第1話 男漁り
文字数 1,863文字
「ひぃ────っ」
引きつった叫び声を上げ周りを見回すと自分が静かな寝室にいることに気づいた。
西の大国イルブイを難なく制圧し
北の武国デアチと蛮族で名高い西のイルブイを属国としたノーブル国に手出だしする国は実質なくなった。
戦争がなくなり騎士団がのんびりできる時代になっても鍛錬に明け暮れるのは外への用心でなく
でも正直言って
遠ざかると心の隅に押さえ込んでいた恐れがこみ上げてくるようになった。
戦うことが本当は怖いんじゃないか。
ベッドから下りたアイリ・ライハラは壁に立て掛けている
──♦♦♦──
「おう! おはよう」
肩を
「なんだアイリ、目の周りに隈を作って。男漁りの夜遊びか」
「ち、ちゃうわい!」
「男に苦労してるなら言えよ」
食堂で大声で話す様な事かとアイリは朝食を取りにきている他の騎士を気にして小声で女騎士に言い返した。
「ヘルカ──お、お前の騎士道精神、壊れてないか!?」
アイリ・ライハラの隣に座ったヘルカは陽気な笑い声を上げた。
「あははは、紹介できるのは騎士ぐらいだが」
アイリはいらないとばかりに右手のひらをひらひら振った。
「だけどヘルカ、ノーブルも静かになったよなぁ」
静か? 大国として落ち着いているというなら間違いだとヘルカは思った。
「獅子身中の虫と言ってな王家を転覆させようという手合いを警戒しなくては」
アイリはいらないとばかりにまた右手のひらをひらひら振った。
「大丈夫だよ。
それを聞いて女騎士は真顔になるとアイリの耳元に顔を近づけた。
「男だよ。イルミ・ランタサルに言い寄って王位の座を
「誰だそいつ!!?」
上擦った声を上げたアイリの頭を女騎士は力
「聞け。ホンラッド公爵──」
「無理無理。あんな脂ぎったおっさんにイルミが
「──の第一子息のアフレッド」
アイリ・ライハラは息を呑んだ。
手八丁の馬鹿やろう。寄りによってイルミ・ランタサルにまで手を出してるとは。
「ヘルカ、その馬鹿息子ってイルミに言い寄ってるのか」
「大きな声では言えんが」
急に大きな声を上げた女騎士の頭をヘッドロックにかけたアイリが警告した。
「馬鹿、声がでかい!」
「最近、
「らしい? ただの噂かぁ」
「いやこの眼で見たんだが、宝石や
あっ! イルミの部屋に行ったときに布をかけてあったテーブルがあったがあれかぁ、とアイリ・ライハラは思いだした。
そりゃまずい。あのおっさん嫌いだし。
「ヘルカ、そこらへんの話、詳しく聞こうじゃないか」
ヘッドロックを外しアイリは女騎士の首に片腕をかけた。
──♦♦♦──
「へっくしょん!」
今日は朝からくしゃみばかりでる。
そういえば最近アイリ・ライハラの活躍を眼にしてない。あの子──といっても19歳になってしまい3歳も年上になった──の元気を見れば
表立って言えないのが辛い。
ああ、私の宝石。ラピスラズリの髪をした少女にあれを戻せるならこの命を投げだしてもいい──はおとぎ話ぽい、か。
「イルミ・ランタサル様、お食事の用意ができました」
今日もあの男がやってくる。
下心丸出しのあのアフレッド・ホンラッドが────。