第21話 対策

文字数 1,726文字

 銀眼の魔女が去ったあとイルミ・ランタサルらは狭い家で襲われるのを避け屋外に出た。

 トンミを殺した容疑かけられる前に彼の家から離れ歩き始めるとイルミ・ランタサルが(みな)に持ちかけた。

(いくさ)は見ることから始まります。(みな)で魔女の見た動きを出し合い、敵の力量を推し量ろうと思います」

 対抗策をと言われ真っ先に女騎士ヘルカ・ホスティラが口を開いた。

「あれは目を頼りに()り合ってるわけではない。アイリと打ち合いながら後ろを見もせずに(われ)の攻撃をすべて受け止めた」

 そうヘルカ・ホスティラが苦々しく言うとアイリが付け加えた。

「そう──正面向いても半分も見てない。(からだ)を振り回し髪で顔が(ほとん)ど隠れてるからだ。それなのに俺の(ソード)を──倍速に上げた(ソード)(たた)(かわ)す。それも笑いながらだよ。化け物だよ」

 アイリは茶化(ちゃか)して軽々と言うがそれは恐ろしいことだとイルミ・ランタサルは思った。人が得る周囲の情報は7割方視覚によるものだからだ。それが重要でありながら視覚に(たよ)らないとなると別な手段を持っていることになる。

「戸口であの白髪の女の双剣(ダブルソード)を受け止めたが押し切られそうだった。あの衝撃は大剣(クレイモア)の大振りような重さがある。それに白髪の狡猾(こうかつ)なところは(ソード)で優位性がありながら、何の迷いもなく立ち位置変えて王妃(おうひ)様を取りにいったことだ。あの割り切りようは厄介(やっかい)だと思う」

 銀眼の魔女の完璧な攻撃を支えるのが素早い状況判断力にあるとイルミは思った。今回は情報源となった漁師をまず(あや)め、自由に立つ場所を変えることができる魔女は逃げを打つことをせず、こちらの反応を探るようにヘルカとアイリ2人を容易に(さば)き押し切ることができながらに(わたくし)(ねら)ってきた。

 理由は明白。(わたくし)(ねら)えば(みな)の動き、視線を強引に集めることができる。そこから切り(くず)せば後は一人ひとり容易(たやす)(つぶ)せるとあれは考えたのだろう。

 それともアイリの言うように笑いながら殺しにきているとなると真に気狂いなのかもしれぬ。

 気狂いなら道理──摂理(せつり)に従わぬも筋道。

 その場の状況に次々に応じる出たとこ勝負。

 罠にはめるも容易(たやす)いとイルミは考えた。

(みんな)、よく聞きなさい。あの銀眼の魔女はどこにでも出入りできるわけではないのよ」

 その言葉に女騎士が食いついた。

王妃(おうひ)様、お言葉ですが、どこにでも神出鬼没なので手こずっているのです。決して(ソード)の腕で拙者(せっしゃ)が負けてるなどとは思いませぬ」

 女騎士の言い分にイルミは半眼になり視線を歩く先の足元近くの地面に下ろした。

「大丈夫だぞヘルカ。俺の打ち込む回数と(ほとん)ど変わらねえぞ」

 そうアイリが()めるとヘルカが乗った。

「そ、そうだろう! やはり貴君もそう思うよな」

貴女方(あなたがた)、遊びじゃありませんことよ」

 イルミにたしなめられると2人とも軽口を止めにした。

「思うに──あの銀眼の魔女は2つの能力を使い我々を翻弄(ほんろう)してます」

「まず1つは、圧倒的な剣技(けんぎ)、もう1つは瞬間移動。この内、後の1つは何とかなるやもしれません」

「なんとかなるってどうするんだぁ?」

 アイリが歩きながら半身振り向きイルミに(たず)ねた。

「よく思いだしてごらんなさい。銀眼は空中から姿現したり消えたりしてないと思います。1度目は衝立(ついたて)から現れ壁に消え、2回目は馬に積み荷の上から立ち上がり去るときは馬の(たてがみ)に、先ほども囲炉裏(いろり)(ふち)から出てきて出入り口袖壁(そでかべ)に消えうせました────」


「そのすべてがものでありはっきりとした色があるものです」


 イルミ王妃(おうひ)の説明を聞いてヘルカ・ホスティラは透明なガラス以外(ほとん)どのものからあの白髪は現れ消えてしまうと考え込んでしまった。

 (ソード)を振るう腕もさることながら、アイリ・ライハラの動きを上回る俊敏(しゅんびん)さがある上に、一瞬で立ち位置を変えてしまわれるとお手上げだと女騎士は思った。

 しかも腕の角度など瞬時に変えてしまい、太刀筋(たちすじ)を見切れぬ。

 まるで数人のアイリ・ライハラと(やいば)打ち合わせているようで────────!

 ふとヘルカ・ホスティラはデアチ国闘技場(アリーナ)で黒騎士との対決の時にアイリ・ライハラが見せた異様な速さを思いだし本人に(たず)ねた。

「アイリ──ヴォルフ・ツヴァイクとの勝負の時に見せたあの異様な速さもう一度、銀眼の魔女に使えないか?」



 アイリ・ライハラの返事に女騎士は(きも)を冷やした。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み