第230話 越前国(1)勝利の分け前①

文字数 670文字

 夏の影も濃い初秋に出馬し、
およそ二十日の間に信長は越前・加賀をほぼ平定し、
その二国各地に警固の将を配備して、
威光はますます輝いた。

 戦が終われば論功行賞となる。
 信仰が町々の礎とも言える越前で、
多大な犠牲を払いつつ踏み留まり今回
平定戦の地ならしをした柴田勝家は、
越前の八つの郡を賜った。
 
 大野郡の三分の二は金森長近に、
三分の一は原政茂に与えられ、
共に美濃の出である二人は本隊とは別働で、
瞬く間に越前大野を陥落させた功績が、
殊の外、信長の覚えが良かった。
 
 とりわけ、壮年の長近は、
信長の元服前から織田家に入って忠義は厚く、
近江育ちであるせいか、
武のみならず風流を()り、
賢才ぶりが鼻にはつかず、
織田家有数の武人として誰もが認める名将だった。
 美濃源氏土岐氏支流の家柄で、
土岐氏の後継争いに敗れて失脚、
近江へ流れた金森家の長近が先見の明をもってして
織田家先代に仕えたことを端緒とし、
こうして大野城主となったのだから、
艱難の道を歩んだ長近の喜びようは想像に易く、
仙千代は発令書に、
信長もこの沙汰は格別慶祝の思いであらせられると
添えた。

 仙千代が書状の管理をすることは、
平時も戦時も変わりなく、
陣を敷いている北庄(きたのしょう)では、
菅谷長頼が信忠軍の東濃岩村へ使者で出たのと入れ替わりに
堀久太郎秀政が来援し、
仙千代には大きな助けとなった。
 長頼、秀政は仙千代にとり上席で、
知識も知恵も仰ぐばかりの先達だった。

 「仙千代!久しぶりだな!
およそ二月(ふたつき)、いや、三月(みつき)か。
おお、幾らか背が伸びた。
何やら大きゅう映る」

 秀政は長旅の疲れも見せず、
相変わらず爽風の主だった。

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