第11話 振りなの か!
文字数 1,910文字
1、2、3、4────21、22。
崖下の暗闇から大岩が地面に激突した派手な音が聞こえてきた。
「今、確かに大岩が落ちていったよな?」
アイリ・ライハラに問われ横に立つイルブイ国兵団の総大将ヒルダ・ヌルメラはどもりながら応えた。
「え、え──あ、アイリ殿────ど、ど でかい、い、岩でした」
少し間 があってアイリはまたヒルダに尋ねた。
「お前、山の上に拳より大きな石を投げ上げたよな?」
「────────」
ヒルダがすぐに返答ができないでいるのでアイリは念押しした。
「──だよな!?」
「たぁああしか、わぁ、我 は、まぁ、魔女ミルヤミ・キルシに小さな石 をおおおう────」
声を裏返させて誤魔化そうとする蛮族の総大将にアイリは言葉静かに問いただした。
「お前、あの大岩が俺たちんとこに落ちてくるとか考えなかったのか?」
いきなりヒルダ・ヌルメラは胸を叩いて宣言した。
「ねぇ、狙い通り魔女に、おお、大岩が命中したでは────あーぁ、りませんかぁああ!」
ふいにアイリ・ライハラは両手に握る長剣 を振り回して力だけの脳筋に詰め寄って総大将は青ざめて後退 さった。
「い、いけませぬアイリ殿ぉ! お戯れをぉぉお!」
「お前、あの大岩が俺のとこに落ちてくるとかほんとに考えなかったのか!?」
アイリは剣 振り回し怒鳴りながらヒルダへさらに詰め寄った。
だがすぐに長剣 のあまりにもの重さにスタミナ切れして刃口 を地面に突いて少女は肩を揺すりぜえぜえと荒い息をつき始めたのでヒルダは近寄ってきて話をはぐらかそうと囁 いた。
「アイリ殿ぉ────魔女は成敗できたではないですかぁ」
キッとアイリは顔を振り上げてヒルダに怒鳴った。
「どうすんだよこのアンポンタン! 岩の転がり落ちた音が数えて22も下で聞こえたんだぞ! 城の天守閣 20段重ねたよりも深い谷底だぞ! どうやって魔女ミルヤミ・キルシの遺体を確認しに行くんだぁ!?」
「それは簡単でござるよ──」
「アイリ殿がここから大声でやつの名前呼んでみるんです。生きていれば魔女ミルヤミ・キルシは激怒して怒鳴り返してきます」
こいつは正真の大馬鹿者かぁ!?
アイリは絶句してヒルダが身につける革の胸当 を鷲掴 みにして顔を引き寄せ静かに諭 した。
「魔女が怒鳴る前に爆裂魔法を打ち上げてくるだろうとかお前は考えないのか?」
星明かりの下で女大将が顔を背けたのが見えてアイリは半眼になると唇引き結んで長剣 を放り出しヒルダの胸当 をぐいぐい引っ張り山道の端までゆくとそのすっとぼけた図体ばかりでかくて頭の足りない大人を崖先へ突き出した。
背中側へ傾いたヒルダが横目で見下ろす闇から冷たい風が吹き上がってきてゴツい女剣士は顔から冷や汗をだらだら流し始めた。
「あ、アイリ殿ぉぉぉ、踵 しか地面に着いていないんですけどぉ」
悲鳴上げずに抗弁する度胸だけは認めてやるとアイリは思った。
「当たり前だぁ! 崖先にお前を突き出しているんだからな」
「落ちたら死にますって──」
珍しくヒルダ・ヌルメラが弱気を吐いた。
「お前、落ちてミルヤミ・キルシが生きてるか確かめてこいよ。小石 投げ上げた責任だ」
「そ、それは蝶が羽ばたけばイズイ大陸の端で嵐になるみたく繋がりのこじつけでぇ────」
こ、こいつ頭悪い振りしてるだけじゃねぇのか!?
胸の防具つかむ少女の片腕を両手で必死に握りしめる女大将ヒルダをアイリ・ライハラは下目使いで睨みつけさらに腕を山道から突き出して図体ばかりでかい女をもっと傾け冷ややかに告げた。
「ほら、ミルヤミ・キルシが黄泉路から呼んでるぞぉ」
「よぉ、呼んでませんってぇえ!」
いい加減にしらけてきたアイリはヒルダを山道に引き戻すとため息をついた。
ミルヤミ・キルシの生死はともかく、たとえ死んでいても遺体をデアチ国に持ち帰らなければあのくるんくるんが絶対に納得しないとアイリは思った。
アイリは暗がりでうめき声を上げている騎士らの方へ振り向き歳嵩 の騎士の名を呼んだ。
「オイヴァ無事か?」
「大丈夫です──動けませんが────」
大丈夫じゃねぇじゃん、とアイリは苦笑いした。
「魔女キルシは落石に巻き込まれて崖下に落ちた。これからヒルダと確かめに下りるから、生き残ったものらとここで待っていてくれるか?」
騎士らの間で微かな鼾 が聞こえてきてこの騒ぎに寝てる奴は腹の出たマティアス・サンカラだとアイリは顔をしかめた。
「承知いたしました騎士団長殿。ところで────」
アイリは何だと思った。
「頭が朦朧 としているせいか、暗すぎるのか、騎士団長殿の背が心なしか低く見えるのですが────」
「お前、頭打ったな」
そう告げてアイリ・ライハラは誤魔化した。
崖下の暗闇から大岩が地面に激突した派手な音が聞こえてきた。
「今、確かに大岩が落ちていったよな?」
アイリ・ライハラに問われ横に立つイルブイ国兵団の総大将ヒルダ・ヌルメラはどもりながら応えた。
「え、え──あ、アイリ殿────ど、
少し
「お前、山の上に拳より大きな石を投げ上げたよな?」
「────────」
ヒルダがすぐに返答ができないでいるのでアイリは念押しした。
「──だよな!?」
「たぁああしか、わぁ、
声を裏返させて誤魔化そうとする蛮族の総大将にアイリは言葉静かに問いただした。
「お前、あの大岩が俺たちんとこに落ちてくるとか考えなかったのか?」
いきなりヒルダ・ヌルメラは胸を叩いて宣言した。
「ねぇ、狙い通り魔女に、おお、大岩が命中したでは────あーぁ、りませんかぁああ!」
ふいにアイリ・ライハラは両手に握る
「い、いけませぬアイリ殿ぉ! お戯れをぉぉお!」
「お前、あの大岩が俺のとこに落ちてくるとかほんとに考えなかったのか!?」
アイリは
だがすぐに
「アイリ殿ぉ────魔女は成敗できたではないですかぁ」
キッとアイリは顔を振り上げてヒルダに怒鳴った。
「どうすんだよこのアンポンタン! 岩の転がり落ちた音が数えて22も下で聞こえたんだぞ! 城の
「それは簡単でござるよ──」
「アイリ殿がここから大声でやつの名前呼んでみるんです。生きていれば魔女ミルヤミ・キルシは激怒して怒鳴り返してきます」
こいつは正真の大馬鹿者かぁ!?
アイリは絶句してヒルダが身につける革の
「魔女が怒鳴る前に爆裂魔法を打ち上げてくるだろうとかお前は考えないのか?」
星明かりの下で女大将が顔を背けたのが見えてアイリは半眼になると唇引き結んで
背中側へ傾いたヒルダが横目で見下ろす闇から冷たい風が吹き上がってきてゴツい女剣士は顔から冷や汗をだらだら流し始めた。
「あ、アイリ殿ぉぉぉ、
悲鳴上げずに抗弁する度胸だけは認めてやるとアイリは思った。
「当たり前だぁ! 崖先にお前を突き出しているんだからな」
「落ちたら死にますって──」
珍しくヒルダ・ヌルメラが弱気を吐いた。
「お前、落ちてミルヤミ・キルシが生きてるか確かめてこいよ。
「そ、それは蝶が羽ばたけばイズイ大陸の端で嵐になるみたく繋がりのこじつけでぇ────」
こ、こいつ頭悪い振りしてるだけじゃねぇのか!?
胸の防具つかむ少女の片腕を両手で必死に握りしめる女大将ヒルダをアイリ・ライハラは下目使いで睨みつけさらに腕を山道から突き出して図体ばかりでかい女をもっと傾け冷ややかに告げた。
「ほら、ミルヤミ・キルシが黄泉路から呼んでるぞぉ」
「よぉ、呼んでませんってぇえ!」
いい加減にしらけてきたアイリはヒルダを山道に引き戻すとため息をついた。
ミルヤミ・キルシの生死はともかく、たとえ死んでいても遺体をデアチ国に持ち帰らなければあのくるんくるんが絶対に納得しないとアイリは思った。
アイリは暗がりでうめき声を上げている騎士らの方へ振り向き
「オイヴァ無事か?」
「大丈夫です──動けませんが────」
大丈夫じゃねぇじゃん、とアイリは苦笑いした。
「魔女キルシは落石に巻き込まれて崖下に落ちた。これからヒルダと確かめに下りるから、生き残ったものらとここで待っていてくれるか?」
騎士らの間で微かな
「承知いたしました騎士団長殿。ところで────」
アイリは何だと思った。
「頭が
「お前、頭打ったな」
そう告げてアイリ・ライハラは誤魔化した。