第216話 北陸平定戦(8)青と赤の炎②

文字数 659文字

 決戦初日、夜の本陣に、
勝利の報が次々届いた。
 諸将の戦いぶりは眼を(みは)るものだった。
 信長は今回の戦いで、
光秀と秀吉を組ませていた。
 朝倉義景、浅井長政の挟撃に遭い、
瀕死の憂き目で命からがら京へ戻った信長を、
殿(しんがり)となり、決死の働きで救ったのが、
光秀と秀吉だった。
 老獪な光秀、突破力の秀吉は良い組み合わせで、
今や織田軍の瑞祥と言え、
この日の戦績も他軍を圧倒していた。
 
 明智と羽柴は、
敵兵からの猛撃を鮮やかに攻め崩し、
二、三百を討ち取った。
 更に城へ打ち入り火を放ち、
十五日の当日夜には敵の首を本陣へ届け、
首級実検が行われる間にも二人は軍勢を進め、
次には敵砦に忍び込んで乗っ取ると
焼き討ちを行って敵兵を退却させ、
尚も追撃すると
加賀・越前の一揆勢二千余人を斬り捨てた。
 
 明智、羽柴、両軍の手柄は本陣を沸かせ、
信長は留飲を下げた。
 
 二年前、
尾張に接する伊勢長島は顕如によって、
どれほど織田家の血が流されたのか。
 九人、いや、十人か。

 信次、信道、信広、
信成、信昌、秀成……
 儂の手足、血肉を奪ったあの怨み、
決して決して忘れぬぞ!……

 裸に抜刀の狂信者達は木瓜紋に突撃し、
信長、信忠こそ別条はなかったが、
濃縁の連枝衆が海をその血で深紅に染めた。
 思えば小木江と鯏浦(うぐいうら)の城主、
信興(のぶおき)が孤立無援で六日間を耐え、
八十柱の勇士達と自害して果てた五年前から、
信長の顕如に対する復讐心は心奥で燃え続けていた。
 今日、信長に侍り、
親衛を務める菅谷長頼も長島で兄が討死している。
 北陸平定は信長にとり、
復讐を果たす悲願の戦でもあった。
 








 
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