第233話 越前国(4)勝利の分け前④

文字数 728文字

 (まつりごと)は分からぬとした上で重勝は、
 
 「富裕でならす坂本の地。
知行を望む誰もが垂涎の坂本を、
明智殿に賜った上様であらせられれば、
いずれ丹後も時をみて、
明智殿の御支配とされるのやもしれませぬ。
なればこそ、此度も出馬をお命じになられた。
 一色義道なる将、恩義に報い、
余程の忠節を尽くすなら、
三年、五年、十年の後も丹後の主でおられましょう。
 なれど微塵でも疑いのある動きをすれば、
明智殿が黙ってはおられますまい。
上様の御深慮を何と心得ると、
明智殿なら必ずやお思いに。
 また、この出陣で、
明智殿は益がないといえば益が無い。
上様の御命令を果たし、
ただ御覧に入れてみせる以外は。
 むしろ三年、五年の後の収穫を待つおつもりか。
穿(うが)ち過ぎでございましょうか」

 と角のない独特の口調で述べた。

 仙千代が重ねて問うた。

 「なれば源吾。
武功をあげた一色が丹後を安堵されたとしても、
数年後またも別心を抱くやもしれぬと?」

 「上様が何方様より御存知であられましょうが、
この間の一色殿の身の処され方、
多大な信を置くは難しいものがございます。
さしたる時を経ず、
あちらに付いてはこちらを裏切り、
まるで振り子のよう。
(しがらみ)の多い土地柄で、
かつ、幕府の高家であったという誇りが
邪魔立てするのでしょうか。
殿様は家名が大事でありましょう、
なれど足軽、農兵、民草はまずは飯。
我が身は落ちても人心安定、
民の満腹が大事だと思われませぬのか。
家名は善政を敷いてこそ……」

 それこそ今は、
天下人の近侍に仕える身だと気が付いたのか、
源吾は珍しく慌て、

 「最後、口が過ぎました」

 と詫びた。

 秀政がくっくと笑った。

 「腹に一物、二物。
源吾殿、僅かの間に鍛えられましたな、
万仙の底意地の悪さが伝播したのか」

 と言った。

 
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