第3話 多難

文字数 1,936文字


 示し合わせた翌朝、ファントマ城の城下街正門裏にアイリ・ライハラらは示し合わせ集まった。

 ミルヤミ・キルシの姉である表の魔女が実在するなら探しだすのにはまず伝承の地──北東の極限の地で暮らす少数民族のイウネ族に色々と確かめる必要があった。

 北のデアチ国でまだ防寒着も必要としないこの季節でも北東のイウネ族暮らす地は吹雪が舞うという。

 アイリ・ライハラ、ノッチ、ヘルカ・ホスティラ、テレーゼ・マカイは(おのれ)が乗る馬に積める防寒具では足らず、各人が別の馬を()きその馬に越冬(えっとう)の旅に必要な品々を積み上げた。

 イウネ族に受け入れてもらうため4人とも表立った武具は身につけず、流浪の旅人を思わせる粗末な着衣を用意した。

「軽く馬を駆ってイウネ族の地まで2週近くかかる。無理せず向かうとしよう」

 そうテレーゼ・マカイがアイリとノッチ、それにヘルカに言い北方の地に土地勘のあるテレーゼが先頭を行き2番手にアイリ、ノッチの順、殿(しんがり)をヘルカが受け持った。

 門兵に合図すると落とし格子が上げられ正門の跳ね上げ橋が下ろされ掘りを渡ろうとした4人は思わず手綱(たづな)を引いてしまった。

 跳ね上げ橋の先に馬に乗った豪勢な衣装のイルミ・ランタサルが待ち構えていた。

王妃(おうひ)、こんな早朝にどうされたのでしょうか!?」

 ヘルカが代表しイルミ・ランタサルに(たず)ねた。

「わたくしも表の魔女の真相を調べに一緒に行きます」

 それを聞いて即座に返せないヘルカに代わりアイリが応えた。

「くるんくるん、俺と旦那(だんな)は親父に顔見せにノーブルへ帰るし、ヘルカは単身南のイルベ連合の状況視察に、女剣士ウルスラは新しい(ソード)を頼みにいくだけじゃん」

 イルミ・ランタサルが眼を細めその表情にアイリは信用してねぇと思った。

「4人とも暖かな地を旅するにしては()き馬と多くの旅道具──丸めた防寒具をなぜそれほど積んでいるのです?」

 王妃(おうひ)に問われアイリが応えようとするとテレーゼ・マカイが説明した。

「もう秋の終わりも近く旅の夜に冷え込むことが心配だからです」

 王妃(おうひ)が挑む様な眼つきで4人の()く馬に眼をやり唇を軽く吊り上げている。それに気づいたアイリは面倒くさくなってきた。

 テレーゼもヒルダも馬術は相当に良い。くるんくるんを置き去りにして馬飛ばし逃げ切るか、とアイリは考え自分が先頭を走ればテレーゼとヒルダは付いてくると高を(くく)った。

 寸秒、アイリは馬の腹を蹴り込み手綱(たづな)を振った。

 アイリの馬は襲歩(ギャロップ)で一気にダッシュしイルミ・ランタサル乗る馬の横を駆け抜け少女はテレーゼとヒルダ、それにノッチが付いて来てるかと橋から離れ半身振り向いた。

 案の定、テレーゼとヒルダの馬が爆速ですぐ後ろを駆けていたがアイリは眼が点になった。



 ノッチ乗る馬が速歩(トロット)王妃(おうひ)の横を通り抜けようとしていた。



 それに合わせ王妃(おうひ)イルミ・ランタサルはゆっくりと馬の向き変えてノッチの馬に並び軽く歩かせ始めた。

 あぁ、駄目じゃん! アイリはそう思い手綱(たづな)引いて駆ける馬の足を落としヒルダとテレーゼも合わせすぐに馬を大人しくさせた。

 3人が馬の鼻面(はなっつら)を突き合わせ顔を見合わせているところにゆっくりとノッチとイルミ・ランタサル乗る馬が追いついてきた。

「何をそんなに急ぐのです?」

 王妃(おうひ)に問われアイリは警告した。

「銀盤の魔女がとんでもない奴だったらどうするんだぁ!? 帰れよくるんくるん!」

「あらぁ、狡猾(こうかつ)な魔女の智恵に貴女(あなた)方で(かな)うとでも?」

 しゃあしゃあと言ってのけたイルミ・ランタサルは3人に微笑んでみせた。

 アイリはなんだか額をイルミ・ランタサルに乗馬用の長鞭(ながむち)(たた)かれたような気になり唇をねじ曲げた。

王妃(おうひ)、表の魔女が危険だとわかったら真っ先にお逃げになるとお約束頂けるならご同行を認めます」

 ヘルカが妥協(だきょう)を持ちかけそれを聞いたアイリはもう駄目だと観念(かんねん)した。

 しかし、王妃(おうひ)の膨れ上がったピンクと白のスカートと飾りだらけの服、それに盛りもりの髪形はまずいだろ、とアイリは思った。

「やい、くるんくるん。お前の格好、北東の原住民達が魔女だと思ってしまうぞ」

 アイリは腕振り上げ指さした。

「あら? アイリとノッチの髪色こそイウネ族が(おび)えますことよ」

 イルミ・ランタサルがすまし顔で言い切りアイリはあ──言えばこう言うと鼻筋に(しわ)を刻んだ。

 イルミ・ランタサルの()き馬に積まれた荷物が旅に必要なものかヒルダが確認し防寒着と着替えそれに夜営用の毛布や敷きマット、食料と水以外はぽいぽいと放り出しイルミを慌てさせ、最後に銀のお茶道具一式を捨てられ王妃(おうひ)はがっくりと肩を落とした。



 命懸けの探査に贅沢品は不要だとどうしてイルミ・ランタサルは気づけないのかとアイリは不思議な気がして、こんなことじゃあ前途多難だとため息ついて馬を出した。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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