第6話 ばればれじゃん

文字数 1,362文字

 黒装束に黒のレース・ベールで顔を隠し歩く。

 テレーゼ・マカイと一緒に城内を散策するアイリ・ライハラは自分は目立たぬが、その服装でいる彼女が目立つので結局共に歩き回るだけでそれはそれで目立つのだと人と出会う都度に苦笑いを浮かべ続けた。

 王妃(おうひ)イルミ・ランタサルの助言で1度死んでいるテレーゼは顔を見せると大騒動になるので何があっても剣竜騎士団のものや、近衛兵らに(さと)られぬようにと言い含められ、アイリ・ライハラは名を聞かれたらマイリ・ライハラを名乗りアイリの姉だと言うようにとイルミに決められてしまった。

 急に成長したなど言いだしたら、テレーゼと同じように大騒ぎになる、だとさとアイリは口を尖らせた。

「変わらぬな」

 歩きながらテレーゼがぼそりと呟いたのでアイリは聞き返した。

「なにが?」

「王族が代わり、圧制がなくなっても、(みな)の顔色は良くない」

 アイリはちょっと考えて明るく応えた。

「だってこの国、北にあるから寒いじゃん」

「寒いと顔色は暗くなるのか? それは違うだろ。もっと北の地にある狩猟(しゅりょう)小族を見たことがあるが笑顔で生き生きとしていたぞ」

 こだわるなぁ~とアイリは思って正直に言った。

「その北の人達は狩りで生活が成り立ってるから。でもデアチ国は産物少ないし、仕事少ないし、多くの人が今日明日の暮らしに大変だから」

 アイリの物言いにテレーゼがいきなり立ち止まった。

汲々(きゅうきゅう)としてると言うか!? 貧乏国家ではないぞ!」

「だって食うためにいつも(いくさ)分捕(ぶんど)ってたじゃん。顔色が(けわ)しくなるし、明日生き残れるかなって考えるじゃん。それで明るくしてたら頭が変だよ」

 立ち止まって話してる庭園回廊に侍女(じじょ)が歩いて来たので2人は黙って庭を(なが)めやりすごした。

 通り過ぎる侍女(じじょ)が会釈しちらちらと黒衣のベール越しの顔とアイリの青髪へ視線(およ)がせたのでアイリはまた苦笑いを浮かべた。

「ところで貴公、嵩上(かさあ)げした年齢を(みな)にどう納得させるつもりだ?」

 テレーゼが気遣(きづか)っているとはいえ、嵩上(かさあ)げという言葉にアイリはおつむが足りてないように聞こえ抗議した。

「かさ上げ言うな。イルミが考えると言ってただろう。あいつ頭回るから任せとけばいいよ。ところでお前こそ生き戻りをどう説明するんだぁ? 下手(へた)するとまたヴァンパイアだの悪魔憑(あくまつ)きだの言われんじゃん」

 生き戻りが死にぞこないに聞こえテレーゼはとても不名誉に思えてベールの下で顔をしかめて言い返した。

「我を死にぞこないみたく言うな。立派に戦死したんだ。お前が刺し殺しただろうが。その上に切り刻みやがって」

 アイリは苦笑いして頭を()いて謝った。

「すまん! でも(いくさ)仕掛けて来たのはお前らだぞ。俺っちは献上品持って元老院の(じじい)に会いにきただけだぞ。攻め入ってないぞ」

 テレーゼはアイリの物言いにやっぱり成りは大人でもおつむは小便臭いガキだと思った。



「──テレーゼ、何で生きてるんし? アイリ団長、何で(ばばあ)になったんし? さてはお前らサバトでサタンと契約してきたんしィ?」



 2人は驚いて左右に跳び退()くと後ろに剣竜騎士団第6騎士のエステル・ナルヒが煙管(きせる)を手に眠たそうな顔で立っていた。

「エステルぅ!? ど、どっから沸きやがったぁ!? ひ、人を魔女みたく言うなぁ!!!」

 テレーゼ・マカイとアイリ・ライハラはハモって言い返し正体がばれてしまった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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