第17話 先に立たず
文字数 1,644文字
「ボ、ボスを倒してどうするんだぁ」
扉を押し開き
「あぁぁっ────!」
少女は青ざめて
そうだ交渉に来たんで、倒しに来たわけではなかった。こいつの下に何匹いるかわからない
「うぅ勢いで────倒してしまった」
「あ──ぁやっちまったか」
そう年上の女に言われアイリは腹立たしくなった。
「で、この大狼は他に何匹いるんだ、アイリ!?」
頭を押さえた少女は
「わからん────」
「お前、どうするんだ!? この建物内にいるすべての奴が狼人間だったら全部倒すのに骨が折れるぞ」
う、ぅ、この
そうだ! この
鼻の長い犬顔が前後に
「仕方ない。騒ぎが大きくなる前に黙って帰るか」
そうヘルカに言われアイリの気持ちが大きく揺らいだ。
帰るぐらいなら砂漠渡ってこんなに遠くにまで来たりしない。
「いや、こいつの手下らの侵攻を思いとどめさせなきゃ」
「何匹いるかわからん連中に大声で言って回るのかぁ」
だ、か、らぁ! しまったと後悔してるじゃないか!
「貴君は
アイリはさらに青ざめて、要するに投げだして手伝わない気なんだろうと女騎士の薄情さを呪った。
「あぁもういい!」
言い捨てアイリ・ライハラは
「あ! 開き直りやがった」
「
振り向いた少女を女騎士はじ────っと見つめた。
「ええ、そうですよ! いるか、いないか、わかんないこいつの一つ下の魔物をこれから探すんです!」
アイリは下唇を突きだして言い張った。
「で、また勢い余って倒すのかぁ?」
「この次は倒さない! 言いくるめます!」
「それじゃあ貴君は喰われるぞ」
アイリは眼を座らせ女騎士を
ヘルカ・ホスティラは腕組みして思案顔になった。それを眼にしてどうせこいつはろくでもないことを言い出すんだとアイリは
「いったん
ヘルカさまぁ! アイリは救われた面もちになると
廊下に出た2人は騒ぎになってないか見回しながら階段の方へと歩きだしアイリはふと気になったことを年上の女騎士に
「連合という集まりなら、あっちこっちに
「いや、それはなかろう。組織はピラミッド型の指揮系統を組むからな。魔界でもそれは変わらんだろう。魔王の下に四天皇みたいなのがいて配下の軍団がいる。うちのトップは
さすが年の功だとアイリは感心するとヘルカは思いつくままに口にした。
「だが狼族はどうなのだろう? 狼ならボスが1頭いて徒党を組む。ボスがいなくなって初めて2頭目が頭角を現すなら
「でも
「ああ、その指揮を取るものが新しいボスだ」
2階を下りて1階に足を下ろすと、来たときと同じように忙しげに事務処理をする役場みたいな風景が見えてきた。
狼が街の狼らを支配するために事務処理に追われるなんて──アイリがこれまでに知った魔物にはいなかった。
まるで人の社会を真似ていると思いながらアイリは女騎士と庁舎を後にした。