第5話 容赦なく

文字数 1,631文字

「貴君はもう16だ。酒を覚えてもよい歳だ」

 そうヘルカに言われアイリ・ライハラは街に連れ出された。

 大人は酒でうさを晴らす。鬱憤(うっぷん)をごまかしてもとアイリは苦笑いを浮かべた。

 家路を急ぐ人たちに交わり夜にくり出すものの流れにのる。酒を求め夕闇の繁華街を歩く。いきなりヘルカ・ホスティラが向かいから歩いてきたフードを深めに被った男らに声をかけた。

「おい、お前らどこのものだ!?」

 男らが緊張したのがアイリにはよくわかった。外套(がいとう)の下で男らは(ソード)に手をかけている。

 外套(オーバー)(すそ)跳ね上げ男らが振り向いた寸秒、ヘルカ・ホスティラとアイリ・ライハラは(ソード)を引き抜き人の流れが絶たれ広がり幾人かの悲鳴が耳に届いた。

「ヘルカこいつら!?」

 後から(ソード)引き抜いたアイリが男らと女騎士よりも先に(ソード)振り切り駆け込んだ。

 外套(がいとう)跳ね上げ後退(あとず)さりする男の一人にアイリは(ブレード)打ち込んだ。

(ソード)を引き抜いた男は四人組の内二人だった。

 その二人にアイリが浴びせ()りを連打した。

 打ち込みながら逃れる男らが手強いとアイリは思った。

「お前らどこの手のものだ!?」

 アイリは最後に浴びせた男に問いただした。男のフード下から覗いた顔が歯を食いしばっていた。

 ヘルカがもう一人の男に肉迫していた。

 剣戟(けんげき)に加担していない二人の内一人が(ふところ)から丸い黒玉をアイリの足元地面に投げつけると灰色の爆煙が広がりアイリとヘルカは跳び退()いた。

「くそう!」

「アイリ怪我は!?」

「大丈夫だよ」

 煙りが風に押しやられると歩行者に巻き込まれたものがいないことにアイリはため息をもらし(ソード)(スキャバード)に収めた。

「騒ぎに警備の近衛兵が間に合わないのはどうよ」

 そうアイリが絡むとヘルカが本心を言った。

「政権(つぶ)した夜、けっこうな人数殺したからな」

「あいつら何ものだろう。盗賊ぽくもなかったし」

 そうアイリが問うとヘルカが怖いことを言った。

「イルベ連合の間者(かんじゃ)じゃないのか」

 スパイに入り込まれている時点で流れは決まっているとアイリは思った。

「ヘルカ、呑み会はまた今度な。城へ戻ろう」





 深刻な表情のアグネス・ヨークを前にアイリは一通り説明した。

「それでは遅かれ早かれイルベ連合は攻め入ってくるのですね」

 アイリ・ライハラは王妃(おうひ)の言葉に応じて説明した。

「強靭な陣営を展開できれば進軍を思いとどまらせることができるかもしれません」

「そのまま大戦にもつれ込むんですよね」

 そう────大きな戦争になる。大国が欲にしがみついていると必ず大戦になる。

 攻めてくるのはイルベ連合だ。

 それを変えることはできない。

「アイリ、あなたが奇跡を起こせないの?」



「お子さまの俺に?」



 目眩(めまい)にアイリはスタンスを広げ()え抜いた。

「アグネス勘違いしないでほしい。俺はそんな星の(もと)に生まれていない」

「ご謙遜を! イルミ・ランタサルに聞いています。大国デアチをひれ伏させたのはあなたとヘルカ・ホスティラだと」

 アイリは困って(かたわ)らに座る女騎士の顔を見下ろすと、ヘルカ・ホスティラは(おのれ)の顔を指さして肩をすくめた。

「この頑丈な騎士を前線に立ててもイルベ連合を食い止めることはできないですよ」

 ヘルカはそれを聞いてアイリ・ライハラの尻をひっぱ(たた)き少女はよろめいた。

 アグネス・ヨーク王妃(おうひ)はソファから身を乗りだしてアイリを見つめた。

「だめですよ! 無理なものは無理なんです」

 アイリが否定するとヘルカがアグネスに助け舟をだした。

「こんなこともあろうかと騎士団長は(みずか)らの夫をイルベ連合に潜入させて────うぐっっっ」

 アイリは(あわ)ててヘルカ・ホスティラの頭にヘッドロックをかけて口をふさいだ。

「ちぃ──違います。たまたま──旅行に出かけている──だけで──」

 しどろもどろになっているアイリにアグネスはさらに身を乗りだして顔を見上げた。

「手は打って下さっているのですね」


「あ────わかりました! なんとか手は打ちます。ですが総力戦も念頭に入れておいて下さい」



 アイリ・ライハラは勢いで言い切ったことを後々後悔する。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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