第1話 出立(しゅったつ)
文字数 1,680文字
ゆらゆらとお遊び草を左右に振って馬に揺られてると普通だったらにやけた頬 がさらに下がる。
「貴君の実家はまだ遠いのか?」
あぁぁあア!? こんなにのんびりしてたら楽に10日以上はかかるじゃん。誰のせいだとアイリは犬っころ草を揺らすの止め眉間に皺 を刻んだ。
「何だ? 何を怒っている? 黒い靄 のような邪気が溢 れてるぞ」
お前が馬乗るの下手くそだからイラついてんだよ。じゃなかったらかっ飛ばして家に向かってるところだぁ。
「我 に遠慮せずともよいぞ。後から追いつくから」
嘘つけぇ! お前の馬術だと来年の暮れになるか大陸の反対側に行ってまうわ! それにその服装。矢の届く遥か先からでも目立つその派手な法衣はなんとかならんのかぁ! 被ってる馬の首ほどの高さある帽子目当てに盗賊が集まってくるぞ!
ぷりぷり少女は猫じゃらしをびゅんびゅん振り始めた。
「なあ、アイリ──なぜ1人ファントマ城から抜けだそうとしたのだ? こうしてお目付役を仰 せつかったのも貴君の怪しげな行動を王妃 様が心配されて────」
アイリはお遊び草を横へ大きく振ってお供 の顔を花穂で叩いた。
「うぷっ! なっ、何をするかぁ!? 貴君、ちょっと落ち着け! そんなに苛ついてると不幸がよってくる────うおぉおおお! お前城門のすぐ外でも蹴り落としただろう!」
少女に蹴られたお供 の馬がよろめき振り落とされそうになった役人が馬の首にしがみついた。
それを横目で見てアイリは思った。影武者を立てて晴れて自由の身になるのをイルミ・ランタサルは『しぶしぶだが!』了承した。公認なんだよ。公認! 誰も連れずに出立 したのは城の誰にも怪しまれないように、だぁ。
それを『待ってくれぇ! アイリ・ライハラ! おいてくなぁああああ!』なんて大声で叫びやがって、慌 てて駆け戻りお前を馬から蹴落 としたんだよ。
「ヘッレヴィ、お前どうして俺が城門から出てくのを気づいたんだ?」
落ち着かない馬の速歩 に合わせもんどり打つ異端審問司祭が必死の形相から不思議そうな面もちになった。
「なんだ。そんなこと簡単だ。貴君の背中に張り紙があるからだ」
少女は顔引き攣 らせ背中に手を回し紙を引き千切るとそれを眼の前で広げた。
このものアイリ・ライハラを王妃 の元に連れて来たもの報奨金4万デリ(:日本円で1万円ほど)を授ける。
あの馬糞女ぁ!!! なにしやがるんだぁ!!! それに4万デリという微妙に少額な謝礼金がなんだか余計に腹立たしくなる。
油断も隙もねぇとアイリは紙を丸めて投げ捨てた。
その紙玉にひょいと飛びついてヘッレヴィ・キュトラは落馬し馬に蹴り飛ばされひっくり返った。
馬を止めて振り返った少女はどうしようもない役人か聖職者か判断つかぬ女を気遣 った。
「お──ぃ、大丈夫かぁ? 打ち所悪くてそれ以上おかしくなるなよ」
地面に腕ついて上半身を起こしたヘッレヴィは片手で司教冠 整え立ち上がると少女へ握りしめた紙玉を突き出し高笑いした。
「わはははははぁ、貴君は若いなぁ! 若いぞ! 若さ故 の過 ちだな。こんな手配書のような紙をそこらに捨てたら、拾ったやつが読んで追いかけて来て──貴君────掠 われるぞ」
「ばぁ、馬鹿やろう! そうやって余計なフラグ立てる奴があるかぁ! 本当にそんな奴が来たらどうすんだぁ!」
少女はヘッレヴィが自分に怨 みでもあるのかと睨 みつけた。
「これは我 が大事にしまっておくから安心せよ」
そう言って異端審問司祭は法衣の袖 の中に少女の捨てた紙玉を隠し、それを見ていたアイリはその方がよっぽど不安だと思った。
幾重 にもかさばる法衣の裾を引き摺 りながらヘッレヴィは自分の馬に戻るとじたばたと悪戦苦闘し鞍 に跨 がった。その様 をじ────っと見ている少女の視線に気づき役職を理解してない女が笑顔浮かべ言い切った。
「安心せい! 貴君の名前はほれここに大事にしまってある」
そう告げ法衣の袖 をぽんぽんと叩 くヘッレヴィに呆れて少女はぷいと顔を逸 らし馬を進め始めた。
この時、少女はまだ無事に帰郷できると信じていた。
だが、お供はフラグ立ての名人職だ。
「貴君の実家はまだ遠いのか?」
あぁぁあア!? こんなにのんびりしてたら楽に10日以上はかかるじゃん。誰のせいだとアイリは犬っころ草を揺らすの止め眉間に
「何だ? 何を怒っている? 黒い
お前が馬乗るの下手くそだからイラついてんだよ。じゃなかったらかっ飛ばして家に向かってるところだぁ。
「
嘘つけぇ! お前の馬術だと来年の暮れになるか大陸の反対側に行ってまうわ! それにその服装。矢の届く遥か先からでも目立つその派手な法衣はなんとかならんのかぁ! 被ってる馬の首ほどの高さある帽子目当てに盗賊が集まってくるぞ!
ぷりぷり少女は猫じゃらしをびゅんびゅん振り始めた。
「なあ、アイリ──なぜ1人ファントマ城から抜けだそうとしたのだ? こうしてお目付役を
アイリはお遊び草を横へ大きく振ってお
「うぷっ! なっ、何をするかぁ!? 貴君、ちょっと落ち着け! そんなに苛ついてると不幸がよってくる────うおぉおおお! お前城門のすぐ外でも蹴り落としただろう!」
少女に蹴られたお
それを横目で見てアイリは思った。影武者を立てて晴れて自由の身になるのをイルミ・ランタサルは『しぶしぶだが!』了承した。公認なんだよ。公認! 誰も連れずに
それを『待ってくれぇ! アイリ・ライハラ! おいてくなぁああああ!』なんて大声で叫びやがって、
「ヘッレヴィ、お前どうして俺が城門から出てくのを気づいたんだ?」
落ち着かない馬の
「なんだ。そんなこと簡単だ。貴君の背中に張り紙があるからだ」
少女は顔引き
このものアイリ・ライハラを
あの馬糞女ぁ!!! なにしやがるんだぁ!!! それに4万デリという微妙に少額な謝礼金がなんだか余計に腹立たしくなる。
油断も隙もねぇとアイリは紙を丸めて投げ捨てた。
その紙玉にひょいと飛びついてヘッレヴィ・キュトラは落馬し馬に蹴り飛ばされひっくり返った。
馬を止めて振り返った少女はどうしようもない役人か聖職者か判断つかぬ女を
「お──ぃ、大丈夫かぁ? 打ち所悪くてそれ以上おかしくなるなよ」
地面に腕ついて上半身を起こしたヘッレヴィは片手で
「わはははははぁ、貴君は若いなぁ! 若いぞ! 若さ
「ばぁ、馬鹿やろう! そうやって余計なフラグ立てる奴があるかぁ! 本当にそんな奴が来たらどうすんだぁ!」
少女はヘッレヴィが自分に
「これは
そう言って異端審問司祭は法衣の
「安心せい! 貴君の名前はほれここに大事にしまってある」
そう告げ法衣の
この時、少女はまだ無事に帰郷できると信じていた。
だが、お供はフラグ立ての名人職だ。