第1話 馬鹿者どもがぁ
文字数 2,070文字
「ホスティラ殿ぉ──お願い致しますぅ!」
デアチ国剣竜騎士団の古参中堅騎士のオヤジが後ろから腕にしがみつき懇願 するのを耳にしヘルカ・ホスティラは眉根を寄せ思った。
こいつ声が裏返るほど困惑してるのか!? と、歳を考えろ。我よりも20は嵩 がありながらそのうろたえ振りはなんだ! お前は大陸で指折りの軍事大国の古株だろうが! 威厳 を崩 すなぁ!
騎士同士の決闘なぞ放っておけばいい。理由は知らぬが互いに騎士道に乗っ取り譲らぬだけだ。まあ面子 があって引けぬのかも知れぬがよくある諍 いだ。あるあるだぁ! と女騎士は小鼻をひくつかせた。
「ホスティラどのぉぉぉ──士気に関わりますぞぉ」
士気ときたかぁ!
団結心や戦闘練度が下がると!?
たかだか騎士2名が決闘してどうして先遣隊 の士気が下がる!? 逆に昂揚 するであろう────がっ! とヘルカは思い古参騎士へ指摘しようと思った。
「いいか──う、ウンコ──」
言いにくそうにヘルカが切り出すと即座に古参騎士が食いついた。
「ホスティラ殿ぉ、いい加減に名前をわざと間違わないで頂きたい。ウコンでぇござるよ」
えっ!? と古参騎士に背を向けたまま女騎士は眼を寄せた。こいつから確かにウンコと聞いた覚えがあるのだが。その時にふざけた名前だと深く印象にあるのに。
「うんこ、暇 だな」
「そ、そうやって言い方変えても意味は同じですし、家名まですり替え意地悪するのはお止め頂きたい。ヒマネンでござる」
えぇぇ!? こいつ我に確かに暇 だと名乗ったではないか!? とヘルカ・ホスティラは苦笑いを浮かべ、今や祖国ノーブル国リディリィ・リオガ王立騎士団の90倍も人数のいる剣竜騎士団の騎士1人ひとりの名前なんて一々覚えていられるか、と女騎士は開き直りすがりつかれた腕の方へ振り向いて尋 ねた。
「で、その揉めている騎士2名は誰と誰なんだ?」
どうせ名前言われても顔も思い出せないとヘルカは敗戦国の騎士らをちらりと思った。
「アイリ・ライハラ殿とウルスラ・ヴァルティア殿でござる」
あの見てくれだけが19歳の問題児と、決して兜 のフェイスガードを上げぬ謎の剣士かとヘルカはすぐに思いだした。
「そんな連中は知らん!」
言い切り女騎士がそっぽを向こうとするのをうんこ が引っ張ってなんとか止めた。
「知らぬわけがござらぬ! 片や美少女──いえ、童顔でありながらデアチ国剣竜騎士団のリーダー、もう1人──ウルスラ・ヴァルティア殿は練習試合で参謀長の貴女 の膝 を地に着けさせた手練 れでござるぞ」
くそうこいつ嫌な事ばかり突きつけてくる。悪魔みたいなうんこだぁ! とヘルカ・ホスティラは唇をねじ曲げた。
ああ、イズイ大陸西の蛮国イルブイの不穏 な動きさえなければこんな変な連中と国境警備に出ることもなかったのにと騎士道一筋の女騎士は思った。
「うんこ、どうせあの青髪が勝つんだ。放っておけ。ちょっと血を流せば互いに頭も冷えるだろう」
ふとヘルカは揉める理由を知りたくなった。その理由次第であの謎の剣士の素性 がわかるかも知れぬと考えた直後だった。
凄まじい甲高い音に2人が耳を押さえ頭抱え込んで膝 を落とした刹那 、野営テントが裂けた。
差し込む頭痛に抗い裂けたテントの切れ目へヘルカ・ホスティラが視線を向けると、うずくまる騎士や兵士らの先に対峙する2人が見えた。
「ウコン・ヒマネン! 工兵からシャベル借りて来い!」
そう命じて女騎士ヘルカ・ホスティラは立ち上がりテントの裂け目から外に出てゆくのを揺らぐ視界でとらえながら古参騎士はシャベルなどでどうするのだと立ち上がりよろめいた。
うずくまる兵士らを避けながら女騎士は我慢してアイリ・ライハラと謎の剣士ウルスラ・ヴァルティアの方へ近づくと耳鳴りが増し足取りがおぼつかなくなり何なのだと困惑した。
寸秒、いきなりヴァルティアの被る兜 のフェイスガードが砕け散った。それと同時に凄まじい耳鳴りと割れるような頭痛が消え去り、アイリが驚き青ざめた顔で服からスカーフを引き抜き謎の剣士に駆け寄りその兜 に被せ顔を隠し視線が向けられていないか探るように周りを見回しヘルカ・ホスティラと眼が合った。
「アイリ! 貴殿はそやつの素性を知ってるのか!?」
大軍の指揮官となった見てくれが19歳の少女が戸惑った面もちになるのを見て参謀ヘルカ・ホスティラはあの凄まじい音に覚えがあると思いだした。
デアチ国へイルミ王女と向かっていた最中 襲ってきた紫色の甲冑 を着た女騎士。叫び声で切り刻む奇っ怪な妖術で襲いかかってきたあの女!
「そいつ────お前が切り刻み死んだはずのマカイの片割れなのか!?」
眼を丸くしたアイリ・ライハラがぶんぶんと頭 振り否定したのが大嘘だと女騎士ヘルカ・ホスティラは勘 で気づきシャベルを持って駆けつけたウコンからその土木工具を受け取りアイリ・ライハラと謎の剣士ウルスラ・ヴァルティアに言い放った。
「お前ら2人、騒動の罰を受けよ!!」
女騎士ヘルカ・ホスティラは怒鳴るなりシャベルを地面に突き立て恐ろしい勢いで穴を掘り始めた。
デアチ国剣竜騎士団の古参中堅騎士のオヤジが後ろから腕にしがみつき
こいつ声が裏返るほど困惑してるのか!? と、歳を考えろ。我よりも20は
騎士同士の決闘なぞ放っておけばいい。理由は知らぬが互いに騎士道に乗っ取り譲らぬだけだ。まあ
「ホスティラどのぉぉぉ──士気に関わりますぞぉ」
士気ときたかぁ!
団結心や戦闘練度が下がると!?
たかだか騎士2名が決闘してどうして
「いいか──う、ウンコ──」
言いにくそうにヘルカが切り出すと即座に古参騎士が食いついた。
「ホスティラ殿ぉ、いい加減に名前をわざと間違わないで頂きたい。ウコンでぇござるよ」
えっ!? と古参騎士に背を向けたまま女騎士は眼を寄せた。こいつから確かにウンコと聞いた覚えがあるのだが。その時にふざけた名前だと深く印象にあるのに。
「うんこ、
「そ、そうやって言い方変えても意味は同じですし、家名まですり替え意地悪するのはお止め頂きたい。ヒマネンでござる」
えぇぇ!? こいつ我に確かに
「で、その揉めている騎士2名は誰と誰なんだ?」
どうせ名前言われても顔も思い出せないとヘルカは敗戦国の騎士らをちらりと思った。
「アイリ・ライハラ殿とウルスラ・ヴァルティア殿でござる」
あの見てくれだけが19歳の問題児と、決して
「そんな連中は知らん!」
言い切り女騎士がそっぽを向こうとするのを
「知らぬわけがござらぬ! 片や美少女──いえ、童顔でありながらデアチ国剣竜騎士団のリーダー、もう1人──ウルスラ・ヴァルティア殿は練習試合で参謀長の
くそうこいつ嫌な事ばかり突きつけてくる。悪魔みたいなうんこだぁ! とヘルカ・ホスティラは唇をねじ曲げた。
ああ、イズイ大陸西の蛮国イルブイの
「うんこ、どうせあの青髪が勝つんだ。放っておけ。ちょっと血を流せば互いに頭も冷えるだろう」
ふとヘルカは揉める理由を知りたくなった。その理由次第であの謎の剣士の
凄まじい甲高い音に2人が耳を押さえ頭抱え込んで
差し込む頭痛に抗い裂けたテントの切れ目へヘルカ・ホスティラが視線を向けると、うずくまる騎士や兵士らの先に対峙する2人が見えた。
「ウコン・ヒマネン! 工兵からシャベル借りて来い!」
そう命じて女騎士ヘルカ・ホスティラは立ち上がりテントの裂け目から外に出てゆくのを揺らぐ視界でとらえながら古参騎士はシャベルなどでどうするのだと立ち上がりよろめいた。
うずくまる兵士らを避けながら女騎士は我慢してアイリ・ライハラと謎の剣士ウルスラ・ヴァルティアの方へ近づくと耳鳴りが増し足取りがおぼつかなくなり何なのだと困惑した。
寸秒、いきなりヴァルティアの被る
「アイリ! 貴殿はそやつの素性を知ってるのか!?」
大軍の指揮官となった見てくれが19歳の少女が戸惑った面もちになるのを見て参謀ヘルカ・ホスティラはあの凄まじい音に覚えがあると思いだした。
デアチ国へイルミ王女と向かっていた
「そいつ────お前が切り刻み死んだはずのマカイの片割れなのか!?」
眼を丸くしたアイリ・ライハラがぶんぶんと
「お前ら2人、騒動の罰を受けよ!!」
女騎士ヘルカ・ホスティラは怒鳴るなりシャベルを地面に突き立て恐ろしい勢いで穴を掘り始めた。