第21話 返すがえす

文字数 1,710文字


 色々ある────父の仕事がけっこう溜まっていることにアイリ・ライハラは驚いた。

「どうすんだぁ、親父(おやじ)。1ヶ月はフル操業だぞ」

 鍛冶屋の台帳をめくりながらアイリは不安になった。手伝っても1ヵ月で終わりそうにないほど注文がある。だがふとアイリは思った。莫大な報償金をもらってるはずだった。

「なんで働いてるんだよ?」

「仕事、命」

 アイリの前でクラウスは右腕に力こぶを作って見せるとアイリは作りかけの(スカル)親父(おやじ)の額を殴りクラウスは椅子からずり落ちた。

「お前、今、マジで殴っただろ」

 椅子に這い上がり親父(おやじ)が座りながら指摘するとアイリはしらばっくれた。

「うにゃ! 知らん」

「アイリ、お前いつまで騎士をするつもりだ?」

「あ────騎士ね。好きでやってるわけじゃないから、明日止めるかも」



「アイリ、お前がよければいつ帰ってもいいんだぞ。報償金も手をつけてないからいつでも返せる」



 アイリは親父(おやじ)がマジで言ってることに気づいた。

「イルミ・ランタサルが誰かにしっかり護られるならすぐにでも帰る。だけどあいつ自分から危ないことにちょくちょく首を突っ込むからなぁ」

「お前、兄弟欲しがっていただろ。王妃(おうひ)が姉代わりか」

 アイリは吹きだしてけらけらと笑い声上げた。くるんくるんを姉だと感じたことは1度もなかった。あれは────ダチだ。マブダチだ。地位は関係ない。胸のすく思いをさせてくれる最高の友人だ。

 デアチ国に数人で乗り込んで何千という敵の前で啖呵切(たんかき)った。ふつうなら怯えて泣きだすだろうにあいつは元老院の長──サロモン・ラリ・サルコマーに言い負けず取り囲んだ兵士らの琴線(きんせん)をかき鳴らした。

 とても1歳違いだとは思えない。時々10は歳の違う物言いをする頭をぶんぶんブン回す変わった奴だ。

 ノーブル国とデアチ国、取りあえず大きな問題もなく平安ではなくともしばらくは手間要らずだとアイリは思った。

 ノーブルを覆う銀眼の魔女の呪いは当面おふれだけで凌げそうだった。イラ・ヤルヴァを丸め込んで天使の力でなんとか出来ないかとアイリは思った。

「アイリ、ノッチとは本当は婚姻を結んでないのだろ」

 お見通しの親父に今更(いまさら)嘘をいっても仕方なかった。

「ああ、成り行きでそういうことにしただけだよ」

「どんな成り行きだ。まったくちょっと見かけないと思ったら男を連れ帰ったのでおどろいた」

 お、男を連れ帰ったぁ? すごい遊び人に聞こえることにアイリは眼を丸くした。いやいやそんな仲じゃねぇ! アイリは親父(おやじ)なら話しても面倒なことにならないだろうと話すことにした。


親父(おやじ)、わたしが子どものころ地下迷宮で青い翼竜(ドラコー)に身売りさせたただろ」


 クラウスは眼を丸くして驚いていいわけめいたことを口にした。

「身売りじゃない。あのとき迷宮にさまよい続けてお前を地上に帰す唯一の方法が青竜と一緒にさせることだったんだ」

「あぁ!? そのせいで加護はあったが、髪は青くなるわ胸に青い宝石のようなものができるわで普通の暮らしが遠のいたんだよ」

「それとあの青髪の男とどう繋がるんだ?」

 アイリの父は不安げに娘に(たず)ねた。

「裏の魔女ミルヤミ・キルシ成敗(せいばい)に行った先で窮地になってな、ノッチス・ルッチス・ベネトスが同行するのを条件に助けてくれたんだ」

 アイリはめんどくさいので死んだ話はしなかった。

「ノッチス・ルッチス・ベネトス!? 天空の(ソード)と言われる────ノッチ!? あいつが天上人(てんじょうびと)眷属(けんぞく)!?」

「守護精霊との契約はまだ続いてる」

 そう告げた直後、アイリは視線を下げ(うつむ)いた顔を振り上げた。

 一瞬で(スカル)から甲冑(アーマー)鉄靴(サバトン)にいたるまで真っ青に(かがや)(よろい)姿になり父を(おどろ)かせた。

「ノッチとは離れていてももっと奥深い力で繋がっている」

 アイリが(うなづ)くと一瞬で普通の服に戻った。

(よろい)だけじゃなく(いかずち)(ソード)なんてのも使い放題。それを男連れ帰ったと言うか?」


────解きたい?


 いきなり確信をつかれアイリ・ライハラが振り向くとイラ・ヤルヴァが真後ろの頭上にいた。

「解きたいのは銀眼の魔女の呪いだよ。どうやってこの国すべての人の呪いを解くんだい!?」

 アイリが誰かと話し始めクラウスはアイリの視線の先へ眼を凝らすといきなり天使が見え椅子から滑り落ちた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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