第2話 決心
文字数 1,833文字
デアチに踏み込んだイルミ・ランタサル一行 は見えてきた村で馬を休ませる事にした。
藁葺 き屋根の土壁の家がぽつりぽつりと近づいては通り過ぎる。
荷馬車の列を目にした途端に出入り口にいる人が慌 てて中に入り扉を閉じ、窓に見えた顔が引っ込められ板戸が下ろされた。
手綱 を握るアイリ・ライハラは村の様に眉根をしかめた。
家々の間を抜ける通りに動いているのは放し飼いの鶏 と、風で転がる枯れ草の塊だけだ。
兵士のなりをしていないのに、何をそれほど警戒してるのだと少女は思い、イルミ王女が言った事を思いだした。
──この国の兵に見つかると脱国者として連行され裁きをうけるという噂 を耳にしたことがあります────。
国境 をこそこそ歩いているなら、どこぞへ行こうとしてると咎 められるのもあるだろうけれど、商人や農民の格好をしたものが操る荷馬車を見たぐらいで、魔物を目にした様に隠れる。
イルミ王女が通り沿いに井戸を眼にして隣に座るアイリの袖 をつかみ持ちかけた。
「アイリ、あの井戸で馬達に水をやりましょう」
少女が手綱 を片側に引っ張り馬を井戸に向けると、井戸の裏手から人さし指を咥 えた幼児がよたよたと出てきた。
アイリが馬を止めたその時、近くの粗末な家から農婦が走り出てきて子どもをひったくる様に背後に隠し懇願 し始めた。
「ご勘弁ください! この子はまだ言葉も満足に────」
「いや、ならん! その子どもを差しだせ!」
操馬台 から見下ろすアイリが冗談を言うと、イルミ王女が横に腕を振り上げ拳 が少女の顔にめり込んだ。
「大丈夫ですよ。何もしませんから。お子さんをどうされると思われたのですか?」
イルミ・ランタサルが優しく問うと、その農婦は他の荷馬車のもの達へも視線を游 がせ口を開いた。
「公布で兵のなり手を差しだす様にと。でも────」
見上げる農婦が視線を下げ言葉尻を濁 したのが気になって王女は眼を回しているアイリをそのままに操馬台 から下りると膝 を折り農婦に視線を合わせた。
「でも──なんですの? 近衛兵にでも召し抱えられれば、手当てで生活も潤 うでしょうに」
「手当てどころか、音沙汰 もなくなると皆 は言っております。男手は老人すらも殆 ど連れて行かれ、近ごろは子ども達にも連れて行かれたものがいるのです」
方々 に戦 の兵を送っては諍 いを繰り返す大国デアチといえども兵の頭数が足らない附 けを国民に強要している、といったところかとイルミ王女は思った。
「いずれ平穏 となれば、国王も民 を労 るでしょう」
王女がそう告げると農婦が激しく頭 振った。
「その様な事はありえませぬ──ヴィルタネン国王は戦 のために兵を欲 するのでなく、兵を手に入れるために戦 を繰り返すと云われるお方です。民 の事など道具としてしか思われておいででないと村々に残された女子どもは知っております」
いきなりイルミ王女は荷馬車後部に振り向いて侍女 ヘリヤへ声をかけた。
「ヘリヤ、甘味 のものを」
王女に言われ、侍女 は休憩の時に旅の皆 に出そうと思っていた焼き菓子を袋なり手にして荷馬車を下りイルミ王女へ差し出した。
イルミは受け取りそれを農婦に手渡した。
「村の子ども達にお分けなさい」
袋から溢 れる糖蜜の香りに農婦の後ろから幼子が顔を出した。
「盲目 の君主は愚かさ故 いずれ報いを受ける時が来ます。夜明けは必ず訪れるものですよ」
そう村守り人に伝えイルミ・ランタサルは幼子に微笑むと立ち上がり操馬台 に手をかけた。王女が上がろうとするとアイリが食ってかかった。
「何で殴るんだぁ! 井戸で馬に水やるのと違うんかぁ!?」
少女の横に腰を据えたノーブル国王女は顎 の一振りで馬車を出せと命じた。そのあまりにもの威圧感にアイリ・ライハラはそれ以上文句を言えずに手綱 を揺すった。
荷馬車の列を目にした途端に出入り口にいる人が
家々の間を抜ける通りに動いているのは放し飼いの
兵士のなりをしていないのに、何をそれほど警戒してるのだと少女は思い、イルミ王女が言った事を思いだした。
──この国の兵に見つかると脱国者として連行され裁きをうけるという
イルミ王女が通り沿いに井戸を眼にして隣に座るアイリの
「アイリ、あの井戸で馬達に水をやりましょう」
少女が
アイリが馬を止めたその時、近くの粗末な家から農婦が走り出てきて子どもをひったくる様に背後に隠し
「ご勘弁ください! この子はまだ言葉も満足に────」
「いや、ならん! その子どもを差しだせ!」
「大丈夫ですよ。何もしませんから。お子さんをどうされると思われたのですか?」
イルミ・ランタサルが優しく問うと、その農婦は他の荷馬車のもの達へも視線を
「公布で兵のなり手を差しだす様にと。でも────」
見上げる農婦が視線を下げ言葉尻を
「でも──なんですの? 近衛兵にでも召し抱えられれば、手当てで生活も
「手当てどころか、
「いずれ
王女がそう告げると農婦が激しく
「その様な事はありえませぬ──ヴィルタネン国王は
いきなりイルミ王女は荷馬車後部に振り向いて
「ヘリヤ、
王女に言われ、
イルミは受け取りそれを農婦に手渡した。
「村の子ども達にお分けなさい」
袋から
「
そう村守り人に伝えイルミ・ランタサルは幼子に微笑むと立ち上がり
「何で殴るんだぁ! 井戸で馬に水やるのと違うんかぁ!?」
少女の横に腰を据えたノーブル国王女は