第4話 余興(よきょう)
文字数 1,993文字
蛮族と呼ばれる西の大陸の国の先、イルブイに入り馬を駆ってもさらに3日かかる。アイリ・ライハラら41騎は、デアチ国を発ちすでに7日馬に揺られていた。
「あ────ぁ、かったるい──」
斜め後ろに着く女剣士ウルスラ・ヴァルティアを名乗るテレーゼ・マカイが騎士団長に眼をやると、鞍 の上で猫背になり顎 を突き出した様 に呆れかえった。
ウルスラはアイリの馬に寄せると騎士団長に囁 いた。
「アイリ──威厳を持って身を正さないと信望も下がりますよ」
アイリはダレ切った顔を振り向け下唇を突き出しウルスラにボヤいた。
「だって────ぇ、かったるくて仕方ないんだもん」
成人しているように見えて中身はまだ少女なのだとウルスラは苦笑いを浮かべた。
「身を引き締めれば気分も高揚します。しゃんとなさい」
胡乱 とした眼差しでアイリはウルスラを見つめボヤいた。
「ウルスラ、お前、日に日に騎士道に目覚めてゆくよなぁ。本心はないの──?」
参謀長ヘルカ・ホスティラが聞いたら喜びそうなことを、とウルスラは眼が笑う。ふとアイリの視線が自分を通り越して後ろに向けられたことでウルスラは後ろを振り向いた。
鞍 に跨 がるどころか、野営用の毛布を巻いて鞍 を平らにした第2騎士のマティアス・サンカラがその上で出た腹を揺らして器用に寝そべっていた。
剣竜騎士団の同輩で古くから知ってるとはいえテレーゼ・マカイは眼を細めた。
「だらけると、いずれ行く末はああなるんですよ」
ウルスラはアイリに思いの丈を手渡した。
アイリ・ライハラは自分の腹を見下ろしてまた視線をマティアス・サンカラに戻した。
「いやぁ、あそこまで腹でねぇし」
そういう話ではないとウルスラは先鞭 をアイリへ振り向けた。
「だけどさぁ、お前ん国の剣竜騎士団って変人多いよな」
ウルスラは言われてカチンときた。
「あら、あなたの国のリディリィ・リオガ王立騎士団も変人が多いじゃないですか。あなたとか、ヘルカ・ホスティラとか、リクハルド・ラハナトス元騎士団長とか──」
アイリ・ライハラはウルスラを見つめると眼を寄せて唇をねじ曲げ指折り数え始めた。
「いやいや、お前らマカイ姉妹だろ。娼婦みたいなエステル・ナルヒだろ──」
「あなたがその騎士団長なのですよ」
指摘されアイリ・ライハラは下唇を突き出した。
少しの間、唸 っていたアイリは馬を下げると馬上でぐーすかと眠るマティアス・サンカラの横に並んで先を行くウルスラの方へ顔を向けた。
『止めておきなさい』
ウルスラが口パクでそうアイリに警告するとアイリは頭 振って鞭 を手に取り馬をマティアスの馬の尻に寄せた。
まったくすることが子供じみているんですからとウルスラはじっと見つめているとアイリは腕を振り上げ鞭 で馬の尻を叩 こうとした。
その振り下ろされた先鞭 が尻の後ろの空を切った。いきなりマティアスの馬が襲歩 で差を開きだしていた。
くそう。乗ってる奴がひねくれてると馬までひねくれるのかよ、とアイリは馬の腹を蹴っておっさんの馬を追いかけさせた。
追いついたところで今度こそとアイリは鞭 を振り上げた。
尻を叩 こうとした寸秒、いきなりマティアスの馬が後足を蹴り上げた。その動作にアイリの乗った馬が驚き竿立ちになると騎士団長は鞍 から転げ落ちた。
後続の馬が驚いて左右に分かれると、その間をアイリ・ライハラは息を切らして駆け自分の馬に追いつくと鐙 にやっと足をかけ鞍 によじ登った。
そのアイリの馬にウルスラは馬を寄せると騎士団長に囁 いた。
「だから止めておきなさいと言ったでしょうが。マティアスに関わると何人 も厄 に呑まれるんですよ」
それをアイリは不愉快そうに聞いて下唇を突き出した。
こいつ絶対に裏 の魔女のキルシにぶつけてやるんだとアイリは2人の先をのんびり歩み出したマティアスの馬を睨みつけた。
「アイリ、何だか雲行きが怪しくなってきました」
ウルスラに言われてアイリ・ライハラは顔を第2騎士から振り向けると遠い連峰から急激に暗い雲が伸びてくるのが見えボソリと言い捨てた。
「濡れながら揺られるのやだなぁ」
それを耳にしてウルスラが騎士団長に助言した。
「でも野営するにはまだ陽が高すぎます」
だが暗いそれは雨雲ではなかった。だんだんと風が強くなると一行の先に砂塵が渦巻いて中央の暗い影が人の形をし始めた。
アイリ・ライハラが手を上げて討伐隊 を止めると砂埃が静まりそのものが姿を現して名乗った。
「我は魔の国の大君 ──ベルゼビュートなるぞ」
名乗ったのは蝿 の王だった。
アイリ・ライハラはビシッと振り上げた手で悪魔を指さすともう一方の手で鍵束 のようなコインやシンボルの沢山下がった中から1枚のアイテムを選び出しそれを悪魔に向けると怒鳴った。
「ばっかじゃねぇの! 悪魔が自分から名乗るなんてよ。ベルゼビュート!」
途端に白煙を派手に上げ蝿 の王がのた打ちまわり始めた。
「あ────ぁ、かったるい──」
斜め後ろに着く女剣士ウルスラ・ヴァルティアを名乗るテレーゼ・マカイが騎士団長に眼をやると、
ウルスラはアイリの馬に寄せると騎士団長に
「アイリ──威厳を持って身を正さないと信望も下がりますよ」
アイリはダレ切った顔を振り向け下唇を突き出しウルスラにボヤいた。
「だって────ぇ、かったるくて仕方ないんだもん」
成人しているように見えて中身はまだ少女なのだとウルスラは苦笑いを浮かべた。
「身を引き締めれば気分も高揚します。しゃんとなさい」
「ウルスラ、お前、日に日に騎士道に目覚めてゆくよなぁ。本心はないの──?」
参謀長ヘルカ・ホスティラが聞いたら喜びそうなことを、とウルスラは眼が笑う。ふとアイリの視線が自分を通り越して後ろに向けられたことでウルスラは後ろを振り向いた。
剣竜騎士団の同輩で古くから知ってるとはいえテレーゼ・マカイは眼を細めた。
「だらけると、いずれ行く末はああなるんですよ」
ウルスラはアイリに思いの丈を手渡した。
アイリ・ライハラは自分の腹を見下ろしてまた視線をマティアス・サンカラに戻した。
「いやぁ、あそこまで腹でねぇし」
そういう話ではないとウルスラは
「だけどさぁ、お前ん国の剣竜騎士団って変人多いよな」
ウルスラは言われてカチンときた。
「あら、あなたの国のリディリィ・リオガ王立騎士団も変人が多いじゃないですか。あなたとか、ヘルカ・ホスティラとか、リクハルド・ラハナトス元騎士団長とか──」
アイリ・ライハラはウルスラを見つめると眼を寄せて唇をねじ曲げ指折り数え始めた。
「いやいや、お前らマカイ姉妹だろ。娼婦みたいなエステル・ナルヒだろ──」
「あなたがその騎士団長なのですよ」
指摘されアイリ・ライハラは下唇を突き出した。
少しの間、
『止めておきなさい』
ウルスラが口パクでそうアイリに警告するとアイリは
まったくすることが子供じみているんですからとウルスラはじっと見つめているとアイリは腕を振り上げ
その振り下ろされた
くそう。乗ってる奴がひねくれてると馬までひねくれるのかよ、とアイリは馬の腹を蹴っておっさんの馬を追いかけさせた。
追いついたところで今度こそとアイリは
尻を
後続の馬が驚いて左右に分かれると、その間をアイリ・ライハラは息を切らして駆け自分の馬に追いつくと
そのアイリの馬にウルスラは馬を寄せると騎士団長に
「だから止めておきなさいと言ったでしょうが。マティアスに関わると
それをアイリは不愉快そうに聞いて下唇を突き出した。
こいつ絶対に
「アイリ、何だか雲行きが怪しくなってきました」
ウルスラに言われてアイリ・ライハラは顔を第2騎士から振り向けると遠い連峰から急激に暗い雲が伸びてくるのが見えボソリと言い捨てた。
「濡れながら揺られるのやだなぁ」
それを耳にしてウルスラが騎士団長に助言した。
「でも野営するにはまだ陽が高すぎます」
だが暗いそれは雨雲ではなかった。だんだんと風が強くなると一行の先に砂塵が渦巻いて中央の暗い影が人の形をし始めた。
アイリ・ライハラが手を上げて
「我は魔の国の
名乗ったのは
アイリ・ライハラはビシッと振り上げた手で悪魔を指さすともう一方の手で
「ばっかじゃねぇの! 悪魔が自分から名乗るなんてよ。ベルゼビュート!」
途端に白煙を派手に上げ