第17話 お誘い合わせ
文字数 3,136文字
重苦しい。
城下に入ったのが夕刻の暁に染まったせいばかりでもない。
アイリ・ライハラは赤から照柿の色合いに見えるものすべてが血が時間をおいて変化する様で息苦しかった。
陰鬱になるのは盟友を失った痛手のせいだけでもない。
街の人々は顔を合わせると逸 らしそれでいて流し目の視線を絡 めてくる。その棘 が厄 を差し向けるようで苛 つく。
いきなり少女は笑い声を上げ、隣で手綱 握る女騎士ヘルカ・ホスティラをびくつかせた。
「かっ、勘違いするな────我はびくついているのではないぞ! ちょっとばかし運動をしただけだぁ」
隣でけらけら笑うアイリを横目で見ていてヘルカは口をひん曲げた。
イルミ・ランタサルの乗る荷馬車が一軒の宿屋の前に止まりヘルカは手綱 を引いて横に荷馬車を並べた。
いきなりがっくりと女騎士の座る操馬台 が揺れアイリ・ライハラが笑い声を上げながら操馬台 から横へ落ちた。
「すみません、ホスティラ殿、馬を操り損ねまして」
3台目の荷馬車に座る騎士が彼女に謝ると、ヘルカは身体を横にずらし操馬台 から見下ろすと少女が顔を地面に押しつけながらまだへらへらと笑っていて呆れかえった。
「今夜はこの宿ですごしましょう」
荷馬車から下りたイルミ・ランタサルがそう告げるといきなりアイリがすくっと立ち上がり皆 が顔を強ばらせた。少女はそんな事を気にする素振りもなく宿屋の方へ振り向くとすたすたと無言で歩き扉を開いて中に入った。それを唖然とした面持ちで女騎士が指さすとイルミ王女は両肩をすぼめ命じた。
「荷馬車を見張る交代当番を決めなさい」
騎士達全員に十分な休養を与えたかったがそれも叶 いそうにもない。明日の事を思いイルミ・ランタサルは通りの先の街並みの屋根の奥に見える側防城塔 とさらにその先に小城塞 や幕壁 を従えそびえ立つ主塔 を見つめた。
茜 に染まり血のようだと顔を逸らし、侍女 ヘリヤが開いてくれている出入り口へ踏み入った。
女騎士ヘルカ・ホスティラが割り振られた部屋は二階の階段上がり口に近い部屋だった。廊下奥にイルミ王女の部屋がありそこまでに3部屋騎士達の部屋があり夜も警護にあたる事になる。
ヘルカが部屋に入るとソファの横に見慣れた靴が並べられ置いてあり女騎士が寝室を覗 くとアイリがベッドに背を向けて横になっていた。
「食事はしないのか?」
ヘルカが問いかけると少女がぼそりと応えた。
「──いらない」
「そう言わず何か口に入れておけ。宿屋のものに用意させる」
それだけを伝え女騎士が出ていくとアイリは食事なんてと呟 きベッドの上でため息をついた。
じっとしていても、気が紛 れるものでもなかった。考えてみるとイラは牢 から助け出していつもべったりと傍 にいた。控えめでそれでいて好奇心旺盛で、笑わさられるか、愕 かされるかの毎日で、ふと気づくと気配も感じさせずに後ろに立っていた。
「変な奴だった──」
そう少女が誰にも聞こえぬ吐露を漏らし、まるで項 に息を吹きかけられた様に鳥肌立った。耳の後ろにも息を吹きかけられ────。
「ひぃい────!」
叫びながらアイリはベッドから飛び下りて振り向いた。
眼の前にベッドに頬杖 をついて身を乗りだしているイラ・ヤルヴァがニマッといやらしい笑みを浮かべており少女は両手を振り上げ顔を引き攣 らせた。
「お────お前────なんで──いるんだよ!?」
「相変わらずリアクション面白いですね御師匠様」
「うっ、うるせぇ! お前、布に包 んで荷馬車に!?」
イラは眼を寄せて口を尖らせた。
「あれ ねぇ、もうだめだわ。腐り始めているもの」
アイリは青ざめて女暗殺者 を指さし指摘した。
「あれ ってぇい!? じゃあぁぁ、お前ぁ、何なんだよぉうぉ!?」
「御師匠様、かわいぃ~~~ぃ。声が裏返ってるぅ」
コロコロと笑いながらイラが立ち上がり、少女はベッドで隠れた脚から頭の先まで見上げながら壁まで後退 さった。
元々、アイリより背丈の高かったイラだが、頭1つ半は顔が高い場所にある。
「おっ、お前、身長がおかしいだろう!? ヘルカ・ホスティラより背が高ぇじゃないか! 首伸ばしたのかぁ!?」
女暗殺者 は顎 を上げ肩を下げて見せて唇をねじ曲げた。
「伸びません!」
否定してイラは胸を張り右手の人さし指を立てて左右に振った。そうして部屋の左右一杯に広げたもの────白銀に輝 く翼を一気に伸ばし天井に頭が着きそうなほど浮き上がってみせアイリ・ライハラは眼を丸くした。
「アイリ、あなたのお陰で天に召されたんだけれどもぉ 」
口ごもったイラを少女は腕組みして睨 みつけた。
「けれども !? イラ、お前、何やらかしたんだぁ? 神様に馬鹿な事を気軽にポイポイぶつけたんじゃねぇのか?」
アイリに問われ女暗殺者 は苦笑いを浮かべブリオー(:中世のゆったりめのワンピース)の胸元に手を突っ込んで次々にベッドの上に放りだした。その品々を眼にして少女は顎 を落とした。
「所持品検査されてみんな見つかって────」
宝石を散りばめた目の両側の尖り吊り上がった黒マスクに絶対肘 上まである黒の手袋、胸元の開けたまるでコルセットの様な服に、太腿 まである艶々 の踵 が刺さりそうなほど細いブーツ。最後にシーツの上に放りだしたのは九尾鞭 。
鞭 を見た瞬間、アイリは「あっ!!」と声を出し自分の腰の後ろからイラ・ヤルヴァのバラ鞭 を引き抜いてベッドの上のものと見比べた。
そうして呆れ顔でイラに尋ねた。
「お前、マジに天国にこんなもん持って行ったのか?」
「えへへへ、ヤコブの梯子 登りきって門に入ったら、門が真っ赤に光ってファンファーレが鳴ったら周りから天使達がピューって集まって寄ってたかって身包 み剥 がされたの」
イラ・ヤルヴァの言い種 を聞いていて少女は顔を背け呟 いた。
「わかんねぇ──ばれるに決まってんだろうがぁ────」
「で、神様がお前は現世に未練があるようだから、持って来なさぁ────いって言われて」
持って来なさい !?
アイリ・ライハラは全力で駆けだして寝室を飛びだし廊下への扉を勢いつけ開き転がる様に走りでると傍 の階段を本当に転がり落ちた。
トレーに少女の食事を載せてきた女騎士の足元でアイリ・ライハラは跳び起きるとトレーをひっくり返し宿屋の受付の方へ駆けだしながら叫んだ。
「死にたくねぇぇぇ!」
スープを被ってしまったヘルカ・ホスティラが振り向いて少女を怒鳴りつけようとした背後にイラ・ヤルヴァがス────っと階段を下りてきて少女に呼びかけた。
「御師匠様ぁ、私も行くからいいじゃないですかぁ!」
城下に入ったのが夕刻の暁に染まったせいばかりでもない。
アイリ・ライハラは赤から照柿の色合いに見えるものすべてが血が時間をおいて変化する様で息苦しかった。
陰鬱になるのは盟友を失った痛手のせいだけでもない。
街の人々は顔を合わせると
いきなり少女は笑い声を上げ、隣で
「かっ、勘違いするな────我はびくついているのではないぞ! ちょっとばかし運動をしただけだぁ」
隣でけらけら笑うアイリを横目で見ていてヘルカは口をひん曲げた。
イルミ・ランタサルの乗る荷馬車が一軒の宿屋の前に止まりヘルカは
いきなりがっくりと女騎士の座る
「すみません、ホスティラ殿、馬を操り損ねまして」
3台目の荷馬車に座る騎士が彼女に謝ると、ヘルカは身体を横にずらし
「今夜はこの宿ですごしましょう」
荷馬車から下りたイルミ・ランタサルがそう告げるといきなりアイリがすくっと立ち上がり
「荷馬車を見張る交代当番を決めなさい」
騎士達全員に十分な休養を与えたかったがそれも
女騎士ヘルカ・ホスティラが割り振られた部屋は二階の階段上がり口に近い部屋だった。廊下奥にイルミ王女の部屋がありそこまでに3部屋騎士達の部屋があり夜も警護にあたる事になる。
ヘルカが部屋に入るとソファの横に見慣れた靴が並べられ置いてあり女騎士が寝室を
「食事はしないのか?」
ヘルカが問いかけると少女がぼそりと応えた。
「──いらない」
「そう言わず何か口に入れておけ。宿屋のものに用意させる」
それだけを伝え女騎士が出ていくとアイリは食事なんてと
じっとしていても、気が
「変な奴だった──」
そう少女が誰にも聞こえぬ吐露を漏らし、まるで
「ひぃい────!」
叫びながらアイリはベッドから飛び下りて振り向いた。
眼の前にベッドに
「お────お前────なんで──いるんだよ!?」
「相変わらずリアクション面白いですね御師匠様」
「うっ、うるせぇ! お前、布に
イラは眼を寄せて口を尖らせた。
「
アイリは青ざめて女
「
「御師匠様、かわいぃ~~~ぃ。声が裏返ってるぅ」
コロコロと笑いながらイラが立ち上がり、少女はベッドで隠れた脚から頭の先まで見上げながら壁まで
元々、アイリより背丈の高かったイラだが、頭1つ半は顔が高い場所にある。
「おっ、お前、身長がおかしいだろう!? ヘルカ・ホスティラより背が高ぇじゃないか! 首伸ばしたのかぁ!?」
女
「伸びません!」
否定してイラは胸を張り右手の人さし指を立てて左右に振った。そうして部屋の左右一杯に広げたもの────白銀に
「アイリ、あなたのお陰で天に召されたんだ
口ごもったイラを少女は腕組みして
「
アイリに問われ女
「所持品検査されてみんな見つかって────」
宝石を散りばめた目の両側の尖り吊り上がった黒マスクに絶対
そうして呆れ顔でイラに尋ねた。
「お前、マジに天国にこんなもん持って行ったのか?」
「えへへへ、ヤコブの
イラ・ヤルヴァの言い
「わかんねぇ──ばれるに決まってんだろうがぁ────」
「で、神様がお前は現世に未練があるようだから、持って来なさぁ────いって言われて」
アイリ・ライハラは全力で駆けだして寝室を飛びだし廊下への扉を勢いつけ開き転がる様に走りでると
トレーに少女の食事を載せてきた女騎士の足元でアイリ・ライハラは跳び起きるとトレーをひっくり返し宿屋の受付の方へ駆けだしながら叫んだ。
「死にたくねぇぇぇ!」
スープを被ってしまったヘルカ・ホスティラが振り向いて少女を怒鳴りつけようとした背後にイラ・ヤルヴァがス────っと階段を下りてきて少女に呼びかけた。
「御師匠様ぁ、私も行くからいいじゃないですかぁ!」