第22話 早合点

文字数 1,737文字

★ 第22話 

 氷づけの標本を壊し続ける(みな)の間に忽然(こつぜん)と銀眼の魔女が姿あらわした。

 すぐにだれ1人気づかなかったのは、銀眼の魔女が武器を手にしていなかったに他ならない。

 まず気づいたのはノッチだった。

「気をつけろ! 銀眼の魔女だ!!」

 標本破壊に夢中になっていた(みな)が魔女はどこにと顔を巡らせたが結局(みな)の中央に1人たたずんでいることを向かい合って気づいた。

「なんて、ひどいことをするだろう────お前たち」

 5人に(ブレード)向けられても整然としている銀眼の魔女がそう告げると、砕け散った氷のかけらを2つばかり拾い上げた。

「このものらは、長い年月にあっても腐らず生前の美しさをもっているだろう?」

 それにイルミ・ランタサルが噛みついた。

永久(とわ)の美しさを強いるお前は、異常な(みにく)さを────もっているのかもしれない」

 銀眼の魔女が鼻で笑った。

「見てくれの話しだと? 精神の話しだよ王妃(おうひ)様だったかね」

 鼻で笑い返したイルミ・ランタサルが一歩も引かずに言いきった。

(われ)は精神の醜さを言ってるんだよ、銀眼の魔女とやら」


 うつむき押し殺した声でミエリッキ・キルシが言い返した。


「腐った王族は、腐ったものがよく(・・)見えることだろうよ」


「ええ、腐れ魔女がよく見えていますとも」


 アイリ・ライハラは笑いそうになってくるんくるん見つめた顔を引き()らせた。

 王妃(おうひ)イルミ・ランタサルはナイフ持たぬ左手指を(えさ)食らう昆虫の前足のごとく激しく(うごめ)かせていた。

 アイリはいつイルミ・ランタサルが攻撃命令を下してもいいように長剣(ロングソード)を引いて軸足に体重をかけた。

「そう、あれ(・・)(われ)を小馬鹿にしていた」

 話しの成り行きをじっと聞いているヘルカ・ホスティラはあれ(・・)とは誰のことだと眼を細めた。

「小馬鹿にもされるでしょう。腐っているのですもの。しかもそのぎらぎらの瞳で見られたら誰しもが何を欲情してるのだと詮索(せんさく)しませんこと? (そこ)の方────不浄、不潔、卑猥(ひわい)痴愚(ちぐ)──あげてゆけばお似合いの言葉、50や100ではなくてよ」

 それを耳にしてテレーゼ・マカイは(ほお)をひくつかせこの人を敵にしなくてよかったと胸をなでおろした。

「人を卑下(ひげ)することで高見に上りたがる豚なのかもしれぬ」


「へぇ! 貴女(あなた)様は豚でしたの? 言の葉の使いまわしで(われ)に勝とうなど500年早いわ。この豚ぁ!」


 血の気が引くようだと冥府(めいふ)河守(かわもり)カローンは女の争いに恐れを抱いた。こいつら煉獄(れんごく)に落ちても決して俺の舟に乗せねぇ──と決心した。

「1匹では恐れをなすと見えて────どこへでも徒党を組んでゆくだろう」


「あら? 先ほどは両手の指の数、似た方がご一統組まれてもろい(ソード)や斧を振り回されていらっしゃったようですけれど大丈夫かしら? 5匹(・・)もつぶしてさし上げたのですから」

 人間とはかくも恐ろしき生き物なのかと青竜ノッチはあきれ果てやり取りをどうやって収めさせようかと思案していた。あの口を(われ)に向けられたら、ひとたまりもない。

「勘定もできぬ愚か者────6人を倒しておきながらに」

「大丈夫ですかぁ? 指は10本ありますかぁ? 魔女を5()と言いましたよね。1人は(ひき)で数えませんでしたぁ」

 きったねぇ────ぇぇえ!

 もはやイルミ・ランタサルが詭弁(きべん)に苦しんでいるのが(みな)は手に取るようにわかった。

 アイリ・ライハラはジェスチャーで(ソード)を振ってみせて魔女を倒すのかくるんくるんに(たず)ねた。だが王妃(おうひ)(かぶり)振りまだアイリらをけしかけなかった。

 どうなるのかと一行(いっこう)が見つめているとイルミ・ランタサルが切りだした。

「第一、貴女(あなた)はどこにでも出入りできることにかこつけて、我々がこの島に来るずっと前から理不尽な暴力に(およ)びましたね」


「理不尽────か、そうで────ないかは関係ない。追い立てられれば誰しも石を握る。その石を投げつけようとも、当たらずとも遠からずなのはまぐれではない」


「追い立てる? 何百年にも渡り非道を行ってきた(むく)いを受ける時がきただけです。自業自得です」

 おお、くるんくるんが巻き返してきたぞとアイリが思った矢先に王妃(おうひ)が何度も短剣を振るのでアイリ・ライハラは銀眼の魔女に飛びかかった。



 意志の疎通(そつう)がはかれていませんでした。

 今、思うと早とちりでした。



 アイリ・ライハラはあっさりと銀眼の魔女を()り倒した。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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