第16話 紅い悪魔

文字数 1,653文字

 ヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイが一行から別れ最初に選んだ居館(パレス)は近衛兵の宿舎だった。出合い頭に数との勝負になった。

 この時間に食堂のような広い部屋になぜこんなにいるのだと二人が困惑した直後、(ソード)二振(ふたふ)り引き抜き双刀(そうとう)で無双するヘルカに対しテレーゼは呪いの声で()ぎ払った。

 騒ぎに武具を手に駆けつけた新たな近衛兵らを次々と倒してヘルカらが大部屋から出たした寸秒、十人近い近衛兵らが大部屋横の階段を駆け下りてきた。

 下から順に力()くで()り倒すヘルカに対してテレーゼはバンシーの(さけ)びを上の近衛兵らに浴びせ(くず)し下の兵を巻き込んだ。

「上々だぁ!」

 意気揚々のヘルカにテレーゼは唇を(ひず)ませた。お前が倒してるのは三分の一だとテレーゼは思った。

 寸秒、階段(きわ)の奥の部屋から赤毛の三姉妹のようなアイリほどの背丈の黒い甲冑(アーマー)着た若い女騎士が現れた。

「姉様、虫が(まぎ)れ込んでいる」

「そうね姉様、デカい虫と紫の虫────」








 アイリが時折放つ威圧感を三姉妹は同時に放っておりテレーゼはヘルカに警告を発しようとした矢先にノーブル国の女騎士は小娘らに()り込んだ。


 一瞬、テレーゼ・マカイは幻覚を見たような気がした。


 黒い甲冑(アーマー)の三姉妹が揺れ動いたように見えた寸秒、大柄なヘルカ・ホスティラが身体のいたるところから血を吹き出させ両膝(りょうひざ)を落とした。

 虫の息のヘルカを助ける方法は一つしかなかった。

 テレーゼは呪いの(さけ)び声を三姉妹のような赤毛の騎士中央の双刀(そうとう)使いの小娘に浴びせたが、手応えがなく中央の騎士が揺れ動きながら向かって来るのが見えた。直後、三人三(よう)に揺れ動いたように見えたテレーゼは反射的に(ソード)で身構えた。

 いきなり何も見えなかった(くう)から二口(ふたふり)(やいば)が襲いかかってきてテレーゼの身構えた(ブレード)から火花が飛び散った。

 ()り込んでくる予兆が感じなかった。

 テレーゼは両腕に力込め(ソード)を振り切り赤毛の双刀(そうとう)使いの(やいば)を打ち返した。優勢に転じる機会があった。だがテレーゼ・マカイは発作的に跳び退(しりぞ)いて(ソード)を振り回した。その左右に踊らせた刃口(きっさき)から火花が飛び散って左右から赤毛の(いぶ)し銀の甲冑(アーマー)着た小娘と軽装の小娘が()り込んできた。

 殺気を感じるのに三姉妹のどれもが()り込んでくる気配を感じさせないことにテレーゼは困惑した。

 なんだこいつら!?

 まるで亡霊(ぼうれい)のような────!

「姉様、この紫、(かん)が鋭いよ」

「そうね姉様、こいつちょこまかと逃げるわ」

 下がりながらテレーゼは(いぶ)し銀の甲冑(アーマー)着た少女騎士へバンシーの(さけ)び声を浴びせた。

 その赤毛が揺れ踊ってテレーゼの呪いの(さけ)びが(かわ)され双刀(そうとう)使いと軽装の小娘が赤毛踊らせ中央と左から追い込んで来るのが見えた。

 見えているのに()り込んでくる気配をまったく感じさせない!?

 何だこいつらの気配!?

 やはり亡霊(ぼうれい)のようだとテレーゼは混乱しかかった。

 いきなり何の前触れもなく、双刀(そうとう)使いが正面から一気に間合い詰めて襲いかかって来るのが見えた。

 見えていながらまったく太刀筋(たちすじ)を読ませない剣技(けんぎ)にそれが赤毛の三姉妹の特技だとテレーゼは読み切ったが、(すき)を見切り反撃する間合いをつかもうとしながら、次々に三人から攻められてテレーゼはよろめきながら居館(パレス)の玄関先へと背で扉押し切り後退(あとず)さった。

 狭い場所だから眩惑(げんわく)されたのだと広い場所に立ち一気に三姉妹へ巻き返そうと一番押しの弱そうな軽装の赤毛の少女へ向けて()り込んだ。

 刹那(せつな)、中央の双刀(そうとう)使いと右手から(いぶ)し銀の甲冑(アーマー)を着た小娘が一気に()り込んでくるのが見えて攻めかけたテレーゼはまた押し返され防戦一方になった。

 場所の広さは関係ない。

 一人を倒そうとすると(すき)を突いてもう二人が押し返してくる。だが見えていながらまったく太刀筋(たちすじ)を読ませない亡霊(ぼうれい)()りあっているようだとテレーゼは苦戦し始めた。


「なに遊んでんだよ、テレーゼ!」


 背後から声かけられアイリ・ライハラだと気づいたマカイのシーデは騎士団長へ警告した。


「こいつら油断ならんぞ! まるで幽霊だ!」



 刹那(せつな)、赤毛の三姉妹がテレーゼとアイリ、アグネスを取り囲むように広がった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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