第2話 怒号(どごう)

文字数 1,592文字


 渓谷(けいこく)(さわ)幅一杯に広がった総勢五十二の騎士の円陣を前後から遠巻きに取り囲む人の肩までの背丈の深緑色をした醜悪な子鬼(ゴブリン)が百体余り。

 その合間あいまに人よりも二倍の上背と肩幅の砂色の(いか)ついトロールが二十体ほど。

 そうして子鬼(ゴブリン)らが左右に分かれ奥から出てきたトロールより低い焦げ茶色の岩が組み合わさったゴーレムが喰われに来たかと(あざけ)った。


(われ)の名はアイリ・ライハラ! 魔王討伐隊(とうばつたい)の将軍だ!」


 そうアイリ・ライハラが名乗り上げると、ゴーレムが名乗った。


「大魔族終焉(しゅうえん)の六災厄が一人──残虐の侯爵(こうしゃく)バザロフ様直属の配下──辺境の(たて)──ヴァロという!」


 名乗りにアイリは驚いた。

 たかだか魔物が名を持っている。しかも終焉(しゅうえん)の六災厄と言っている。あの厄介(やっかい)だった妖魔ヴェラと肩並べる将軍クラスの一人の直属の部下だと困惑した。

 だがやるべきことはたった一つ。

 こいつらは人の服従を得るために恐れを利用する手合いだ。

 叩き潰す。


抜刀(ばっとう)! 魔物らを刈り取れ!!」


 群青の甲冑(アーマー)に身をつつむ少女が男らに大声で命じ(みずか)らも青光宿す(ブレード)を引き抜いた。

 寸秒、ゴーレム・ヴァロが右腕を騎士先頭にいる青髪の小娘へ振り上げ怒鳴った。

者共(ものども)かかれ!!!」

 谷間に響く魔物らの叫聲(おらびごえ)と騎士らの大声が乱れ重なり、谷の南北へ向け騎士らが馬を進めた瞬間、石器戦斧(せんぷ)振り回す子鬼(ゴブリン)らとまず壮絶な打ち合いになった。

 一騎の騎士に対し二対の子鬼(ゴブリン)では勝敗は明白だった。

 手練れの騎士らが手綱(たづな)操り(あぶみ)蹴り込み馬を振り回しながら群がる子鬼(ゴブリン)らの頭上に素早く長剣(ロングソード)を叩き下ろし続けた。

 だが優勢も一瞬。馬の頭ほども上背があるトロールが石棒を振り回し襲いかかると騎士ら五人でも手に余り始めた。

 一気に十一体の子鬼(ゴブリン)と二体のトロールの額を(たた)き裂き()り倒したアイリは妖魔軍団率いるゴーレム・ヴァロへと馬を進めた。

 迫る赤い上目遣(うわめづか)いのゴーレムの(こぶし)の打撃を警戒していたアイリはいきなりヴァロが背後から石器戦斧(せんぷ)を両手に引き抜いたのを眼にして(あわ)てて手綱(たづな)引いて馬を止めた。

 ゴーレムは腕力で攻撃してくるものと決めてかかっていた。

 馬を()られたらこの先の進軍に支障が出ると、アイリ・ライハラは(くら)から横へ飛び下りゴーレム・ヴァロへと長剣(ロングソード)切っ先(ポイント)を振り向けた。

 馬から下りると対峙(たいじ)したゴーレムの背丈にアイリは一瞬気後れした。

 ディルシアクト城へ侵入した魔女ミルヤミ・キルシ操っていたゴーレムよりも頭二つは高い!

 その上背を生かし上から振り下ろしてくる石器戦斧(せんぷ)は加速と重量で危険だと少女は警戒した。


「ライハラという小娘よ。怖じずに(われ)対峙(たいじ)する勇気は認めよう。だが多くの勇者同様、その蛮勇に頭(たた)き割られるがよい」


 そう言い捨ていきなり踏み込んで石器戦斧(せんぷ)を振り回し真上から恐ろしい速さで(たた)き下ろしてきたゴーレムへアイリも踏み出し前へ構え上げていた(ソード)を凄まじい勢いで一旦背後の地面へと振り下げ一気に加速させ雷光の残像引き連れ迫ってくる戦斧(せんぷ)を迎え打った。

 分厚く重い(やいば)にアイリの振り上げた群青の(ブレード)激突した瞬間、ゴーレムとアイリの周囲に稲妻が爆轟放ち飛び広がって砂塵の突風が吹き荒れた。

 その石器戦斧(せんぷ)の一撃は本気だったが、真横から振り回されてくるもう一振りの戦斧(せんぷ)をアイリは見逃さなかった。

 素早く鉄靴(サバトン)のステップ踏み換え横へ跳びび上がり逆さまになった少女の振り回す群青の髪を(かす)戦斧(せんぷ)(やいば)が通り抜けるとゴーレムはその勢いで横へ一転し着地した小娘へ二口(ふたふり)戦斧(せんぷ)をもう一度横から襲いかからせた。

 アイリは両膝(りょうひざ)を一気に地面に着け後頭部を地面に落とし大きく()()るとその(あご)先を下の戦斧(せんぷ)(かす)りそうに飛び抜けた。

 寸秒、突風のように急激に(ソード)握る手を後ろ地面につき後転し跳び上がったアイリは地面に立ち長剣(ロングソード)をゴーレムへ振り上げ思った。



 こいつ合戦慣れしている騎士みたいだとアイリ・ライハラは三白眼でゴーレムの赤い双眼を睨みつけた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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