第3話 困惑
文字数 1,771文字
伝書鳩が窓辺の止まり木にとまっているのを眼にしたアイリ・ライハラは無視しようかと迷った。
どのみち後からとやかく言われるのも嫌なのでアイリは窓をそっと開き伝書鳩をつかんで片足に止められている伝言を抜き取って鳩を放した。
『イモルキへ戻りなさい。イルベ連合に不審な動きあり』
は────ぁぁとアイリはため息ついた。
休暇中だぞと少女は鼻筋に
「どうしてイモルキなんだよ。ノーブルだって危ないじゃん」
ぼやきながらアイリは荷物をまとめ、クラウスと親父の
せっかくイモルキの政権交代させたのに次からつぎにとアイリは
なぜそれをくるんくるんは知ったんだろう。
アグネスが助け求めるほど切迫したんだろうか。だがアイリがイモルキを後にしてまだ一週間にもならなかった。
とても軍勢に迫られているとは思えない。
だが報せにイルベ連合に不審な動きとあった。
昔からイルベ連合は偵察者を方々の国に送り込んでいる。最小の軍勢で攻め落とせるとみた国をこれまで強引に連合へ加盟させている。順番からいえばこの次はノーブルのはずだった。
イモルキの政権が代わり混乱を突いてきたのなら、責任は自分にあるとアイリは思った。
アグネスは悪くない。
責任はわたしにある。
わたしに────。
くるんくるんの伝書にはイルベ連合に不審な動きとあり、
だが
あ────ぁ、気が重い。
ぶひ、名案だぁ!
アイリは鼻の下をのばしにやにやとしていた。
アイリが実家から旅立って四日目にイモルキの城下の防壁が見えてきた。
途中、少女はパトロールする近衛兵を見かけた。どの国も近隣警護はする。騎士や近衛兵が回るだけでなく郊外の町や村からも不審者の情報が上がる仕組みになっている。
国が安定しなくては
その伝手に何かが引っかかったのだろうかとアイリは考えた。
城に入ると真っ先にアグネスの元を訪ねた。居室にはおらず探し回ると厨房にいた。パン屋の
「アイリさん! お休み中だったのでは?」
開口一番がそれなら軍事侵攻なんてなかったのではとアイリは思い
「イルベ連合が不審な動きをしていると言われ来たんだが────」
「南の連合国ですか?
「くるんくるん──イルミ・ランタサルから」
あぁ──めんどくさぁ。
言いながらアイリはため息が出そうだったがグッとこらえた。
「どうしましょう。デアチに聞きに行くには遠すぎるし」
伝書鳩を使うにもイモルキとデアチはもともと交易がないので双方へ向けての伝書鳩はない。
馬をとばしても往復十日以上かかるので即座に対応するのに
「しょうがない。警戒態勢をとると騒ぎになるので警備の報告に細やかに耳を通すとするか」
アグネスと
アイリは無理に微笑んでみせて安心させようとしてアグネスに指摘された。
「アイリさん作り笑いぽい」
「作り笑い言うな。無理してるんだ。まあ、とりあえずなんにもない。心配するな。警備担当の騎士誰だっけ?」
「エスコ・リンタラです」
アイリは拍手した。
「おーしっかり管理してるじゃん。それじゃあそいつに会ってくるよ」
厨房を出てアイリは城の中をうろうろと探し歩いた。
「エスコか?」
「誰すかぁ?」
長椅子に全裸に尻にだけタオル載せた男が顔も上げずに問い返した。
「アイリ・ライハラだよ。新しい騎士団長の」
「あ? サウナいいっすよ。いかがっすかぁ?」
アイリは男の背におもいっきし片足をのせた。
「な、なんすかぁ!?」
「おい、ちょっと顔貸せや。ちゃんと前隠せよ。ちょん切るぞ」
アイリは警備担当の騎士をサウナから連れだした。