第20話 特異

文字数 1,774文字

 質での格差、数での優位────どちらを取りたいかではない。

 どちらでも選べることを見せつける。

 銀眼の魔女はいきなり10人に増え圧倒してきた。

 王妃(おうひ)護るヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイは血相変えて応戦するが数太刀(すうたち)の防戦で手一杯になると敗北が見えてきた。

 誰もが自分の(そば)にいる銀眼の魔女に応戦するのが手一杯で助けの手など出せなかった。

 手助けなど────────いきなりヘルカ・ホスティラが相手する大斧(おおおの)長剣(ロングソード)握る2体の魔女が氷床(ひょうしょう)(ひざ)を落とし横倒れになった。

 直後テレーゼが必死で防戦している相手の銀眼の魔女2体の首に血筋が浮かび上がって鮮血が(あふ)れだすと倒れた白髪の女らの背後に稲妻が急激に止まりアイリ・ライハラの残像が追いつき重なって(ソード)手にする少女の姿になった。

 アイリは(ソード)に着いた血糊(ちのり)を振り払うと(きびす)返し再び残像残し稲妻が爆進しノッチ達の元へと走り戻った。


「今のアイリの動き、各段に速くなっていないですか!?」


 そうイルミ・ランタサルから問われテレーゼ・マカイがアイリの消えゆく残像を眼にしながら応えた。

「ミルヤミ・キルシ討伐(とうばつ)の時にはこれほどには────それよりも王妃(おうひ)様、このまま王妃(おうひ)様をお守りすればよろしいのですか」

 3人から一気に6人となった銀眼の魔女をなんとか打ち合うノッチとカローンの手一杯の攻防をテレーゼは見つめ王妃(おうひ)に手助けすべきかと問いかけた。

「みてごらんなさい。アイリの1人勝ちです」

 カローンとノッチに(やいば)襲いかからせようと振りかぶった銀眼の魔女の両手が手首から滑り落ちた。

 (ソード)打ち返され(ソード)振り戻そうとする4人の銀眼の魔女がノッチらから後退(あとず)さり姿重ねると1人の魔女になりノッチの隣にアイリ・ライハラが氷床(ひょうしょう)を削り派手に足を止めた。

 ノッチでもカローンでもなくアイリ・ライハラをじっと見つめる銀眼の魔女が言い捨てた。

「青の小娘────お前は(われ)に倒されたのだ」

 その魔女へアイリ・ライハラが言い返した。



「お前こそ、俺に倒されるんだよ」



 それを耳にした銀眼の魔女はいきなり(からだ)を揺すったように見えてそれが残像となると寸秒──イルミ・ランタサルらとの中間でアイリ・ライハラと(ソード)ぶつけ合い現実化した。

 その魔女へ少女は言いはなった。


「させるかよ!!!」


 その言葉にミエリッキ・キルシは不気味な微笑(ほほえ)み浮かべながら破砕した氷の標本の間に降り立つと尋ねた。

「青よ、お前は1つを防げても、同時に(・・・)6つを守れまい」

 そう言い張り銀眼の魔女は両手に握った(ソード)を左手だけで構え右腕を横の空に伸ばすと手のひらを上に返した。そうしてすべての指を握りしめると氷床(ひょうしょう)に散らばった氷の破片が急激に銀眼の魔女の腕の高さに浮かび上がった。

 それを眼にしたアイリ・ライハラは同時に(・・・)という意味を知り青ざめた。イルミ・ランタサルを除きそれぞれは自分の身を守れるだろう。だが、くるんくるんは自分で自分を護りきれない。

 それら数十の氷の飛礫(つぶて)が散るよりも早くアイリ・ライハラは王妃(おうひ)へと駆けた。急激に拡大するヘルカ・ホスティラの背後からイルミ・ランタサルは銀眼の魔女を見つめていた。その王妃(おうひ)を女騎士が大きな体格で(たて)となり守った。

 なら護るべきはわかりきっていた。

 すでにヘルカ・ホスティラ持つ(ソード)のリーチ内に迫りつつある氷のナイフにアイリは追いつき次々に(たた)き落とし残った3つの氷の(かたまり)がヘルカ・ホスティラの顔を(かす)り背後のイルミ・ランタサルへ迫った。

 その氷塊(ひょうかい)に向けテレーゼ・マカイが破壊の叫聲(おらびごえ)の幕を張りばらばらに散らすとアイリ・ライハラはヘルカ・ホスティラの胸に激突し大柄な女騎士ごとイルミ・ランタサルとテレーゼ・マカイを押し倒してしまった。

 説明や謝る時間もなかった。

 アイリ・ライハラは振り返り跳び起きると(やいば)を銀眼の魔女に振り向けようとした。

 その場所にすでに銀眼の魔女ミエリッキ・キルシはおらず首筋の悪寒にアイリ・ライハラは(ソード)ごと振り向き顔を引き()らせた。

 銀眼の魔女ミエリッキ・キルシが倒れたくるんくるん目掛け氷の(ブレード)打ち込もうと(ソード)持つ片腕を大きく振り上げていた。


 とっさに青髪の少女は(ソード)放り出しヘルカ・ホスティラとイルミ・ランタサルの片足をつかみ思いっきり自分の方へ引っ張った。



 王妃(おうひ)の盛り髪を断ち切った氷の(ブレード)を見つめアイリ・ライハラは気づいた。



 こいつ弱いところばかりを狙ってくる!!!





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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