第15話 まっしぐら

文字数 1,720文字

 どこにでも出没できる相手をどうやって追い詰めるんだと見張りをテレーゼに交代したヘルカ・ホスティラはなかなか寝つけなかった。

 ()り合いでも不利になればあっさりと逃げてしまうだろうと女騎士はあくまでも(ソード)の腕は自分が上だと固執していた。

 だがそんなすごい奴がどうして北東の(はし)(くすぶ)っているのだろうか。アーウェルサ・パイトニサム()の魔女のミルヤミ・キルシは大陸の方々で悪事を重ねていた。

 銀盤の魔女がどこにでも瞬時に移動できるなら、大概(たいがい)の悪事を簡単に行えるだろう。

 そうではないことに何かしらの理由がありそうだったが考えるともやもやが膨らむばかりで意識から締め出そうとすると王妃(おうひ)イルミ・ランタサルの寝息に気づいた。

 この方はすごいお人だ。

 自分がとんでもない悪人に狙われているかもしれないのに寝る時はきちんと寝る。並みの神経ではない。寝てないことで集中力が途切れるのを心配してるのだろうか。王族の身でありながら平気で前線に立とうとする。父親であるウルマス国王も大国に屈することなくノーブル国を長い年月お導きになった凄いお方だが──イルミ・ランタサルがさらに歳を重ねると────────ヘルカ・ホスティラは忍び泣きを耳にして跳ね起きた。



 だ、誰が泣いているのだ!?



 ヘルカは暗い納屋を見回し人の気配探るが王妃(おうひ)様とノッチ以外につかめず困惑していると(すす)り泣きがすぐ(そば)だと気づき女騎士はそっと王妃(おうひ)に顔を近づけた。

 押し殺すように泣いているのがイルミ・ランタサルだと知ってヘルカ・ホスティラは眼を丸めた。

 (はがね)のように心お強い王妃(おうひ)様が泣いていることに女騎士はおろおろとした。


 やはりお辛いのだ!


 気丈(きじょう)に振る舞っても17になったばかりのまだ少女の面影残す1人の娘。



「ごめんなさい────ごめんなさいアイリ────」



 えぇえええっ!? なぜ王妃(おうひ)様がアイリ・ライハラに謝るんだぁ!? ヘルカ・ホスティラは暗闇の中ですっかり眠気が飛んでしまい考え込んでしまった。

 イルミ王妃(おうひ)様があの愚直(ぐちょく)な小娘をいたく可愛がっておられるのはわかっているが、同じ年頃のご友人がおられぬのでお(たわむ)れでアイリ・ライハラをいつも(かたわ)らにおいておかれるとばかりヘルカは思っていた。

 もしかして王妃(おうひ)様は教会の戒律(かいりつ)に反してその手のご趣味(・・・・・・・)があるのか!?

 イルミ王妃(おうひ)様が流浪の遊牧民ラモ族の(おさ)にアイリのことを愛玩(あいがん)の少女と言い切ったのにはさすがに(おどろ)かされたが、その時は話しの成り行きで場を和ませる程度のこととヘルカは聞き流した。

 だがふたたびその疑念が湧き起こってくる。

 もしもイルミ・ランタサルがあの小娘と手を取り合って駆け落ちするようなことになったら、(われ)はどうしたらいいのだ!?

 人の道に外れる行為だぞ!

 騎士道ではお仕えする王家のものがど変態であるときの身の振り方なぞどこにも(うた)ってない。いやいや、ランタサル王家の血筋にど変態などいるわけがない。

 こんなことをイルミ王妃(おうひ)様に、直接、問うこともできず、アイリ・ライハラを生きて取り戻しあの小娘にそれとなく問いただすしかないとヘルカ・ホスティラは決めた。

 決めたもののまったく眠気が飛んでしまい座り込んだままため息をついた。

 男を遠ざけて早、10年近くになろうとしていた。

 あんなものは騎士道の邪魔だと一直線に生きてきた。女を見る眼差し向けてきた奴を殴り倒したのは切りがない。

 魅力よりも(ソード)を取った。

 (あか)甲冑(アーマー)着るのは女だからではなく熱き騎士道への思いからだった。

 だが戦場(いくさば)に出るとその浮き出たような甲冑(アーマー)が裏目に出て敵の騎士らはたいがいスルーする。

 とっ捕まえて口を割らせたら、女には手を出せねぇと言われ愕然(がくぜん)となったこともあった。


 この熱き血潮を馬鹿にするな!


 その思いでがむしゃらにやってきて気がついたら第3位騎士にまで上り詰めていた。

 いかん! 興奮してると朝まで寝れないぞと思った女騎士は身体を動かし疲れたら眠気も来るだろうと(ひざ)への負担が大きいフルボトム・スクワットを鼻穴広げ始めた。

 始めてすぐ思いっきり(ひざ)を曲げ腕を振って伸び上がろうとしたまさにその時、暗がりからノッチにぼそりと言われた。


「寝てくれ」



 まっしぐらな女21歳────固まってしまった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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