第5話 賭(か)け

文字数 1,670文字

 砂浜に転がり白髪を広げた魔女の頭部が高笑いすると波に流される砂山のように見る間に(くず)れだすとノッチの首から()い出ようとした魔女の(からだ)も一気に(くず)れ落ち砂と見分けがつかなくなった。

()ったのか!?」

 ヘルカ・ホスティラがテレーゼと顔を見合わせ言っても、イルミ・ランタサルはそうではないと思っていた。

 それよりもノッチはどうするのだとイルミ王妃(おうひ)はアイリに(たず)ねた。

「アイリ────貴女(あなた)の夫が────」

 アイリ・ライハラはいきなり長剣(ロングソード)を砂浜に刺すと転がっているノッチの頭を両手で抱き上げ倒れた身体の切れた首に押しつけた。だがイルミは少女の背姿で何をしているのかまったく見えていなかった。

「こいつがこんなことで死ぬわけねぇ────じゃん」

 そうアイリ・ライハラが(つぶや)いた直後、(ソード)手にするヘルカとテレーゼが腕を振り上げドン引きしてアイリから後退(あとず)さった。

 寸秒、いきなり立ち上がったノッチが首の付け根に手を当て首を鳴らし回したのを眼にしてイルミ・ランタサルは驚いて腰を抜かしそうになってよろけアイリに問い(ただ)した。

「あ、アイリ────貴女(あなた)のご主人って、ま、魔導師(ウォーロック)なの!?」

 イルミに背を向けて立ち上がったアイリは肩越しに右手のひらを左右に振った。

「こいつが魔導師(ウォーロック)のわけね──じゃん。呪われてて死ねね────んだよ」





「────んだよ」

 そうアイリが言った直後、イルミ・ランタサルはもっと重要なことを()うた。

「魔女の血が白かろうが黒かろうがどうでも良いですけれど、どうしてアイリ────ノッチがあなたと同じで血が青いのです!?」

 眼を引き()ったように見開いてアイリ・ライハラがゆっくりと振り向いて告げた。


「呪いが移ったんだ()


 いきなりノッチがアイリ・ライハラの頭に拳骨(げんこつ)を落とした。

「だぁれが、呪われてるんだぁ」

 アイリはノッチへ振り向いて怒鳴りつけた。

「いてぇじゃないか! 頭くっつけてやったの俺だぞ!」

「お礼にもう1発お見舞いしてあげようじゃないか」

 そう言い捨てノッチが(こぶし)上げるとアイリはイルミ・ランタサルに方へ後退(あとず)さり始めた。

 それを見ながら王妃(おうひ)(あき)れ伝染したのか元々性格が似ているせいかと青い血のことはこだわらないことにした。

王妃(おうひ)様、魔女への奥の手使ってしまった今、さらなる手立てをお考えくださいませ」

 ヘルカ・ホスティラがそう告げ頭下げた。

 それを眼にしてイルミ・ランタサルは無理だと生唾(なまつば)を呑みこんだ。

 ノッチが言ったではないか。(わたくし)剣戟(けんげき)を勘違いしていると。そんな(わたくし)にどうして(たよ)りきるのだ!?

 たった今、お前とテレーゼが魔女の首刎()ねた後をお前は見ただろう。転がり落ちても銀眼の魔女は頭1つで高笑いしていたのだぞ。そんな怪物にどんな手立てがあるという。

 決して私兵に弱気を見せてはならぬとイルミは思いその場しのぎのでまかせで応えた。

「お待ちなさい。今もっとも効果ある方法を考えています。それよりも魔女の住処(すみか)に奇襲をかけましょう」

 そう持ちかけていよいよの時はアイリ・ライハラに超絶(スーパーソニック)斬撃(ライトニング)を打たせれば良いと単純に考え、イルミ・ランタサルはテレーゼ・マカイの呪いの叫聲(おらびごえ)が効果ないと思いだした。

 どうして破壊の音が通じぬ!?

 いや、そもそもテレーゼのバンシーはどうやって相手を破壊する!? あれはアイリ・ライハラの斬撃(ざんげき)と同じ音の力で切り裂いているはずだ。

 音の力を打ち消すとは!?

 ふとイルミ・ランタサルはアイリ・ライハラが(ブレード)ぶつけ合う時に時々見せる相手の(やいば)打ち込む力を滑らせて勢いを殺し止める剣技(けんぎ)を思いだした。

 魔女はテレーゼの呪いの叫びを大声で打ち消したか?

 いやそもそも氷の(やいば)すら向けていない。

 氷!?

 煮沸する湯も冷めさせ凍らせれば微動だにしない。

 魔女はそうやってテレーゼの呪いの声を打ち消したのかもしれない。音伝える空気を冷やし力(うば)う。その冷やす力がアイリ・ライハラの全力の斬撃(ざんげき)に力負けることはあるのか?

 ()り結んだ後では引き返せない。



 アイリ・ライハラの超絶(スーパーソニック)斬撃(ライトニング)────それも全力を入れた必殺剣技(けんぎ)



 打ち負かされない方にイルミ・ランタサルは()けた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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