第17話 ぼっち

文字数 1,606文字



 (くっ)すると些細な事で揉めがちとなる。ヘルカ・ホスティラに食ってかかるアイリ・ライハラを年の功で(かわ)す女参謀長は、何のかんの言ってもやはり騎士団長(きしだんつおう)は15歳なのだと可哀想になった。3国の騎士団長(きしだんつおう)だけでなく十字軍の総大将までやらされるには若すぎる。

 まあ十字軍の総大将っていうのはまだ眉唾ものでしかなかったが、とヘルカはアイリの元へ人が集まるのも小娘の宿命なのだと思った。

 かく言う自分も参謀長などという役職などまだ歳早いとヘルカは控え目に思うのだが、アイリ・ライハラが騎士団長(きしだんつおう)拝命(はいめい)したからに他ならずとばっちりでもあった。

 とばっちり──とばっちり。

 イジメてみたくもなろうて。

「やい! ヘルカ! 首洗って待ってろよ!」

 どこで覚えるのか口ばかり汚くなりやがってとヘルカは思った。

 振り向くと萌え萌えきゅん──じゃなかった。

「貴君、意味がわかって首洗ってろなどと言ってるのか?」

 騎士らに束でしがみつかれアイリ・ライハラはじたばたも出来ずにいた。だがいつになくブチ切れている騎士団長(きしだんつおう)は手足にしがみつく騎士らを振り解こうと身体をよじった。

 ヘルカ・ホスティラは身動きの取れない上官の方へ行くと他の騎士らに命じた。

「動かない様にしっかりと押さえておけよ」

 ぶん! ヘルカ・ホスティラの(こぶし)がアイリの腹に食い込んだ。

 アイリは泡を吹きがっくりと頭を落とすと静かになった。

「頭の下に石の(まくら)を敷いて寝かせてやれ」





 寒気と静かさに意識が戻り眼が覚めた。

 アイリ・ライハラは広い洞窟(どうくつ)で寝ていた。

 手をついて上半身を起こし周りを見まわした。

 誰もいない。

 十数名の騎士がいなくなっていた。

「俺をおいて引き上げやがったか──」

 置いてきぼりは悔しくなかったが、1人は(さみ)しかった。

 アイリは立ち上がり甲冑(アーマー)についた土をはらうと(ソード)を引き抜いた。先折れの(ブレード)が挫折したようで気にくわなかった。

「しゃあない。1人で行くか──」

 ぶつぶつと(つぶや)きながら42階層への坑道をアイリは下りてゆく。42階層に騎士ら数人がいるかもと淡い期待を抱いたが、小ぶりの魔物が2体待ち受けているだけだった。その2体をあっさりと倒してアイリは43階層へと続く坑道をてくてく下りながらぶつぶつとボヤいた。

「あいつら騎士団長を置いてきぼりにして──(みんな)して迷宮出口へ戻るなんて────最低だな」

 (つぶや)きを大声にしても40階層余りも上の連中に聞こえるはずもなかった。

 43階層への坑道を歩みながらアイリはふと下の階層で騎士らが待っているかもと思った。竜のユランに手こずって途方に暮れて真打ちの登場を待ってる。

 下りてみたらユランしかいなかったが、がっつりと竜退治をした。

 やっぱり(みんな)は帰ったのだ。考えるとそればかりが頭の中をぐるぐる回った。

 44階層は魔物もおらず、座るに良い大きさの岩があったのでアイリは座り込んで腕組みをした。

 ふと、ここで帰ろうかと思って(かぶり)振った。

 初志貫徹(しょしかんてつ)! 引いてたまるか。

 両膝(りょうひざ)を叩いて立ち上がろうとした瞬間背後でくしゃみが聞こえてアイリは振り向いた。1つ上の階層に繋がる坑道に数人の騎士が見えてアイリは驚きの声を上げた。

「お前ら! 帰ったんじゃなかったのか!?」

「1人になった貴君が(あきら)めるかを(みな)で賭けたんだ」

 ヘルカ・ホスティラが出てきて説明した。

「ひでぇ────ぇ、お前ら」

「アイリ・ライハラは(あきら)めないに賭けた(われ)の1人勝ちだったが、な」

 大笑いするヘルカ・ホスティラにアイリ・ライハラは下唇を突き出した。

「45階層の魔物はなんだ」

 参謀長に問われアイリはぶっきらぼうに教えた。

「不純の二角獣──バイコーン」

「馬か、馬はなぁ」

 ディオメーデースの人喰い馬を思いだしてヘルカは苦笑いを浮かべた。

「大丈夫だよ。俺が倒す」

 言い切りアイリ・ライハラは先折れの長剣(ロングソード)を引き抜いた。


野郎共(やろうども)! 行くぞ!」


「おぉう!」

 騎士らの気勢にアイリ・ライハラは笑って駆けだした。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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