第2話 闇
文字数 2,221文字
荷馬車に揺られアイリ・ライハラはイルミ王女達と騒いでいると半日があっという間だと感じた。
イルミ・ランタサルの王室があるノーブル国の北に隣接する国ウチルイ。あまり良い評判を聞かない隣国だが、国境 を越え田舎道ばかりだと少女が思ったら、田舎道ではなかった。
それが最初の村にさしかかり判然とした。
村が見えてきてやっとイルミ・ランタサルから解放されるとアイリが胸をなで下ろした。
近づくにつれ少女は何か変だと感じ始めた。
村はずれの最初の一軒家横にさしかかる。
家は粗末 な納屋にも見えて、荷馬車の車輪の音が響いても戸口に誰も現れない。
それが2軒続き、3軒、4軒となりアイリはまだ人を見かけていないことに気づいた。
少女はみんな農作業に出てるのかと思ったが、子供や老人を見かけないのはおかしいと思い始めた。
イルミ王女はアイリをからかわなくなり、辺りを探る様に見回し続けている。
そんな中、後ろの荷物越しにイラ・ヤルヴァがアイリに小声をかけてきた。
「アイリさん、気をつけてください。様子が変です」
「うん、わかってる」
殺気は感じないが何か変だ。
そろそろ馬を休ませ、水と干し草を与えたかった。
十数軒目に少し大きな家があり、表に馬用の水飲み場があるのでアイリはその前で手綱 を引き荷馬車を止めた。そうして鞘 に収めた長剣 を握りしめ操場台から跳び降りると荷台から降りようとするイラを止めた。
「様子を見てくるまで荷馬車にいてくれ」
女暗殺者 が頷 いたが、イルミ王女がさっさと降りてその馬止めのある家へ歩きだしアイリは慌てて駆けると王女を追い越し先に戸口に急いだ。
「すいません! 馬に水と藁 を与えたいので分けてください」
戸口の前で大きな声でアイリが申しでた。
返事はなく、もう一度少女は声をかけた。
それでも返事がない。アイリがどうするか迷っていると王女が少女にぼそりと告げた。
「気がつきませんの? この匂い!」
言うなり困惑するアイリの横を通り抜けイルミ王女が片手で口元をふさぎ片手で扉を引き開けた。
とたんに、戸口から離れている少女のもとにその悪臭が溢 れでた。
死臭だ!
アイリは急ぎ足で王女を押しのけ家の中をのぞき込んだ。
それは最初の部屋に転がっていた。
腐乱した手足数本が転がりハエが飛び交いウジがたかっている。
「最初の部屋がこんな風だと、ここで生活してるものなどいませんね」
アイリの肩越しにのぞくイルミ王女がそう告げた。
「とりあえずお手洗いを借りたいので奥に行きましょう」
王女がそう言いどんどん先に行くので、この人は心臓に毛が生えてるのか? どうして死体に動じないんだ? と思いながらアイリは慌てた。
結局、他の部屋にも幾つか手足が転がっているが、肝心の胴体はなく、それでも一行はこの家で用を足し、表で休憩がてら馬に水と藁 を与えた。
イルミ王女の護衛にイラを残し、アイリは近くの3軒をのぞきに行くと同じように色んな部屋に腐乱した手足が落ちていたが、どこにも胴体や完全な遺体がないのが不可思議だった。
馬は怯えておらず、とりあえずは危険がないとアイリとイラの意見は一致したが、離れた家の前にいる騎士達の3台の荷馬車から女騎士ヘルカ・ホスティラが駆けてきた。
「王女様、この村は様子が変です。団長が早く村を出るようにと申しています」
「いえ、今夜はこの村の通りに野営します。野原で得体の知れぬものらに囲まれるよりは防ぎやすいでしょうし、どうやら家の中が安全だとは言い切れないみたいですから」
2人のやり取りを聞いていたアイリは、得体の知れぬもの とは何だと不安をかき立て軽口をたたかないイルミ王女が何を気に掛けているのか気になった。
陽の落ちる夕刻までにアイリは村の一軒一軒を見て回り19軒の家々がほぼ同じ惨状なのには愕 いたが、他に不審なものは見かけたり感じたりしなかった。
盗賊に襲われたにしては家々の家財が荒らされておらず、理解できぬまま、彼女らは村の一番家の集まっている間の道に野営準備を始めた。馬のいない荷馬車を集めまわりを囲む形で横倒しにし、その中央で焚 き火をする。
時期も時期で陽がかげりだすころから急激に空気が冷え込んで切らさぬ炎に騎士たちも含め皆 が集まり、交代で2名が番に立った。
夜になると風もなく物音1つしないことの方が逆に心配になる。
数名が寝息を立て始め、アイリもうとうとしだすと突然騎士の1人が立ち上がり剣 を抜いた。
その音に皆 が眼を覚まし辺りを見回した。
剣 を構える騎士にラハナトス騎士団長が声をかけた。
「何を警戒しておる!?」
「闇が動いたんです」
「闇が動いただと!?」
急いで侍女 ヘリヤが火の消えた薪 に火を戻そうとしている横でラナハトスが問い返した瞬間だった。
倒した荷馬車の外に見張りに立つものにでなく、剣 を構えている騎士に闇が襲いかかった。
イルミ・ランタサルの王室があるノーブル国の北に隣接する国ウチルイ。あまり良い評判を聞かない隣国だが、
それが最初の村にさしかかり判然とした。
村が見えてきてやっとイルミ・ランタサルから解放されるとアイリが胸をなで下ろした。
近づくにつれ少女は何か変だと感じ始めた。
村はずれの最初の一軒家横にさしかかる。
家は
それが2軒続き、3軒、4軒となりアイリはまだ人を見かけていないことに気づいた。
少女はみんな農作業に出てるのかと思ったが、子供や老人を見かけないのはおかしいと思い始めた。
イルミ王女はアイリをからかわなくなり、辺りを探る様に見回し続けている。
そんな中、後ろの荷物越しにイラ・ヤルヴァがアイリに小声をかけてきた。
「アイリさん、気をつけてください。様子が変です」
「うん、わかってる」
殺気は感じないが何か変だ。
そろそろ馬を休ませ、水と干し草を与えたかった。
十数軒目に少し大きな家があり、表に馬用の水飲み場があるのでアイリはその前で
「様子を見てくるまで荷馬車にいてくれ」
女
「すいません! 馬に水と
戸口の前で大きな声でアイリが申しでた。
返事はなく、もう一度少女は声をかけた。
それでも返事がない。アイリがどうするか迷っていると王女が少女にぼそりと告げた。
「気がつきませんの? この匂い!」
言うなり困惑するアイリの横を通り抜けイルミ王女が片手で口元をふさぎ片手で扉を引き開けた。
とたんに、戸口から離れている少女のもとにその悪臭が
死臭だ!
アイリは急ぎ足で王女を押しのけ家の中をのぞき込んだ。
それは最初の部屋に転がっていた。
腐乱した手足数本が転がりハエが飛び交いウジがたかっている。
「最初の部屋がこんな風だと、ここで生活してるものなどいませんね」
アイリの肩越しにのぞくイルミ王女がそう告げた。
「とりあえずお手洗いを借りたいので奥に行きましょう」
王女がそう言いどんどん先に行くので、この人は心臓に毛が生えてるのか? どうして死体に動じないんだ? と思いながらアイリは慌てた。
結局、他の部屋にも幾つか手足が転がっているが、肝心の胴体はなく、それでも一行はこの家で用を足し、表で休憩がてら馬に水と
イルミ王女の護衛にイラを残し、アイリは近くの3軒をのぞきに行くと同じように色んな部屋に腐乱した手足が落ちていたが、どこにも胴体や完全な遺体がないのが不可思議だった。
馬は怯えておらず、とりあえずは危険がないとアイリとイラの意見は一致したが、離れた家の前にいる騎士達の3台の荷馬車から女騎士ヘルカ・ホスティラが駆けてきた。
「王女様、この村は様子が変です。団長が早く村を出るようにと申しています」
「いえ、今夜はこの村の通りに野営します。野原で得体の知れぬものらに囲まれるよりは防ぎやすいでしょうし、どうやら家の中が安全だとは言い切れないみたいですから」
2人のやり取りを聞いていたアイリは、
陽の落ちる夕刻までにアイリは村の一軒一軒を見て回り19軒の家々がほぼ同じ惨状なのには
盗賊に襲われたにしては家々の家財が荒らされておらず、理解できぬまま、彼女らは村の一番家の集まっている間の道に野営準備を始めた。馬のいない荷馬車を集めまわりを囲む形で横倒しにし、その中央で
時期も時期で陽がかげりだすころから急激に空気が冷え込んで切らさぬ炎に騎士たちも含め
夜になると風もなく物音1つしないことの方が逆に心配になる。
数名が寝息を立て始め、アイリもうとうとしだすと突然騎士の1人が立ち上がり
その音に
「何を警戒しておる!?」
「闇が動いたんです」
「闇が動いただと!?」
急いで
倒した荷馬車の外に見張りに立つものにでなく、