第12話 近衛兵副長
文字数 2,754文字
「──よって
ソファで聞いていたアイリはテーブルを乗り越え王女が手にして読み上げていた
見る間に青白い顔になり冷や汗を浮かべる少女に反対側のソファに腰を下ろしている王女が咳払い1つで告げた。
「こほん、アイリ器用ね。上下逆さまよ。それとテーブルから下りなさい
いきなりアイリは約定書を両手でビリビリに破くと口に放り込み呑み込んで宣言した。
「こぉ、これでぇ、げほ、げほっ、身売りは不成立だぁ!」
「まぁ!? 身売りですと? 『
テーブルに四つん
「あのエロ親父、俺を売りやがって! 顔見せたら足腰使えねぇようにしてやるぅ!」
眼を強ばらせ呪いを
それを見下ろしてイルミ王女はにたぁと一瞬顔を崩すと引き締めた。
「さあ、
「いやだぁ」
尻を持ち上げ突っ伏したままのアイリがなおも
「往生の悪い! さっさとお行きなさい、アイリ。その持ち上げたままの可愛いお尻にわたくしの靴ががっつり食い込みますことよ」
言い放ち王女がドレスのスカートをつまみ片足を上げるとアイリは四つん
「
背に命じられ返事もせずにアイリは力なく扉を開き廊下へ出ると後ろ手に扉を閉じた。
静かな長い廊下に立ち並ぶ彫刻を施された柱の間を少女はとぼとぼと出口へ向かった。
すれ違う数人のもの達が少女へ興味本位の視線を向けるのも知らずアイリは広場に出ると横手にある近衛兵
「ちわぁす、アイリ・ライハラでぇす。近衛兵に配属になりぃあしたぁ──」
途端に長テーブルで談話していた20人あまりの男らが振り向き数人のものが長椅子から壁へ飛び離れ強張った顔を出入り口へ向けた。その怯えようを眼にしてアイリは唇をねじ曲げた。
「お!? 本当に来やがったな! こっちに来い、アイリ」
奥のテーブルに腰掛けたライモが明るい声を返し手招きした。
少女は中へ入り扉を閉じると一礼してテーブルの間を奥へと歩き床にある異物に眼を奪われた。
釘で打ちつけられた自分の靴がそのままにしてある。
どういうことだとアイリは眉間に
「ちぃわす。イルミに副長やれと言われてきたアイリです。よろしくお願いしますぅ」
「あははは! 王女に本当に近衛兵にさせられたか。座れよ」
「お前、騎士のヨエル・ネストリとヘルマンニ・アールネを町で倒したんだってな。近衛兵じゃなくて騎士見習いにさせられると皆が言っていたところだ」
椅子に腰を下ろした少女が顔を上げると、まだ全員が彼女を見ていた。
「で、どうやって倒した? その果物ナイフでか?」
「棒で
アイリがぼそりと言うと数人の男らが息を呑むのが聞こえた。
「棒?
ライモに聞かれアイリは
「洗濯物干しの長棒──」
一瞬間がありライモがまた大笑いした。
「お前、あんな細い棒で騎士を倒せたのか? あいつらのソードにまた巻きつけたのか?」
「1人の頭を突いて折れたんで、それでもう1人を折れたやつで
説明してるアイリは同じテーブルにつく5人の男らが食い入るように聞いていることに気がついた。その5人だけでない他のテーブルのもの達も耳を立て聞いているのが少女にはよくわかった。
「大した奴だ!」
そう言ってライモがアイリの背を大きな手で
「それより、ユハナさんてどの人?」
アイリが横にいる近衛兵長に尋ねると隣のテーブルにいる細身だが
「俺だ」
アイリはいきなり立ち上がりユハナに身体の向きを変えると深々と頭を下げ謝った。
「ごめんなさい。私、あなたの役を奪ってしまったの」
謝罪にユハナ副長が否定した。
「アイリ、頭をあげろ。君が騎士2人を倒したと耳にして、王女がここで君を副長にすると宣言したのを呑んだよ。胸がすっとしたんだ」
わけが分からずに少女が困惑した顔を上げると後ろからライモが説明した。
「俺達近衛兵は
そう言ってライモがまたアイリの背中を手のひらで
アイリ・ライハラは彼らに受け入れられている理由を知りリクハルド・ラハナトス騎士団長がそのような人には思えないのにと内心困惑していた。