第17話 盛り上がり
文字数 1,863文字
イズイ大陸南方の死の渓谷 ドセビローの北側に広がる砂漠地帯に12万3千余りの天幕を設営し南方の魔族地帯への侵攻を控えアイリ・ライハラは膨大な人数の十字軍を野営させていた。
その前衛に近い中央の大型テントに各24万5千人余りを率いる4軍団の指揮官である軍団長の4名の大将が顔を突き合わせていた。
「渓谷は狭く隊列は千人規模の横列になり、先方が仮に接敵するれば膨大な時間の持久戦となるのは眼に見えております。さらに同時に左右の山間から魔族に襲撃されれば兵站 線を断ち切られ多くの兵を無駄死にさせてしまいますライハラ十字軍総大将殿」
そう述べているのは第2軍団長のドワーフ族出身の戦士のごとき背の低い厳つい体つきのウンタモ・マケライネンだった。
ドセビロー渓谷 は九十九折 れのようだと索敵 してきた騎兵が報告していたのを上げられてアイリは承知していた。
無理に行軍すれば魔族から簡単に叩 かれるだろうことぐらい16の小娘にも容易に理解できた。
「ライハラ殿、全軍を二つに分けドセビロー渓谷 を避けた東西から迂回し魔族らの軍団を東西から挟撃 しては如何 かな?」
そう言いだしたのは、紫紺の甲冑 着た高齢で鼻下から顎 にかけ白髪の髭面 ヘンリク・カンナス第3軍団長だった。
その提案にアイリは釘を刺した。
「迂回だぁあ? 回り込んだらどっちも二カ月近くかかる道のりじゃん。魔族の本城に着くころには食料の手持ちがなくなるじゃん」
それにヘンリク第3軍団長は抗弁した。
「いえ、ライハラ殿。イルベ連合からの兵站 を維持しつつじわじわと攻め込めば────」
アイリは腕組みしてヘンリクを睨 み据え喚 いた。
「却下! 却下だぁ! 魔王城に着くころにはそれこそ春過ぎて梅雨になるぞ! 雨でぬかるんだら騎馬隊の素早い展開ができなくなるだろうがぁ」
梅雨になれば騎馬隊が歩兵並みの遅い足並みになり全軍がのろのろと侵攻すれば魔族らの領地でいい袋叩きになる。アイリは侵攻がいかに面倒かと思い知った。
「渓谷 を進軍しつつ、両脇の山麓を歩兵で固めるのは如何 か? 東西に迂回するよりはずっと時間も兵の疲弊も軽微にすみますぞ」
山脈伝いに兵を進める? ただでさえ遅い兵らを山に送り込んだらにっちもさっちもゆかなくなるに決まってるじゃんとアイリはトルスティ・サーレラ第1軍団長の提案に眉根をしかめた。援軍に騎馬隊も使えず魔族らが空から襲ってきたら逃げることもできずに多くを見捨てることになりそうだとアイリは目眩 を覚えた。
無言のアイリの顔色を伺 うようにトルスティは繰り返した。
「ずっと時間も兵の疲弊も軽微にすみますぞ!」
アイリは無言で手描きの地図載せるテーブルを片手で叩 きトルスティ・サーレラは顔を強 ばらせた。
どいつもこいつもと青髪の少女は半眼で男らを見つめた。これでも軍団長にまで上り詰めてきた連中だ。幾つもの修羅場をくぐり抜けていてこれだ。アイリは小声で不満を吐いた。
「どつきまわしたろかぁ」
「えぇっ!?」
軍団長らが声を揃 えたのでアイリは顎 を引き上目遣 いで男らに言い切った。
「いいかよく聞けょ。お前ら野営して今日で五日目だぞ。ろくでもない作戦提案するだけなら、兵20だけで魔族らの領地に送りだすぞぉ」
21人でぇ!?
なんでも赤竜を一撃で倒すらしいこの総大将は少女のなりをしていて冷酷非道なのかと4人の軍団長は後退 さるとアイリの斜め後ろでじっと聞いているノッチがアイリの靴の踵 を蹴りつけ少女は振り向いて唇をねじ曲げたので名目上のアイリの亭主ノッチが口を開いた。
「大将らよ、百万の兵を持て余すのならこの私────ノッチス・ルッチス・ベネトスに命預けてはどうか?」
少女と同じ青髪をした若い男がとても武人には見えず大将らは困惑の表情で顔を見合わせた。
「ヨハネ・オリンピア・ムゼッティ教皇 様から御預かりし兵達をただ教皇 様の信任厚いというライハラ殿の夫君の貴兄においそれと指揮権を委譲はできかねます」
そう第1軍団長のトルスティ・サーレラがかしこまった面もちで丁寧に断るとノッチが押し殺した声で脅した。
「ほう? 貴男方四名で魔族らの領地に放り込みましょうか?」
何をこの若造はと小柄だが厳 つい第2軍団長のウンタモ・マケライネンが踏みだして総大将の夫に難癖をつけた。
「何を言うこの若造が! お前一人に何ができようぞ!我 はカラサテ教最大の宗派の総本山ヴィツキン市国の叩き上げの大将! ノッチかエッチか知らぬが────」
いきなりテーブルに雷撃が走り抜け左右に割れ倒れ男らが顔を引き攣 らせ跳び退 いた。
その前衛に近い中央の大型テントに各24万5千人余りを率いる4軍団の指揮官である軍団長の4名の大将が顔を突き合わせていた。
「渓谷は狭く隊列は千人規模の横列になり、先方が仮に接敵するれば膨大な時間の持久戦となるのは眼に見えております。さらに同時に左右の山間から魔族に襲撃されれば
そう述べているのは第2軍団長のドワーフ族出身の戦士のごとき背の低い厳つい体つきのウンタモ・マケライネンだった。
ドセビロー
無理に行軍すれば魔族から簡単に
「ライハラ殿、全軍を二つに分けドセビロー
そう言いだしたのは、紫紺の
その提案にアイリは釘を刺した。
「迂回だぁあ? 回り込んだらどっちも二カ月近くかかる道のりじゃん。魔族の本城に着くころには食料の手持ちがなくなるじゃん」
それにヘンリク第3軍団長は抗弁した。
「いえ、ライハラ殿。イルベ連合からの
アイリは腕組みしてヘンリクを
「却下! 却下だぁ! 魔王城に着くころにはそれこそ春過ぎて梅雨になるぞ! 雨でぬかるんだら騎馬隊の素早い展開ができなくなるだろうがぁ」
梅雨になれば騎馬隊が歩兵並みの遅い足並みになり全軍がのろのろと侵攻すれば魔族らの領地でいい袋叩きになる。アイリは侵攻がいかに面倒かと思い知った。
「
山脈伝いに兵を進める? ただでさえ遅い兵らを山に送り込んだらにっちもさっちもゆかなくなるに決まってるじゃんとアイリはトルスティ・サーレラ第1軍団長の提案に眉根をしかめた。援軍に騎馬隊も使えず魔族らが空から襲ってきたら逃げることもできずに多くを見捨てることになりそうだとアイリは
無言のアイリの顔色を
「ずっと時間も兵の疲弊も軽微にすみますぞ!」
アイリは無言で手描きの地図載せるテーブルを片手で
どいつもこいつもと青髪の少女は半眼で男らを見つめた。これでも軍団長にまで上り詰めてきた連中だ。幾つもの修羅場をくぐり抜けていてこれだ。アイリは小声で不満を吐いた。
「どつきまわしたろかぁ」
「えぇっ!?」
軍団長らが声を
「いいかよく聞けょ。お前ら野営して今日で五日目だぞ。ろくでもない作戦提案するだけなら、兵20だけで魔族らの領地に送りだすぞぉ」
21人でぇ!?
なんでも赤竜を一撃で倒すらしいこの総大将は少女のなりをしていて冷酷非道なのかと4人の軍団長は
「大将らよ、百万の兵を持て余すのならこの私────ノッチス・ルッチス・ベネトスに命預けてはどうか?」
少女と同じ青髪をした若い男がとても武人には見えず大将らは困惑の表情で顔を見合わせた。
「ヨハネ・オリンピア・ムゼッティ
そう第1軍団長のトルスティ・サーレラがかしこまった面もちで丁寧に断るとノッチが押し殺した声で脅した。
「ほう? 貴男方四名で魔族らの領地に放り込みましょうか?」
何をこの若造はと小柄だが
「何を言うこの若造が! お前一人に何ができようぞ!
いきなりテーブルに雷撃が走り抜け左右に割れ倒れ男らが顔を引き