第16話 真意

文字数 1,834文字


 大きな魔物を倒し4人の一行はさらに奥へ向かって進んでいた。女騎士ヘルカ・ホスティラはサイクロプスを倒せたことで一度気分が高揚したがそれはすぐに困惑にすり替わった。

 またアイリ・ライハラが(おとり)になってくれたせいでとどめを刺せたのだとヘルカは素直に認めていた。

 自分を偽り手柄を独り占めするなど騎士としてのプライドが許さなかった。

 アイリ・ライハラが聞くほどに強いのなら、どうして騎士である他のものを立てる必要が──なぜ立てるのだ?

 先頭を怖じずにすたすた進む少女の後ろ姿を見ていてヘルカはあれこれ考えたが理由がわからず落ち着かなくなった。

「ライハラ」

 女騎士に名を呼ばれ歩きながらアイリがわずかに顔を振り向けた。

「なんだ、ここにトイレはないぞ」

 言った直後、少女は慌てて手に握っていた(ソード)を放り出して頭を抱え込んだ。

「お前、いま殴ろうとしただろ!」

 ヘルカ・ホスティラは口をへの字に曲げて(さげす)んだ眼で少女を見つめ(つぶや)いた。

「今、殴ろうかなと本気で思った」

 とたんにアイリはヘルカから走り逃げようとして叫んだ。

「なぁなな殴るな!」

「誰が殴るかぁぁぁ! 面倒なやつめ! 騎士は意味のない暴力は振るわん」

 女騎士に離れて少女が尋ねた。

「意味があったら殴っていいのか!?」

「ライハラ、お前、誰を殴るんだ?」


「頭の壊れてる髪の毛くるんくるん女」


 女騎士は瞳を寄せ思い当たりアイリにアドバイスした。

「我の見てない時にやれよ」

 とたんにアイリはヘルカの(そば)に駆け戻り(ソード)を拾い上げた。

「おい──その、だ────どうしてお前、魔物を他のものに倒させたりしてるんだ?」

 (スキャバード)に収まった長剣(ロングソード)のハンドルを握りしめ女騎士を見つめ微笑んだ。


(かご)の鳥のためさ」


「かごの鳥──?」


 ヘルカ・ホスティラが問い返そうとするとアイリは(きびす)を返し洞窟(どうくつ)の奥へと歩き始めた。仕方なく女騎士も歩き始めると、後ろから女暗殺者(アサシン)のイラ・ヤルヴァが(ささや)いた。

「イルミ王女のことですよ」

 どうしてイルミ・ランタサルが(かご)に入れられてるのだとヘルカは考え、なにも彼女を縛るものはないのにと困惑した。

「どういう事だイラ?」

「おわかりにならないんですか?」

「謎かけはやめてくれ。イライラする。はっきり言え」

「あなた達騎士が、騎士道に忠実たれとするのと同じくイルミ王女はあなた方や民という(かご)に囲まれているんです。どこにも逃げだせないんですよ」

 言われヘルカはイルミ王女のことを振り返った。ウルマス国王が伏せってから(まつりごと)の多くがイルミ王女のもとに集中していた。多くのものが彼女に意見を求め、責務を果たせと地位に迫った。

「イラ、王女はおまえ達に──お前やアイリにそうこぼしているのか? がんじがらめだと」

「私は聞いた事がないですし、アイリもそんな話をした事がないです。ですが────」



「アイリ・ライハラの圧倒的な強さはものを見る眼が確かだからだと私は思います」



 ヘルカは(おのれ)が差しだす左手に握る発光石の灯りが前を歩む少女の先に暗い影を引き伸ばしている事に気づいた。先を照らすはずのものが少女に(さえぎ)られ逆に長く広がる闇を生みだしていた。だが少女はまるで暗闇の中の危ぶむようなものすら見切っているかのごとく平気で歩いてゆく。

 女騎士ヘルカ・ホスティラはふと、イルミ・ランタサルの歩む先の闇を少女が気づいているのではと思った。

 まわりからがんじがらめにされたイルミ王女の歩む先は闇そのものなのだ。

 そうだ──イルミ王女は先行きのわからぬ国の行く末を切り開くために護りの礎を鍛え上げ、大国デアチへ挑もうとしている。


 アイリ・ライハラはその事を見切り、国を、民を、イルミ王女を護る我々が強くあれと願っている。

 ヘルカ・ホスティラが微笑ましく思っている矢先にいきなり少女の群青の輝きを放つ髪が残像を残し立ち消えた。

 慌ててその場に駆け寄る女騎士ヘルカ・ホスティラと若い男の騎士も走り寄ると上の闇から小さく丸い赤く輝く光がすっと下りてきた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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