第12話 迷い

文字数 1,710文字


 蜷局(とぐろ)巻いた大蛇がところかまわず火炎吐く。

 天井が低いので翼があっても舞い上がる事は出来ない。遠巻きに20の騎士が取り囲んだ。

「アイリ! お前なら1激で(かた)をつけれるだろう!」

 ヘルカ・ホスティラにけしかけられ騎士団長アイリ・ライハラは(しら)を切った。

「知らん!」

「お、おい!」

 アンピプテラは大声上げた女参謀長ヘルカへと火を吹き彼女は慌てて跳び退()いた。

 騎士の誰かが大蛇に近寄ろうとすると素早く鎌首を振り向けて炎を吐いてきた。

 アイリは手近に落ちている人の頭ほどの岩を両手で拾い上げるとそれをアンピプテラの(きわ)に投げつけた。鈍い音が聞こえ大蛇は振り向くとアイリの方へ炎吐き騎士団長と参謀長は走り逃げた。

「アイリ、なぜ手を(こまね)くんだ!?」

 たまりかねてヘルカはアイリに問いかけた。

「いやぁ、あいつ他の魔物に襲われた時に助けてくれて」

 魔物に助けられた!? ヘルカは呆気にとられた。

 大蛇ならいくらでもいるだろう。名前があるわけでもなくこの大蛇なのかとヘルカは眼を白黒させた。

「アイリ、蛇違いじゃないのか?」

「いやぁ、こいつだ」

「じゃあ何で火を吐く!?」

住処(すみか)にぞろぞろ入り込まれたら誰だって怒るだろう」

 ならずかずかと入り込んだ自分らが悪いのかとヘルカは顔をしかめた。

「なら通り過ぎたらおさまるのか?」

「いやぁ、怒らせたからなぁ。無理じゃない」

「貴君、他人ごとの様に言うな! ひえええぇ!」

 ヘルカは食ってかかるとアンピプテラが吐いた火炎をあげ彼女は際どく(かわ)した。

「よし! (みんな)、25階層に下りるぞ!」

 アイリ・ライハラは鼻で笑うと大声で命じた。

「騎士団長ぉ! 首を落とさないと倒せないって話はどこにいったんですか!?」

 中堅騎士のイスモ・ヤラに問われアイリは言葉につまった。

「────こいつは放っておけ。首には手出しするなよ」

 騎士らが下階層の入口に殺到すると大蛇はシャ──ッと奇声を上げた。

 発光石で行く先を照らす騎士らは用心深く25階層に入ったが魔物の気配すらなく拍子抜(ひょうしぬ)けした。

「アイリ、何かいきなり出て来るのか?」

 ヘルカ・ホスティラに問われアイリ・ライハラは短く笑った。

「あはは、お前らしくないぞヘルカ。25階層には何もいないはずだ」

「アイリ、貴君は深層まですべて覚えてるのか?」

「あぁ、ガキの時から何度も来ていたからな」

「貴君の父は鬼畜か。幼少の娘をこんな場所に」

「違うさヘルカ。お陰で少々の敵にも動じなくなった。父は荒事にも(くじ)けないようにしてくれたんだ」

 間合いがあった。ヘルカ・ホスティラが繋ぐ言葉を探しているのだとアイリは思った。

「やはり鬼畜だ。方法なら他にいくらでもあっただろう」

 この女どうしても他人の父親を鬼畜にしたいのかとアイリは苦笑いした。

「仕方ないよ。ただの鍛冶職人(かじしょくにん)だし。多少(ソード)を振り回すのが上手いけどな」

 ちょっとした小屋も入るほどの洞窟(どうくつ)の天井や層下への坂を発光石の灯りで照らし念入りに確かめる騎士らを見つめてアイリは指示した。

「下りる時は一緒だぞ」

「なあヘルカ、どうしてイルミは私らをこんな魔物しかいない洞窟(どうくつ)に行かせたがったんだ」

 あのどでかいウンチはよりにもよって治安維持とかぬかしやがって。ダンジョンに治安ってありか?

「は────くしょん!」

 驚いて数人が振り向いたのを片手振ってアイリは何もないと身振りで知らせ、誰か相手にイルミが自分の事で噂話しをしていると思った。

「嫌か。王妃(おうひ)(めい)で冒険に出るのは(ほま)れ大きなことだぞ」

「嫌じゃないけれど──他人の冒険譚(ぼうけんたん)聞いて何が楽しいんだ?」

「アイリ()な事を。貴君が話すときのイルミ・ランタサルの嬉々とした面もち。胸高鳴るのを抑えられない1人の娘の(まなこ)耀(かがや)かす物語を(つむ)ぐのが不快か?」

 この騎士の古株がイルミ・ランタサルの下についてもう何年にもなることをアイリは思いだした。

「ヘルカ・ホスティラ────お前心底の良い奴だな」

 ボソリと言い返しアイリ・ライハラはバンと甲冑(アーマー)(たた)かれひっくり返りそうになった。

「ほれ指揮しろ。お前の兵が次の一挙手一投足を待ってるぞ」

 アイリ・ライハラは咳払いすると長剣(ロングソード)を振り向け命じた。

「よしお前ら26階層も魔物は手薄だ! 行くぞ!」


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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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