第14話 好意のチョーカー

文字数 1,982文字

「アイリ、お出かけしましょ」

 イルミ王妃(おうひ)から持ちかけられた魔王討伐(とうばつ)を悩み顔で思案しているとアイリ・ライハラはくるんくるんから外に連れ出された。

「長い年月(としつき)ノーブル国はイルベ連合と争っていたので初めてこの街を見て歩くことで連合のことをもっと知ることができると思います」

 久しぶりにイルミに手を引かれて歩く青髪の少女は(おも)はゆかった。

 イルベ連合を初めて歩くのはなにもくるんくるんだけでなく、アイリ自身もヘルカ・ホスティラと少し歩き回っただけでまだよく知りもしなかった。

 ノーブル国のまったりとした街並みや北方デアチ国の沈んだ街並み、西の砂漠向こうにあるエキゾチックなイルブイ国の街の顔とも異なるイルベ連合最大の街は活気があり人々の生活力がいたるところに(あふ)れていた。

「見てご覧なさいアイリ──行き交う人の誰一人、(わたくし)達に好奇の視線を向けないでしょ」

 高貴な服装のイルミと青髪のアイリが連れ立って人ごみを歩いても誰も特別の視線を向けないのはイルベ連合が交易の国に他ならないとアイリは思った。

 それだけ珍しいものが沢山あるからに他ならない。

「これら交易の品々の百に一つをデアチ国城下町に持ち込めたらあの大国の色合いも暗いものから変わるでしょうに」

 ああ、くるんくるんは自分が治める北の地の国の活気を遠く南国に来ても気にしてるんだとアイリは思った。まあデアチはくるんくるんが王妃(おうひ)に着くまで武国で通してきて戦争ばっかで交易や(たみ)の活気は二の次だったからなぁとアイリは考えた。

「ほら、そこのお年頃のお二人さん! よっていきなさい! カラフルなアクセサリが沢山あるよ!」

 露天商のおばさんに声かけられくるんくるんが足を止めアイリも天幕を覗き込んだ。

 色んな女性向けのアクセサリがこれでもかと並べられている。たぶんデアチ国城下町の露天商十テント分以上の品物がここ一軒に出されている。しかも飾り物にあまり興味ないアイリでさえ眼を引かれる品物が沢山あった。

 イルミは赤い色の大粒の宝石がはまったブローチを指さし露天商のおばさんに尋ねた。

「これは何の石ですの?」

「ああ、それかい手に取ってごらんよお嬢さん。レッドスピネルさあ。大粒のその石はとても珍しいよ。挑戦、不屈、好奇心の石だよ」

 くるんくるんはそのブローチを手に取ってしげしげと見つめ、アイリはそれをイルミ・ランタサルが付けたいと考えているのかと思った。

「アイリ、このブローチ、ヘルカに似合うと思います?」

 えぇあの騎士道まっしぐらに!? とアイリは眼を丸くした。あの脳筋、甲冑(アーマー)は全部赤いもの好きだから似合わないこともないが、安物じゃないぞその石とアイリはブローチ手にするくるんくるんの顔をうかがった。

「あ、合うと、思う」

「おば様、このブローチには何か秘められた力はありまして?」

「お嬢さんお目が高いね。持ち主が心折れそうな時に手を当てるとこの石の赤い輝きのように勇気を奮い立たせる力があるよ」

 それを聞いたアイリはそんなのただの思い込みじゃんと思って内心くるんくるん騙されるなよと声に出さずに(つぶや)いた。

「いいでしょう。このブローチを頂きます。お幾らでしょう?」

 買うんかい!? とアイリは引いてしまった。

「ちょっと値が張るけどお嬢さんの美貌(びぼう)にお勧めしてお安くするよ。金貨二十枚でいいよ」

「頂きます。可愛い入れ物に入れて下さいまし」

 そう注文しイルミ・ランタサルはブローチを店主に渡しハンドバッグから硬貨入れの薄革の巾着(きんちゃく)を取り出しアイリにバッグを持たせ金貨を数え用意しそれをおばさんに渡した。

 それを見ていてアイリはヘルカ・ホスティラの困った顔を想像した。きっと高くつくと思うだろうな。

 イルミ・ランタサルは時々人に思いつきで色んなものをプレゼントとするが、お気になさらずと言いながらより多くの見返りを遠まわしに要求する。

 だが(たと)え魔王討伐(とうばつ)に行けと王妃(おうひ)が暗に(うなが)しても、あれは今ボロボロだからひと月ふた月は無理だと困惑する女騎士を思ってアイリは苦笑いの表情を浮かべた。

「何ですかアイリ、この贈り物が気に入らないと?」

「いやぁ、そんなことねぇよ」

 戸惑い顔の女騎士を想像しアイリは笑いそうになるのを必死に(こら)えた。

「さてあなたに似合いそうな────」



「いらねぇ」



 ぼそりと言い返すとくるんくるんが半眼で少女を見下ろした。

 それだよ。その目つきだよ! 魂胆(こんたん)があるからだろうが、と思ってもアイリは口にしなかった。やぶ蛇だぁ。

 するとイルミ・ランタサルは並ぶアクセサリから青い石の入った銀の指輪を手に取ったので少女はぼそりと釘を刺した。

「サイズ合わねぇ!」

 イルミ・ランタサルは指輪を戻すと店主に尋ねた。

「呪いの首輪(チョーカー)ございます? 命じると首が締まるような」

 微笑みながらそう尋ねるイルミ・ランタサルの横顔を見てアイリ・ライハラは顔を引き()らせ後退(あとず)さった。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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