第15話 またきて一難

文字数 1,540文字

 差し込んできた明かりにアイリ・ライハラは振り向くと開いた扉に隙間(すきま)が開いており、(ソード)(ブレード)が突き出て動いていた。

 1口(ひとふり)投げ入れろと(にわ)か騎士団長が口を開きかかった寸秒声が聞こえた。


「や、やっちまったぁ!!!」


 それと同時に2口(ふたふり)(ブレード)が折れ落ちて大理石の床に当たり派手な金属音を響かせ重なった。


「なぁっ!? 何やってんだぁ!? この馬鹿力女ぁ!!!」


 思わず口にしてしまうとその扉の隙間(すきま)に女騎士ヘルカ・ホスティラは口を押し当て(わめ)いた。

「何を! 貴様ぁ! どこのどいつか知らぬがぁ! そこで首洗って待っておれぇぇぇ!」

 怒鳴り散らすなりその隙間(すきま)に指かけてノーブル国リディリィ・リオガ王立騎士団きっての体力勝負女騎士が(うな)り声をあげ重く開かぬ扉をビリビリいわせ始めた。

 そのやり取りを構わず扉からの薄明かりに1度退(しりぞ)いた闇がアイリに押し寄せてきた。

 あぁどうすんだぁ!? (ソード)を折りやがって、この闇の怪物をどうやって倒すんだよぉ!?

 女騎士が隙間(すきま)に指をかけて(うな)っている方へアイリは後退(あとず)さった。

 背後で女騎士が(うな)り声を上げ続けていた。

 アイリの(かかと)が触れた刹那(せつな)、重なっていた折れた(ブレード)がずれ(くず)れ音を立てた。

「──────!!?」

 折れた自分の(ソード)でさえ闇に傷を負わせることができた。風を起こさずに近づいた化け物だが音を立てないのがもしかして────アイリは足の横にある(ブレード)をつま先の向きを変え踏んづけて探った。

 上手く隠れてるつもりらしいが、闇の本体を見つけだせるかもしれないと手を考えついた。

 アイリはいきなり(ひざ)を上げ折れた(ブレード)の根元に近い方を力任せに踏みつけ(おのれ)知る最高の(かせ)を外した。

「サーティ・ステップ!」

 飛び上がった回転する(ブレード)1口(ひとふり)の後ろでアイリ・ライハラの腰から下が一瞬でぶれ消え、回転する(ブレード)(ゆが)んだ寸秒(うな)り上げ闇に食い込んで飛び消えた。

 間髪入れずアイリはもう1口(ひとふり)の落ちている(ブレード)も踏み上げ違う向きに蹴り込んだ。

 闇の中で回転する2口(ふたふり)(ブレード)(うな)り上げ飛び続けていた。アイリは顔を左右に振り向けた。その音が重なり強まり弱まるのが交互に繰り返され顔の向きで現れては消える。


 そのリズムが乱れる向きがあった。


 右手前方の中央寄りに近い方だ! (にわ)か騎士団長は右足を引き(ひざ)を曲げ前傾(ぜんけい)になった。


 掛け金は外したままだった。


 薄暗い中でアイリ・ライハラの群青の髪がラピスラズリのように燃え上がると空気を激しく振動させ漆黒(しっこく)を引き裂いて飛び込んだ。

 一閃(いっせん)、アイリ・ライハラの消えた先で大きなぶつかる音が響き広がると、()もおかずにステップを踏み換えるつま先(ひね)る音と激突音が連続し始めた。

 その跫音(きょうおん)に混じり大扉の広がった隙間(すきま)から身を(ひね)り女騎士ヘルカ・ホスティラが入り込んできた。

 ヘルカは闇の奥で響く激突音に顔を据え何が飛びだしてきても立ち向かえるように短剣を引き抜き身構えた。

 その刹那(せつな)、闇の奥から何かが飛んできて女騎士は自分の前に何か大きなものが落ちた音が聞こえた。

 それを追いかけ闇から青い耀(かがや)きが急激に迫ってきてヘルカ・ホスティラの前で大理石の床に飛び降りると片足でマーブル模様の床に(うごめ)いているそれ(・・)を踏みつけ女騎士へ顔を振り上げ怒鳴った。


「ヘルカぁ! こいつを刺し殺せぇ!!」


 アイリ・ライハラの髪の青い耀(かがや)きが照らしだしているのはまるで(つぶ)(うごめ)くスライムの(ごと)もの(・・)だった。

 ヘルカはこんなもののどこを刺すのだと躊躇(ちゅうちょ)するとアイリがまた怒鳴った。


「早くしろ! こいつが闇に逃げ込んだら────」



 アイリ・ライハラが言ってる矢先にそのぶにょぶにょの何かは人の姿に変わり始め2人は顔を強ばらせた。



 (わず)かな間にそれ(・・)が剣竜騎士団第6騎士のエステル・ナルヒに成り変わると死んだはずの女がアイリ・ライハラの足首を両手でつかみ立ち上がった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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