第3話 蔑(さげす)み

文字数 1,665文字

 こんな小娘相手に()り合わなくてはならぬのかと考えヘルカ・ホスティラは思いを改めた。

 アイリ・ライハラと(やいば)交えたこともあったではないか。

 見るとこスカート丈の短い動きやすそうなドレス姿のロミルダという少女妖魔は騎士団長と変わらぬ歳に見えた。

 だが問題は歳の幼さだけではなかった。

 得物(えもの)(:武器)を手にしていなかった。

「向かって来るなら幼くとも容赦せぬ。だが妖魔よ兵仗(ひょうじょう)はいかに? 素手とて容赦せぬぞ」

 そう女騎士が問うと男の妖魔に肩を押し出されたロミルダが小憎らしいことを言い放った。

「我の武具のことなぞ気にかけぬともよい。それよりもお前、自分の命の心配をすべきだ」

 そう警告した寸秒だった。

 ロミルダは猛速でヘルカ・ホスティラへ駆けると(ソード)構える女騎士の横へ跳び上がった。その空中で両の手を得物持つ姿勢に変えるとその手に武器の()が急激に伸び一瞬でロミルダの身長よりも長い戦斧(ハルバード)になった。

 少女妖魔は(からだ)(ひね)りヘルカの斜め後ろにショートブーツを履いた両足を(そろ)え着地するとバネを解放するように(からだ)回転させ戦斧を振り回した。

 横目でその挙動と武具を眼にした女騎士は身体を(ひね)り振り込んでくる戦斧の大きな(やいば)長剣(ロングソード)で受け火花散らし跳び退()いた。

 この妖魔の小娘速い! それにあの大きな戦斧(ハルバード)をナイフ振り回すように軽々と扱う!

「少しはできるようだな女騎士──だがこれはどうだ?」

 着地したロミルダは女騎士の左手にゆっくりと回り込んでステップを急激に速め踏み込んで戦斧(ハルバード)の2枚の(やいば)中央のスピアをヘルカ・ホスティラ目掛け突き込んできた。


 その凄まじい勢いに女騎士は上半身を()()らせ急ぎ足で後退(あとず)さった。





 終焉(しゅうえん)の六災厄が一人──火刑人のヴェラは千人ほど人どもが集まっていることなぞ意に介していなかった。

 骸骨兵(スケルトン)に戦わせればよい。骸骨兵(スケルトン)の召還兵は膨大な魔力で幾らでも補充がきいた。

 問題は人ら前面中央にいる小娘だった。


 人族にしては珍しい真っ青な髪をしていた。


 魔法使いの(たぐい)か? だが(わず)かにも見えぬ魔力にヴェラは高を(くく)った。それで(ソード)を帯刀しているのかと納得する。

 魔力も不十分なら(たよ)剣技(けんぎ)も知れているだろう。

 このままひれ伏させたまま残らず首を(はね)ても良いが蛆虫(うじむし)(ごと)き人どもに一抹の希望を見せそれを奪い取ろうとヴェラは思った。

骸骨兵(スケルトン)、人どもを立たせよ」

 魔法の巻物を託された骸骨兵(スケルトン)(ひざまず)き頭を下げさせた魔法無効を宣言するとアイリ・ライハラとイルベ連合の兵士らは見えぬ重しが消え失せ立ち上がった。

蛆虫(うじむし)ども機会を与えよう。貴様らの中で強さに自信あるものを5人選べ。対するは(われ)1人。貴様らの5人の内1人でも生き残れば我が軍勢を退()かせようぞ」

 それを聞いた人どものざわつきが始まった。

 有象無象──蛆虫(うじむし)どもには強さの上下もないのかとヴェラは内心あざ笑った。魔界では強さは絶対。この我こそ第5位の下には179万の魑魅魍魎がいる。その力の序列は絶対であり服従を強いる。

「なぜそれをお前が決める!?」

 大声で問うものがいることにヴェラは驚いた。



 青髪の少女が(あご)を引き三白眼で(にら)み据えていた。



「簡単なことよ────我々が圧倒的に優勢だから」

「ならわたしとお前の一騎打ちで決めよう」

 言い放った少女が大馬鹿だとヴェラは(あざけ)った。お前(ごと)き我の手足すら動かさず命奪うことができようぞ。

 重そうな長剣(ロングソード)切っ先(ポイント)を地面に着けたまま(にら)みつける青髪の小娘が強さで足元にも(およ)ばないとヴェラは値踏みした。


 焼き殺して一瞬で終わらせてやる。


 その後は蛆虫(うじむし)どもの蹂躙(じゅうりん)だ。

「小娘、名乗ることを(ゆる)す」

「アイリ・ライハラ────ノーブル、デアチ、イルブイの騎士団長であり────」


「────十字軍総大将」


 人の兵の間でざわめきが広がった。

 (あざむ)くな! 十字軍のトップだと!? それぞれの国の騎士団長なぞ知らなかったが十字軍が蛆虫(うじむし)どもの総軍であることは魔界にも知られていた。だが、こんな大人にもなりきらぬ小娘が総大将なぞとは指の先ほどにも信じられなかった。



 終焉(しゅうえん)の六災厄が一人──火刑人のヴェラは御輿座(みこしざ)から立ち上がった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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