右で長剣(ロングソード)を振り回し右足引いて半身開き構えた。



「青よ────死ぬ時だ」



 その魔女の宣告にアイリ・ライハラは力強く言い返した。

「青ではない────聖白の耀(かがや)き」



雷吼一閃(らいこういっせん)! クワドロプル・マキシマイ(四重強化)ムマジック──チェイン・ドラゴン・ラ(連鎖竜雷)イトニング!!!」



 第11位階超高等マジックを詠唱(チャンティング)したアイリ・ライハラは後ろの氷壁を砕き大穴を開け砲弾よりも早く稲妻となり残像さえ(かす)み銀眼の魔女ミエリッキ・キルシへと突き進んだ。

 振り向けた2口(ふたふり)の氷の(ソード)を左右へ弾き広げさせアイリ・ライハラは天上人(てんじょうびと)の力を白髪の女に雷光の剣技(けんぎ)を受け入れさせた。

 直後、一瞬の超極短時間にアイリ・ライハラは押し出した2振り(ふたふり)の交差させた(ブレード)を閉じ銀眼の魔女────ミエリッキ・キルシの首を左右から切り落とした。



 その切れ飛んだ首を氷の長剣(ロングソード)を投げ捨てつかんだ銀眼の魔女は斜め後ろに足を踏み換え(からだ)を大きく振ると()れ墜ちた首を(つな)(わめ)いた。

「な、なんだぁ! お前のその異様な速さは!!?」


「教えてやる」



「雷竜すべての力をこの小さすぎる身体に封じ込めているからだ」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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