第10話 意地っぱりぱり

文字数 1,739文字


 マカイのシーデ姉妹が叫び声で切り倒した倒木に逃げ道を塞がれ立ち往生した青髪の少女は振り向いて迫る連中に向かい合った。

 冷や汗を流し苦笑い浮かべたアイリ・ライハラはいきなり右腕を振り上げ大人らを指さし怒鳴った。

「やいてぇめらぁ! お子様に寄ってたかって恥ずかしくねぇのか!?」


「ふん! 誰がぁ、だっ!?」


 双子の女騎士の姉か妹かわからない方が言い放った。咄嗟(とっさ)に少女は自分を指さした寸秒、双子の女騎士の片割れが押し殺した声で(なじ)った。


「死にさらせぇ」


 そういうツッコミをするかぁ! 今のが姉の方だとアイリは顔を引き()らせた。もう片方の妹の方が(こぶし)よりも大きな石を拾い上げている。それを投げつける気か!? あいつの方が口よりも行動にでる直情型だと少女は警戒しながらそばに転がるもっと大きな飛礫(つぶて)を拾い上げた。

 寸秒、妹の方が石を投げ捨てアイリの頭ほどもある石塊(せっかい)を抱え上げた。

 それを眼にして少女は飛礫(つぶて)投げ捨て土に埋まっている肩幅よりも広い岩にしがみつき腰を落としてかけ声1発引き抜いた。

 マカイの妹がそれを目にして石塊(せっかい)を放り出すと離れたところにある大人の身長ほども横幅のある岩塊(がんかい)へ行こうとして姉に片腕をつかまれ振り向いた。


 (あご)を突き出し冷ややかな目でテレーザ・マカイが見つめ問いただした。


「何をしてる?」

 テレーゼ・マカイは苦笑い浮かべ説明した。

「いやぁ、あの自称お子様に投げつける岩をだな──」

 姉が無言で視線を少女へと振り妹は顔を向け目を丸くした。



 アイリ・ライハラが(おのれ)の身長の3倍もある岩石を両手で頭上に上げ両手両足を震えさせていた。



 テレーゼは姉の手を振りほどき土から飛びだした部分だけで自分の身の丈よりも大きな岩塊(がんかい)に行こうとしてテレーザに怒鳴られた。

「馬鹿かぁ! 彼奴(あいつ)の術中に()まりおって!」

「うっせぇ! あれに負けたくねぇんだよぉ!」

 小鼻膨らませテレーゼは鼻息荒く言い返したとたんに姉が後退(あとず)さりだした。

 ぶん! ごぉぉぉぉおおおオオオオ!

 異様な音に顔を強ばらせマカイの妹は飛び退()き両手片足を振り上げ真っ青な横顔で見つめた先に地響きを上げ大きな岩石が立っていた場所にめり込んだ。

 直後、マカイの妹は額に青筋浮かべより大きな岩塊(がんかい)砂埃(すなぼこり)巻き上げ駆けだした。

 それを横目で見ながら姉の方が少女へ進み出て吐き捨てた。

小賢(こざか)しい!」

 アイリがマカイの片割れに左足を突き出し半身向かい腰を落として両腕を上げ手刀を構えその手をくるくると小さく回し始めた。



 き、奇っ怪なぁ!? テレーザは唇を(ひず)右頬(みぎほお)痙攣(けいれん)させ1歩後退(あとず)さった。妹のテレーゼを難なく倒した(やから)だった。動きが素早いだけでなくどんな隠し技を持っているかと不安が鎌首を持ち上げた。



 どう攻撃を仕掛けてくるとマカイの姉は小娘を警戒心で観察するといきなりそいつが構えたまま小走りに後退(あとず)さった。

 テレーザはドキドキしながら、広がった間合いを一気に小娘が駆け込んで来ると、腰ものに手をかけた。

「姉様ぁ────ど、ど、どいてぇ!」

 あぁああ!?

 顔を振り向けたマカイの姉が(ソード)のハンドルにかけた手を放すのも忘れ唖然となった。



 妹が荷馬車ほどもある岩塊(がんかい)を頭上に持ち上げ右に左に定まらずフラフラと歩いてくる。



 今にも限界を(きた)しそうに腕とがに股の足を震わせている。

「くっ、来るなぁ!」

 そう拒絶する姉の方へテレーゼは足を踏みだしてしまい踏みとどまろうと岩石をそちらへ傾けてしまうと青ざめた姉は腕を振り上げテレーゼを指摘した。

「あぁあああ! て、テレーゼ、き、貴様ぁ! い、(いじ)めてきたことを────ねっ、根に持ってるなぁ!」



「いえ、そんなことありません────」



 言い切った妹はさらに岩塊(がんかい)を傾けた。

「あ、便秘のゴブリンがぁ尻に手を突っ込んで糞を掻きだそうとしてるぅ!」

 大ピンチのテレーザと崖っぷちのテレーゼが思わず顔を大声上げた少女へ振り向けた。



 鼻先を上へ人さし指で吊り上げたアイリ・ライハラが(つぶや)いた。

「ぶひぃ!」



 どぉおん!



 落っこちた岩塊(がんかい)にしがみつきマカイの妹が騒ぎだした。

「姉様ぁ! 姉様ぁ、今、助けますから!」



 後ろから見ていた黄泉の河守りカローンが隣にいる黒騎士に問いかけた。

「あんたもあの口で()られたのか?」

 騎士が(スカル)を激しく横に振った。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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